第2話:その聖剣、人となりて
「え?でも、私を抜いたのはあなたなんですよね?それでは、あなたは私のマスターということになるのでは?」
美少女はこんがらがってしまったのか、目をパチクリさせて首を傾げて悩んでいる。
「いやそういうことじゃなくってただ単に僕がマスターって呼ばれるような器じゃないから他の呼び方にして欲しいってことであって…あっ痛ッ」
時渡は頭を押さえる。
「おい時渡…大丈夫かよ…」
イグニスは時渡を心配そうに見ている。
「なんとか。…君名前なんて言うの?」
美少女はキョトンとしている。
「私に名前はありません」
「あーそういうパターン?」
時渡は適当に名前を考えようとするが考えようとすればするほど酷い頭痛がするのでやめた。
「あの〜校長先生…」
時渡に呼ばれても校長は返事をしない。
「…先生?」
「は…はわ…はわわ…」
震えながら立ち尽くしている。
「…どうしたんですk
「時渡がⅫ聖鍵を抜きおったぞおおおおおおーーーー!!!!!!」
シーン…
校長は大歓声が起きると思っていたのに逆に静まったので違和感を覚える。
「あ、あれ?皆どうした?」
ヒソヒソと話し声が聞こえる。
「何?Ⅻ聖鍵って?」
「あんなふうに人間みたいになれるんかね?」
「リア充爆発しろ」
最後だけ雑念が混じった声が聞こえたが校長はスルーした。
「お主、時渡といったな?」
「あ、はい」
「今日の放課後、校長室に来なさい」
「それってこの…この子の件でですか?」
「左様。忘れずに来るように」
校長は全生徒の方に向き直る。
「皆の衆!よく聞いて欲しい!お主たちはこれから一生共に冒険する相棒が決まった!これから沢山の困難や試練が皆の前に立ちはだかることだろう!しかし安心して欲しい!例えどんな事があっても、お主らが諦めない限り、聖剣はお主たちの側に必ず寄り添い、頼もしい味方となることだろう!それでは、担任の先生に従って教室に向かいなさい」
全員整列して教室へと向かった。
教室に入ると机の右上に自分の名前が書かれたシールが貼られており、席が分かりやすくなっている。
「俺の聖剣こういうのなんだ〜」
「私の聖剣刀身が光ってるの!」
皆それぞれ自分の聖剣を見せあっている。
…ただ、一人を除いて。
「イグニスの聖剣かっけぇー!」
「ヘヘッだろ?正に四大属性って感じがするだろ!?」
イグニスは四大属性の火を司る聖剣なだけあって、クラスメートに注目されていた。
イグニスは皆に自慢しながらチラッとある方向を見る。
顔が見えないくらいダークなオーラを放ちながらゲンドウポーズをしている男。
他でもない時渡だ。
「マスター、みんなの聖剣もかっこいいですね!」
「…」
「…マスター?」
「だからマスターって呼び方やめなさいって…」
クラスで浮きに浮いてしまい、聖剣の見せあいにも参加できなくなった時渡。
これがもしも物理的な話だったら天井に上半身がめり込んでいるところだろう。
どうしようか迷った末、イグニスは時渡に話しかけてみることにした。
「あ…あの…時渡?」
「な゛に゛?゛」
「うわ!」
時渡の顔はほぼ死んでいた。
これでもかというくらい生気が感じられない。
目の下に極太のクマができている。
「あ、いや…ま、まぁ…良かったんじゃねぇの?可愛いし、なついてるって言い方は変かもしれないけど…」
「可愛いのどうのこうのじゃなくて僕の高校生活全部一瞬で丸潰れだよ…」
「お前どういう高校生活想像してたんだよ…」
「青◯ブタ野◯シリーズみたいなの」
「何十年前のラノベだよ…」
ガラガラガラガラ
「はーい聖剣見せあってるとこ邪魔して悪いけど席についてー」
メガネをかけた女性教師が教室に入ってきた。
「どもーこの三年間君たちの担任をするユーノって言いまーす。ユーノ先生って呼んで下さーい」
先生はショートカットで縦セーター、しかも縦セーターのせいで下を履いているか分からないというだいぶなド派手な出で立ちで現れた。
そしてそれとはミスマッチしているジト目。
オタク教師という言葉がよく似合う。
「うちは普通科だけどある程度冒険者としての履修はするから一番教科多いし教科書の数も多いけど我慢してねー。あ、聖剣机からどかしてね」
ドサドサドサッ
机の上に教科書が転送されてくる。
「聖剣の鞘は後でオーダーメイドされるからこのプリントにどんなタイプがいいか書いといてー。先生ちょっと用があるからー」
ユーノは教室を出ていった。
配られたプリントの上には”鞘注文書”と書かれており読んでみると色々なタイプがある。
鉄素材の鞘や革で作られた鞘、木製の鞘など色々だ。
この中から自分に合った鞘を選んで注文すると今日の放課後までには作られて届けられるというワケだ。その上要望を書き込んでおけばその通りにしてくれるという充実ぶり。
皆隣の席の友達や女子たちは集まってどの鞘にするか考えている。
「時渡はどんな鞘にするんだ?」
「ねぇイグニス絶対それわざと言ってるよね?」
イグニスは時渡の聖剣が聖剣とはかけ離れた姿をしていることが頭からスッポ抜けていた。
「あ゛ッ!ごめんそんなつもりで言ったわけじゃ…」
「まぁいいよ。イグニスはどんなのにするの?」
「うーん…俺は肩掛けタイプの鞘がいいんだよな〜、前に剣術練習してた時に腰につけるタイプの使ったら手ぇ切っちゃってさ。だから背中から抜くタイプの方が危なくないなって思ってさ」
