Ⅻ聖剣〜異世界と現代が融合して30年が経ちました。〜
@kuruttakyouiku
チート武器1本あれば学園内無双できる説
第1話:チートすぎる聖鍵が抜けた件
30年前
異世界転生、小説や漫画、アニメにおけるサブカルチャーのジャンルの一種であるコレがフィクションであるというというごくごく当たり前の現実は突如として終わりを迎えた。
何がどうなって終わりを迎えることになったのか、順を追って説明していこうと思う。
ある日突然、世界各地に空中に浮かぶ巨大な円形の機械仕掛けの物体が現れた。
この円の中から海に向かって光が降り注ぎ、大陸を作り上げた。
それと同時にダンジョンやモンスターが出現し、更にそれを追って異世界から冒険者達がやってきた。
彼らはこの物体は魔力の源や無限とも言える資源だと伝え、この大陸に住み始めて日本やアメリカなどにも移住し始め、最初こそ混乱が続いていたが意外とそう何年も立たないうちに馴染むようになり今に至ったのだという。
[聖剣]
アカシックレコードの”記憶”そのものが剣として錬成されたと言い伝えられている剣の中でも最高峰と言われる武器。
[アルカディア学園]
聖剣の一部を所有している、一流の冒険者を目指す若者たちが通う名だたる冒険者たちを輩出した名門校。
今年も冒険者になるために様々な夢や野望を心に宿した者たちが入学してくる。
…ただ、たった一人、彼を除いて。
アルカディア学園は全てのジョブに対応したカリキュラムが充実しており、寮も生徒の人数分完備されている上に毎日三食付きという至れり尽くせりな学園都市である。
この学園の名物といえば、入学式の後に行われる聖剣授与式だろう。
この聖剣を手に入れるためにアルカディア学園を目指す者も少なくない。
そして今年もその聖剣授与の季節がやってきた。
巨大な門が構えられた真っ白な建築物。
”剣の間”と呼ばれるアルカディア学園の東に位置するパルテノン神殿のような建物。
「はい皆ここに並んで!」
門の前で先生たちが生徒を整列させる。
「どんな剣なんだろう…」
「俺は大剣が欲しいな!」
「私はレイピアかな〜」
門の前で生徒たちがワクワクしながら雑談をしている。
「おい時渡」
「ん?」
常盤 時渡(ときわ はると)は名前を呼ばれ振り向く。
「イグニス、どうしたの?」
「お前はどうするつもりなんだよ聖剣!どんなのが欲しいんだ!?刀もいいし片手剣もいいよな〜。あ!ファルシオンとかも!」
時渡の中学からの友人のイグニス・クリムゾンフェニックスは興奮して身震いしている。
「特に考えてないかな」
時渡は素っ気ない態度でそう言った。
「えぇ〜なんでだよ〜」
がっかりしてイグニスはあからさまにため息をつく。
「だって僕冒険者になる気ないもん」
「じゃあなんで入学したんだよ」
「学費が安かったから」
「なんつー理由で入ってんだお前」
「僕は卒業したら大学に行って公務員になるつもりだよ」
「お!そういう事か!魔法省とか!?」
「いや、消防士」
「消防士!?水魔法極めるのか!?」
「うーん、それもだけど回復魔法とか補助魔法とかがメインかな」
「はぁー、なるほどな〜」
イグニスは納得して深く頷く。
「ほらそこなに喋ってんだ!ちゃんと並べ!」
二人に先生の怒号が飛ぶ。
「「あ!すみません!」」
二人は大人しくすぐに並ぶ。
「コホンッ」
ザワザワしている生徒たちの前で咳払いをする一人の教師。
「静ーまーれー!」
御年146歳だとは思えない凄まじく大きな声を放ったのはリトゥングリム校長だった。
その声に驚いて生徒たちは静まり返り校長の方を向く。
大きく蓄えた真っ白なひげをいじりながら校長は再度咳払いをする。
「コホン。諸君、入学おめでとう。そしてよく我が校へ来てくれた」
校長は生徒たちが今まで出会った誰よりも落ち着いた喋り方をする。
