第3話:シェリアに秘められし秘密

「本当にその名前でいいのね?」

 ユーノが問う。

「はい!」

 堂々と答えた聖剣ちゃん…もといシェリア。

「その名前、時渡くんが考えたのよ」

「え!?」

 シェリアは驚く。

「マジか…」

 時渡も驚いている。

「な?言ったろ?絶対そうなるって」

 イグニスはドヤ顔をしながら時渡に言う。

「いや…最初はそんなまさかとは思ってたけど上位の候補になってからびっくりしたよ…」

「じゃ、時渡」

 イグニスは時渡の肩を叩く。

「…」

 肩を叩かれた時渡の目はこれでもかというくらい死んでいる。

「ジュース3本奢りな!」

「うぎゃあああああ〜〜〜〜〜〜!!!!!」

 時渡は頭を抱えながらその場に崩れ落ちる。

 勝ち誇っているイグニスと同時に時渡の断末魔が教室に響き渡った。

「あっはっはっいいねぇ〜!青春してて!」

「マスター!大丈夫ですか!?」

 シェリアは時渡を心配して駆け寄る。

「体は大丈夫だけどメンタルと財布が大丈夫じゃない…!」

「ほら時渡〜行くぞ〜」

 イグニスに衿の後ろを掴まれながらズルズルと時渡は引きずられていった。


「ううう〜」

 カラになった財布を逆さまに振りながらべそをかく時渡。

「よりによってコイツ一番高いエナドリ3本も買いやがった〜」

 時渡は音量がでかすぎる独り言を言う。

「はっはっは〜!大量大量〜!」

 イグニスは高笑いする。

「このクソ野郎!」

「ぬはははは今の俺は何言われても無敵でござる!」

 イグニスは目がガンぎまっている。

「マスター!」

「あ〜シェリアぁ〜」

「校長先生がお呼びです」

「あ!そうだ!行かなくちゃ!」

「行ってら〜」

 イグニスが見送った。


 コンコン

「「失礼します」」

 時渡とシェリアは校長室に入る前に一礼する。

「おお、来たか」

 校長はあの本を持ったままウロウロしている。

「で…確か…Ⅻ聖鍵…でしたっけ?」

「そうじゃ。よく覚えておったの」

「で、なんですかそのⅫ聖鍵って…?」

 校長は全面が本棚になっている校長室の一冊の本に手をのばす。

 スッー

 その本が校長の手元に寄ってくる。

「ニコラテウスは知っとるじゃろう?」

 時渡は眉間にシワを寄せる。

「ニコラテウス…えっと…はい。確か中2の時に習いました」

「どんな人物だったか覚えておるかの?」

「鍛冶師ですよね?ビフォアゲートの」

(※ビフォアゲートとは、この世界にゲートが出現する前の時代のことと指す。つまりまだ現代が異世界と融合する前のことをいう)

「ビフォアゲートよりもっともっと前の時代じゃ。魔術世界大戦時代じゃ」

「あれ?そんなに昔でしたっけ?」

「あとでまた勉強しておきなさい」

「すみません…」

「ニコラテウスが鍛冶師としてどんな活躍をしたか言ってみなさい」

 時渡は手に顎をつけて考える。

「えと確か…魔術世界大戦で本来なら地球の書架でしか発生しない聖剣を自分で作り出してダンタリア王国を勝利に導いた…んですよね」

(地球の書架:聖剣が生み出される聖域のこと。この世界の記憶を聖剣という形で生み出すという性質を持っており、入るには特別な許可が必要。世界遺産に登録されている。)

「正解じゃ。そしてニコラテウスが作り出した聖剣は24本」

「24本…」

 校長はシェリアを見る。

「君じゃよ。そのうちの1つの聖鍵は」

「「えっ」」

 時渡とシェリアは同時に声が漏れる。

「えええ〜〜〜!?!?!?シェリアそんなにすごい剣なの!?」

「ええ〜〜!!!でも私にも記憶が無いですぅ〜〜!!!」

「記憶がないのは無理はないじゃろう。魔術世界大戦の後に約8000年も封じられていたのだからな」

「え!?つまりシェリアは8000歳なんですか!?」

 なんともデリカシーのない事を聞く時渡。

「いや、封じられていたのだから年齢も姿も当時のままじゃろう」

「そうなんですか?」

「魔術世界大戦中、理由は不明じゃがニコラテウスは聖剣を鍵という形にして人間の体に封じ込めたという記録が残っておる。恐らくその一人がシェリアなのじゃ…というよりなぜシェリアと呼ばれておるのじゃ?」

