第58話 【ケイちゃんの話】デパート

「ね、これ、雑誌で見たやつ」

「本当だ。 えー、実物、めちゃかわいい。 英梨ちゃん、絶対似合うよ」

 今日は二人で、デパート。 一階の、化粧品売り場。

 女の子同士って、いいな。 男の子とデートするより、ずっと楽しい(あたしはね)。

 お化粧品見て、お洋服見て、雑貨見て。 お昼も、ガッツリ食べなくていい。 急いで、食べなくていい。 カフェでお茶して、手、繋いで。

 新作のアイシャドウ、きれいだな。 英梨ちゃんの目は切れ長だから、きっと、赤っぽい茶色、似合うと思う。 マスカラも、すっと付けて。

 ちらっと、英梨ちゃんを見る。 すぐ気付かれて、目が合う。 あたしは、それだけで、どきっとする。

「ケイは瞳の色が明るいから、この色、いいんじゃない。 付けてもらってみようよ、一緒に」



 あたし、目の色が緑っぽい茶色で、目立って、嫌だった。 

 うちは地元では昔からの歯医者で、ママは目立つし、あたしも、完全にママ似。 

 顔、めちゃめちゃ濃い。 ママのお母さん、おばあちゃんは、外国人だから。 

 別に、おばあちゃんがどこの国の人でも、みんなには関係ないと思うけど。 嫌な事言うやつ、いっぱいいたな。 外国で知らない人にお酌して、踊ってお金稼いだの、すごいじゃん。 あたしはおばあちゃん、ほんと、えらいと思うけど。



「すごい、似合ってる。 一番かわいい」

「ちょっと、やめてよ。 言い過ぎ」

「お客様、お似合いですよ。 一番かわいい。 リップも何か、合わせてみましょうか。 気になるお色、ありますか?」

 美容部員さんも、上手だから。 どんどん楽しくなっちゃうな。 デパートの化粧品売り場、大好き。

 


 結局、アイシャドウ、買ってしまった。 英梨ちゃんも、違う色を。 

 また、カウンターに、お客さんが座る。

「あ」

 先生じゃん。 保健室の、先生。

「英梨ちゃん、見て。 保健室の先生。 夕陽の……」

「あっ、あの人? えーっ……先生ぽくない。 おしゃれだね。 でっかい美人だね」

「何買ってるんだろ。 英梨ちゃん、ちょっと、待って。 見たい」

「悪趣味……」




「同じリップ、五本買ってたね。 大人の買い方だ」

「多分、あれ、夕陽に。 いつも、使ってるから」

 英梨ちゃんは、ひょえ~、お金持ち、って。

「ケイ、私、ホテル代ぐらいしか奢れないけど! 卒業したら、何でも買ってあげるから」

「なにそれ……ウケる。 別に、買ってくんなくていいよ」

 多分、先生は、夕陽のこと、ちょっとかわいそうだと思ってる……のかな。

 悪いけど、あたしもそう思う事はある。 お昼、自分で作ったおにぎり。 飲み物は絶対買わないし、おやつもめったに買わない。 お父さん、いないし。 「親が夜勤の時は、先生の家にガンガン泊まっちゃうんだ」なんて、照れてたけど。

 ほんとはおしゃれカフェ、夕陽とも行きたい。 何度か断られたから、もう誘えない。

「英梨ちゃん。 あたしって……なんていうか……めぐまれてる?」

「どしたの。 恵まれてるでしょ! 私と付き合ってるんだから」

 英梨ちゃん! そういうとこ、好き。

 夕陽のこと、全然、見下してるとかじゃない…と思いたい。 だって、家のこと、これはもう、自分の力じゃどうしようもないよ。 あたしもそうだから。 

 でもね、だからかな、あたしと夕陽、同じ。 

 いや、探せば、他にもいるかも知れないけど。 

 女の子同士で、大好きな人がいる。 そんな友達、すぐにはできない。

 仲良くしたいな。 これからも。 デートの話、えっちな話、また、学校で、したい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る