生徒たちは先程までの興奮が嘘かのように黙って校長の話を聞いている。
「ワシは校長のリトゥングリム。よろしく頼む。そして皆この瞬間をずっと待っていたはずじゃ」
生徒たちは察した。
(あ、この話し絶対長いやつ)と。
「ワシがここで長話すると皆の聖剣に対する気持ちが今よりも失せてしまうじゃろうからここまでとする。じゃ、これから人生を共にする聖剣を選びたまえ」
生徒たちは思った。
(え!?終わんの早!)と。
校長は杖を門に向ける。
「バーセム」
門に彫られた溝に金色の光が駆け抜ける。
ボゴッゴゴッゴゴゴゴゴゴ…
門が開き始める。
「おおおぉぉー!」
生徒たちは一斉に声を漏らす。
「さぁ!行くのだ!栄えある未来を目指す者達よ!」
生徒たちはダッシュして剣の間に入る。
テクテクテクテク…
ただ、時渡を除いて。
生徒たちが中に入るとそこはどこまでも広がる床が大理石で敷き詰められ、白い柱が一定の間隔で建っている真っ白な空間だった。地平線まで見えている。
その大理石の床に皆が求めていた聖剣が数え切れない数刺さっている。
生徒たちは1本1本剣を目で見て確かめる。
「…なんかこれ…全部錆びてない?」
一人の生徒が言った。
そう。聖剣は全部全身が錆びていたのである。
「なんだよこれ!みんな錆びてんじゃん!」
「これじゃ選ぼうにも選びようがないじゃん!」
口々に文句を言う。
剣の間に入ってきた校長が言う。
「聖剣を選ぶことはそう難しいことじゃないぞ。聖剣とその持ち主は互いに惹かれ合う運命だというのは決まっておる。焦らずに、自分がこれだと決めた聖剣を引き抜くのじゃ」
一人の生徒の目に一本の錆びたサーベルが留まる。
サファイア・ウルティメール。虎系獣人族の由緒正しい騎士の家系に生まれた青い髪と可愛らしい虎耳を持っている生徒だ。
「…これだ…!私の剣は…これだ!」
サファイアはサーベルの柄を右手でしっかりと掴み、一気に引き抜いた。
サファイア引き抜いたサーベルを掲げる。
「ふむ、それがお主の聖剣か」
校長はひげをもさもさと触りながらその姿を見る。
ピシッパキッ
聖剣が割れる音がする。
しかしサファイアは動じない。
ビシビシッバリバリバリバリッッ!!!
一気に錆が剥がれ落ち、その中から透き通った瑠璃色の刀身と金で装飾が施された高級感のある柄を持った聖剣が姿を現した。
「おおおおーーーー!!!!!!」
他の生徒達はその凛々しい姿を見て感嘆の声を上げた。
「ほぉ!雪華の聖剣か!」
校長はどこからかそれどこに隠してたんだと言いたくなるほど分厚い本を開いて言った。
どうやらこの本は主人に選ばれ覚醒した聖剣がどのような聖剣なのかを教えてくれる実に作者の都合に良いものらしく、サファイアが持った雪華の聖剣がどういった能力やスキルを持っているのか事細かく書かれているようだ。
サファイアは校長の説明を聞きながらしっかりとスマホでページを写真アプリで撮ってメモを取っている。
「俺はこれにしよう!」
「僕は…これだ!」
皆サファイアが聖剣を抜いて安心したのか、次々と聖剣を決めて抜き始める。
「う〜ん…どれだ〜????」
イグニスはまだ聖剣を見て迷っている。
「ね〜まだぁ〜?」
時渡はうんざりしながらイグニスの後を追う。
「仕方ねぇだろ!一生を決める聖剣なんだぞ!ここで水とか風の剣抜いちまったら火のエレメントを崇めてきたウチの家系に傷がつくんだよ!」
「わ…分かったよ…ごめん…」
イグニスが想像以上に真剣だったので時渡はその気迫に引き下がる。
「分かったなら良い…ん?」
イグニスは目の前にある両刃剣型の聖剣を舐め回すように見る。
「ん?ンンン!?!?!?待った、これじゃねぇか!?」
「そうなん?」
「見てみろよこれ‼」
イグニスは時渡の手を引っ張って見せる。