「さっき決めました」

「おお、そうじゃったか。良い名じゃな」

「…それで…シェリアがⅫ聖鍵の一つで…どうしたんですか?」

「あ〜そうじゃったそうじゃった。聖鍵の力の解放のやり方を教えるつもりだったのじゃ」

「力の解放…」

「衣服で見えんかもしれんが、シェリアの胸に鍵穴があると思う」

「鍵穴!?」

「はい。確かにあります」

 シェリアは答えた。

「あるの!?」

「はい。マスター。私の胸には鍵穴の形をしたトライバルがあります」

「トライバル?」

「トライバルっていうのは…そうですね…幾何学模様の入れ墨…といったところでしょうか…」

「あーなるほど」

「お主の抜いた聖剣の先が鍵のようになっていたのはそれが理由じゃ」

「じゃあその鍵を使ってシェリアの胸の鍵穴で聖鍵を解放すると…」

「そういうことじゃ。ただし、このような密閉空間で解放するのは厳禁じゃ。無限にも近い聖鍵の魔力で辺りのものが跡形もなく消し飛ぶからの」

「わ、わかりました…」

「…少し聞いておこう」

 校長の表情が険しいものに変わる。

「なんですか?」

「聖剣を引き直す気はあるか?」

 意外な質問をされた時渡。

「え?そんな事出来るんですか?」

「出来るぞ。…これはあまり言うべきでは無いのじゃが、やはり正直に話しておくべきじゃな」

 室内の雰囲気が重苦しいものに徐々に変わっていく。

「この聖鍵は誰もが狙っておる。…そりゃ戦争を勝利に導くほどの聖剣じゃからの。もしかしたらシェリアを狙った者がお主の寝首をかくかもしれん。そしていままでその子を引き抜いたがその力を扱うのを拒んだり死にたくないと思った者が沢山いる。…今ならまだ引き返せるぞ?」

 ガシッ

 シェリアは時渡の腕を掴む。

「嫌です…嫌ですそんなの…もう…」

 シェリアの顔色がどんどん悪くなっていく。時渡は気づいた。シェリアが引き抜いた時にあんなにも喜んだ理由を。

「…引き直しする場合…シェリアはどうなるんですか?」

 校長は淡々と答える。

「強制的に聖鍵の姿に戻し再度剣の間に突き刺す」

「…」

 時渡は黙ったままだ。

 シェリアの手が小刻みに震えているのが分かる。

「マスター…」

 涙を浮かべながら何かを訴えかけてくる。

 時渡は無反応だ。

「もう…あんな暗いところに閉じ込められるのは嫌です…自由になりたいです…この広い世界を見て回りたいです…!」

「…」

 変わらず時渡は無反応のまま。

「校長先生、シェリアの記憶を消すことって可能ですか?」

「……!」

 シェリアは時渡が自分の記憶を消させて聖鍵に戻すつもりだと当然察することができた。

「可能じゃよ」

 校長は深く頷いた。

「んでもやめときます。引き直すの」

「え!?」

 シェリアはてっきり戻されると思っていたので時渡の予想外の返答に驚く。

「ん?何?嫌なの?」

「いや…そういうわけでは…」

「じゃあいいでしょ?」

「…はい!」

 シェリアは涙を拭った。

「本当にいいのか?」

 校長は時渡に念を押す。

「はい。なんか…シェリアを戻して引き直ししたとしても寝覚めが悪い思いしそうなんで」

「なるほど彼女ではなくお主の問題なのじゃな」

 校長は髭をいじりながら言った。

「他にまだ話はあるんですか?」

「いや、これでおしまいじゃな」

「じゃあ僕たちはもう帰って大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃ。貴重な高校人生最初の放課後を奪ってしまって悪かったの」

 勝手に校長室のドアが開く。

「じゃ、時渡、また明日」

「はい。また明日」

 時渡とシェリアは校長室を出た。

「…」

 俯いているシェリア。

「どうしたん?」

 時渡はシェリアの顔を見る。

「私…大丈夫でしょうか…今になって不安になってきてしまいました…」

「大丈夫だよ」

 時渡は歩き出す。

「どうして言い切れるんですか…?」

 シェリアは時渡の後をついていく。

「校長先生はあんな事言ってたけど多分ありゃ僕の事を試してるね」

「それは…どういう…」

「簡単だよ。だって学校の名前を傷つけるわけにはいかないからもし本当にそんな事があったとしても校長先生やほかの先生が全力て阻止するはずさ」

「なる…ほど…」

 シェリアはぎこちない頷き方をする。

「だから安心して。そんなやったらめったにシェリアを捨てようとなんてしないからさ」

「…はい!マスター!」

 シェリアの開花した華のような笑顔を見て時渡は笑った。

 …そして廊下にピンバッジサイズの人の耳の形をした物体が落ちている。

 校長は耳をすまして聞いている。

 魔法道具の盗み聞きイヤホンの力だ。

「時渡…あやつ、見かけに似合わず相当な策略家じゃの」

 校長先生は魔法のコーヒーカップを手に取って湧き出てくるコーヒーを啜った。

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