「なるほどね〜、前にでっかい絆創膏貼ってたのってそれだったんだ」
「そういうこと。あと素材だよな。軽いから革もいいけど鉄もかっこいいじゃん?」
「まぁ鉄のほうがかっこいい感じはするよね。あ、でも革だと燃えちゃうんじゃない?鉄だと火傷しそうだし…」
「そこはちゃんと対策してある。不死鳥の羽と火鼠の毛を織った布を鞘の内側に貼ってもらうつもり」
「あーそれならいいかもね。危なくないし」
「最初氷属性の石を使おうって思ってたんだけど魔力弱まるしどうしようって思ってたんよ。で、ググってみたらその布使うのが最適解って書いてあった」
「でも高くない?」
「それくらいの出費は仕方ない。財布に大ダメージだけど」
イグニスはトホホ…と呟きながらプリントに要望を書き始めた。
時渡も考えなければいけないと思い美少女に話しかけようとするが、
「あれ?」
忽然といなくなっていた。
「あらら?どこいった?」
辺りを見回したらいた。
「すごく綺麗〜お人形さんみた〜い」
「すっごい美人だよね〜私もこんなふうになりたいなぁ〜」
女子たちにめちゃくちゃ話しかけられている。
「……………」
時渡は複雑な目で見ている。
「お、聖剣ちゃん結構人気じゃん」
イグニスは美少女を聖剣ちゃんと勝手に名付けてその姿を見ていた。
「めっちゃ話しかけられてるじゃん…僕と違って」
「お前が陰キャ過ぎるだけやろ」
「だよなぁ〜……ってイグニステメェ今なんつった?」
時渡は立ち上がる。
「冗談だってば!」
イグニスは今にも自分を殺しそうな時渡から殺意を感じて逃げた。
「あ!マスター!」
聖剣ちゃんが近寄ってくる。
「だからそのマスターって呼び方やめなさいって何回言わせるつもりなのよ全く」
時渡は呆れてため息をつく。
「じゃあなんて呼べばいいですか?」
「え…」
マスターと呼ぶな呼ぶなとは言っていたがいざ自分がなんて呼んでほしいかとなると全く考えていなかったため時渡は固まる。
「え〜…あ〜…う〜ん…」
少し考える。
「名前呼びでいいよ。うん」
時渡は結果そう答えた。
「分かりました!時渡様!」
「様はやめようか」
「じゃあ…時渡さん?」
「うん。それでいいよ」
聖剣ちゃんは少し悩む。
「でもやっぱりマスターがいいです!」
「えぇえぇ〜〜…」
「時渡、この際もういいんじゃねーの?その子がそうしたいって言ってんだし」
「うーん…分かったよ…」
時渡は渋々認めた。
「…ん?待って、僕まだ名前教えてないよね?なんで知ってるの?」
「マスターが抜いた時にマスターの情報がある程度私の中に流れてきたんです」
「ほへ〜なるほど〜」
「他にも例えば小学4年生の時におねしょしたこととかも知ってますよ!」
「やめてよそれ言うの!」
時渡は顔を真っ赤にする。
「小4でおねしょか…」
イグニスはしみじみとしている。
「イグニス、次それ言ったら殴るから」
時渡は殺意の波動を放つ。
「だから冗談だってば!」
イグニスは冷や汗をかいた。
「そういえば君の名前決めてないよね。聖剣ちゃんだとなんかアレだし…」
「じゃあみんなで決めるか!」
イグニスが提案した。
ガラガラガラガラ
「みんなかけたかな〜?…って何してるの?」
ユーノは黒板に何かを書こうとしているイグニスを見て言った。
「あー、時渡が抜いた聖剣ちゃんのちゃんとした名前決めようかな〜って…」
「ふ〜ん…」
先生のジト目が更に深くなる。
「す、すんません。後でにしま〜す…」
イグニスがそそくさと退散しようとしたその時だった。
「めっちゃいいじゃん!それこそ青春だよ青春!!」
ユーノは目をキラキラさせている。
「は?」
イグニスはユーノの予想外の反応に気が抜けた声が出た。
「じゃー決めてくわね〜」
カカカカカカカカッッッ
ユーノは尋常じゃない速さでチョークを動かす。
バンッ
黒板を叩く。
[聖剣ちゃんの名前を決めよう計画]
と書かれたそれをバシバシ叩きながらユーノは言う。
「去年の生徒はみんなこういうのしようとしなかったから先生張り切っちゃうからね!」
思いの外ノッてくれたユーノのおかげもあって、大盛りあがりの中聖剣ちゃんの名前を決めることになった。
出た候補の中から上位を勝ち取った候補は全部で5つ。
・アリア
・ジャスミン
・シェリア
・カノン
・ユーリ
の5つ。
この中から聖剣ちゃん本人に選んでもらうのが一番フェアだというユーノの考えの基、今現在目隠し中の聖剣ちゃんに決めてもらうことになった。
「時渡くん、聖剣ちゃんの目隠しを外してあげて」
「はい」
時渡は聖剣ちゃんの目隠しを外す。
「聖剣ちゃん、今から候補を見せるからその中から選んで」
「はい。マスター」
「はい皆伏せてー!」
ユーノが呼びかけると皆伏せる。
「どれになるんかね?」
「どれもかわいいけどね〜」
とヒソヒソ話す声が聞こえる。
「これにします!」
そう聖剣ちゃんが言うと皆一斉に顔を上げた。
「あ〜、やっぱりそうなったか」
「もうほぼ出来レースじゃん」
「これ運命レベルだな」
と皆どこかもう答えが分かっていたかのようなリアクションをする。
「え!?」
しかし驚いている者が一人だけいた。
彼女の名前はシェリアに決まった。
そしてその名前を提案したのは時渡だった。
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