確かにその聖剣は他の聖剣よりも明らかに錆が赤く、赤銅のような色をしている。
「よく分かんないけど…どうなん?イグニスはこれだと思うん?惹かれ合うって校長先生言ってたけど」
「あぁ。見た瞬間から明らかに違う雰囲気と感覚を同時に感じたんだよ」
「じゃあ良いんじゃないの?」
「よし!んじゃこれにする!」
イグニスは柄をしっかりと両手で掴み、力を込めて一気に引き抜いた。
ピシッパキッパキパキパキッッ
「おぉ!?」
聖剣の錆に入ったヒビから紅い光が漏れている。
「これはまさか…!?」
バキバキバキバキッッッ
錆が剥がれ落ち、紅蓮の炎が燃える刀身を持ち、周りの空気を一気に熱く燃え上がらせる聖剣が現れた。
「アタリだあああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
テンションがMAXになったイグニスは周りの迷惑を顧みずに凄まじい雄叫びを上げた。
「イグニス、当たったのは良かったけど耳痛い」
時渡は耳を塞ぎながらイグニスを見る。
「あ、すまん。つい…」
「でも良かったじゃん。これでもかってくらい火属性主張が強い剣で」
「ああ!でも正直ちょっと不安だった。時渡が背中押してくれなきゃこの剣選んでなかったかもしれない。ありがとな!」
「いやいや。僕なんにもしてないし…」
ダダダダダダダダ
「「へ?」」
誰かがこちらに向かって猛ダッシュしてくる。
「お主いいい!!!引きおったなそれをおおお!!!」
校長が御年146歳だとは思えないアスリート並みの走りをしている。
「「うわあああああああ!!!!!」」
二人はそのカオスな光景に震え上がった。
「お主!名前は!?」
「あ、い、イグニスです…」
「お主の聖剣は火属性の聖剣の中でも最上級の火の聖剣じゃ!」
イグニスはキョトンとする。
「えっと…どういうことですか…?その頭痛が痛いみたいな言い方…」
「おっと、ややこしかったの。すまん」
校長は本を開く。
「お主の聖剣は火そのものを司る聖剣じゃ。全ての火属性の大元と言っていい」
「え、それってつまり…」
「そう。四大属性の1つじゃ!」
「ええー!?」
イグニスはまた叫ぶが周りの生徒たちもイグニスに目を見張っている。
「は…時渡…」
「ん?」
「俺、自分が思ってるよりヤバい聖剣選んじゃったかもしれん」
「良かったじゃん。強いことに損は無いし」
「そ、それもそうだよな…。うわー親になんて言おう…」
イグニスは聖剣をまじまじと見つめている。
「そこのお主、まだ聖剣を決めておらんのか?」
校長が時渡に聞く。
「え?あっ、はい」
「お主が最後じゃ。皆が見守っているぞ」
「え!?ホントですか!?」
周りを見ると確かに時渡が聖剣を抜くのを期待するように見ている生徒がそこらじゅうにいる。
「うわ〜やだな〜気が重いなぁ〜」
髪を掻きむしって時渡はここで初めて聖剣を選び始める。
「どれって言われても僕冒険者になるわけじゃないし…う〜ん…」
時渡は辺りの聖剣を見渡す。
コツンッ
「ん?」
時渡の靴に他の聖剣よりもかなり深くまで刺さった聖剣があたった。
深く刺さり過ぎていて生徒たちの目にも留まらなかったのだろう。
「あ、じゃあこれにしよ」
「お前めっちゃ安直に決めるやん」
「いいでしょ別に強くてかっこいいお国の騎士様になるわけじゃないんだからさ…ってうわ!」
スポンッ
深く刺さっているので抜くのにかなり力が要るのかと思ったら意外と簡単に抜けた。
しかしその理由はすぐに分かった。
刀身が無かった。
「…えぇ?」
刀身の代わりに鍵のようなものがその先にあった。
いくらなんでも刀身が無いのは流石に寂しい。
「え?マジで言ってる?戦えないじゃんこんなの。キン◯ダム◯ーツじゃないんだからさぁ…」
