第61話 先生のお誕生日

「ケイは英梨ちゃんのお誕生日、何あげたの?」

「あたしはね、ボディケアのギフトセットになってるやつ。 入浴剤とか、ボディクリームとか入ってるの。 リクエストだったから」

 リクエストかぁ。 いいな。

 先生、もうすぐお誕生日。 寒い、遅い秋生まれ。

 去年はなんでか、教えてくれなかった。 

 だから、プレゼント、あげられなかったんだけど。 今年は日にちを教えてくれたから。 プレゼント、あげたい……。

「先生、もうすぐなの? 誕生日」

「うん。 でも、困ってる……。 何あげたらいいか、全然分かんないの」

 だって、先生はお金持ち。 身に付けるもの、持ってるもの、何でもおしゃれなんだもん……。

「いくつなの。 先生」

「三一歳になるんだって」

「おとなだ」

 そう。 大人なの。 何でも持ってるし、何でも知ってる。 おしゃれじゃない、私が選ぶプレゼントなんて、たかが知れてる。

「予算、いくらなの」

「一応…一万円」

「えっ。 すごいじゃん」

 毎月のお小遣いと、お昼におにぎり作って、貯めたパン代。 でも、何買ったらいいのか、分からない。 私は一万円のアクセサリーでも嬉しいけど、多分、先生は嬉しくない(喜ぶふりはしてくれるだろうけど)。

「もう、現金で渡そうかな……。 金券とか」

「お年玉かよ」



 家で勉強してても、悩む。 お誕生日まで、もうすぐ。

 現金とか金券は、多分、受け取ってもらえない。

 花束とか? 先生の家には、緑が全然ない。 多分、そんなに好きじゃないのかも。

 アクセサリーやお洋服は、私には高価だけど、先生が持ってるやつよりは、安物になっちゃう。

 いつも使ってる、外国のスキンケアのやつは、近くにリアルのお店がない(田舎だから)。

 ボールペンは、フランスのすごいやつを持ってる。

 手帳は、イギリスのかっこいいやつを使ってる。

 お菓子、先生はあんまり、食べない。



「ああぁぁぁ……」

 せっかく、頑張ってお金貯めたのに。 まさか、使い道が見つからないなんて。 頭を抱える。

 もう、直接聞いちゃおうかな。

 メールを送ってみる。 一日三往復しかできない、メールを。

「先生へ ほしいもの、ある?」

 すぐに、返信が来る。

「あなたの健康 合格 あとは特になし」

 困った……。 しかも、今日はあと二回しか送れない(ありがと。 大好き。って送った)。




「先生! お誕生日、おめでとう!」

「まあ、ありがとう。 嬉しいわ」

 金曜日の夜。 私は先生のマンションで、先に待ってた。 仕事が終わって、帰ってくるのを。

「家に帰ったら夕陽が待っててくれてるなんて、最高よ」

 玄関で、ほっぺにちゅ、としてくれる。

「ケーキ、買ってきたの。 ご飯もできてる。 簡単だけど……」

「新婚さんみたい。 夢のようだわ」

 尖った黒いパンプスを脱ぎながら、笑ってくれる。 

「お魚焼いたの。 お味噌汁と、ほうれん草のおひたし作って。 グリルの使い方よく分かんなくて、フライパンで焼いたから、魚、固いかも……」

 先生のまわり、くるくる回ってついていく。 

 学校終わって、買い物して、作ったの。 お魚は上手く焼けたか分からないけど、結構、偉いでしょ?



 手洗い、うがいを済ませて、先生はくるっと振り向く。 そして、ぎゅうっと強く抱いてくれる。

「ありがとう。 大好きよ。 本当に、大好き。 言葉にできないくらい、好き。 今日も明日も、いっぱい愛し合いましょうね」

「私も。 私も、大好き。 先生が、一番好き。 いっぱい、いっぱいしようね」

 私がそう言うのを聞いてから、ほっぺたに両手を当てて、やさしくキスしてくれる。 やさしいけど、すぐ、舌を入れて。 大好きな、えっちなキス。

 しばらく、お互いの舌をなめ合って。 離れたときには、五分くらい経っていた。

「ご飯、食べようかな。 可愛い子が作ってくれた、美味しいご飯」

 食べて、食べて。 ご飯の後は、ケーキもあるの。

 それに私も、先生に食べてほしくて、うずうずしてるから……。

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