流石に時渡もこれは予想外だった。
「うわ!時渡の剣刀身が無ぇ!」
「なんで!?」
「冒険者になりたくないとこうなるのか…?」
時渡の友達たちはみんな笑っている。
それにつられたのか生徒たちの間で笑いの渦が巻く。
「ハ…ハハ…ハハハ…」
時渡は神に冒険者になりたくないという感情が通じてしまったのだと思い呆れたように笑う。
イグニスは時渡の聖剣を見て驚いている。
「…キ◯ハのキー◯レードじゃん」
「やめろよその言い方ぁ。多方面の方々に怒られるだろ!」
時渡はそこにはヤケに敏感に反応する。
ザワザワ…
「ん?なんかやけに騒がしくない?」
「お、おい!時渡!剣が!」
「ん?…ってうわ!!」
時渡が聖剣を見るといつの間にか錆は既に剥がれ落ちており、光の塊へと化した聖剣が今にも弾けそうな音を出しながら光り輝いている。
「ん!?どうした!?」
「時渡の剣が光に…」
イグニスは時渡の聖剣に指を指しながら言う。
「まさか光属性の剣か!?ライ◯セー◯ーみたいな!?」
「だからやめろよそれ!ってそうか…だから刀身が無かったのか…?いやでも鍵みたいなの付いてるし…」
生徒たちは笑いが起きていた瞬間とは打って変わって、今度はザワザワし始める。
「ふ、二人とも何をやっておるのじゃ!特に剣を持っている方は早く聖剣から手を離して離れるのじゃ!爆発するかもしれんぞ!」
「「え゛ぇ゛!?!?」」
校長は焦っている。明らかにこの聖剣が何かヤバいというのは二人にはすぐ理解できた。
イグニスはすぐに離れる。
「なにやってんだ時渡!早くそれから手を離せ!」
「えっ!?でもっ!あぁ!う!」
時渡はパニックに陥ってあたふたしている。
バシュンッ!!!!!
「うぎゃッッ!」
聖剣の柄が光の粒子に変わり、光の粒子から発生した衝撃で時渡は吹き飛ばされる。
ガンッ!!!
「グホォ!!!」
時渡は剣の間の柱に後頭部を勢いよくぶつけた。
「ぐおぉぉ…」
時渡は後頭部を押さえながらうずくまって唸る。
「時渡!大丈夫か!?」
イグニスが駆け寄ってくる。
「な…なんとか…気絶するかと思った…実際記憶飛んでるし…」
「大問題じゃねぇか」
イグニスがしかめっ面をしながら時渡の頭を撫でる。
「あ…」
時渡が弾け飛んだ聖剣を見ると、 時渡の手を抜けた光の粒子は何かを形作っていく。
光の粒子は人型になり、長いしなやかな髪が生え、煌びやかな鎧を纏い、形が決まっていくに連れて光を失っていく。
そして時渡とイグニスの前に息を飲むほどに美しい美少女が現れた…いや、形成されたと言った方が正しいだろう。
「…貴方が私を引き抜いたのですか?」
完全に絵面がF◯te/s◯ay ni◯htの代表的なセ◯バーの第一声のシーンなのだが、これを絵で見せられないのが非常に残念だ。
「…え…あ…は…」
時渡は状況がまだ飲み込み切れておらず、呆けたまま気が抜けた声を発する。
「はあぁ〜!ようやく自由になれましたぁ〜!」
ガバッ
美少女は時渡に抱きつく。
美少女の行動は先程の凛とした姿とは程遠いものだった。
「は?へ?へ?」
混乱しっぱなしの時渡。
「…え?あれれ?人違い…ですか?」
「あ、はい、抜いたのは…僕です」
ようやく喋れるようになった時渡は不安定な喋り方で答えた。
それを聞いた美少女は時渡の前にひざまづき、元の凛とした印象を取り戻す。
「マスター、貴方様の事をずっと、心よりお待ちしておりました」
訪れる静寂。
「ど、どうすんだよ時渡…!」
イグニスは小声で言った。
「あ、えー…、とりあえずそのマスターって呼び方だけはやめてくんない?」
時渡は何も考えられるような状況に辿り着けてないのでただただ率直に思った事を言った。
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