第57話 お休みの日

 土曜日の朝は、寝坊してもいい。

 だけど、先生と一緒だと、自然と目が覚める。 長く、先生を見てたいから。

「あれ」

 先生、いない。 布団も、あったかくない。 今朝の先生は、早起きだ。

 いつもは割と、私の方が早く起きる。 先生、えっちした次の日の朝は、よく寝るんだ(疲れるのかな……お姉さんだし)。



 寝室の扉、少し、開いてる。 リビングが見える。 先生は、頬杖をついて、作業机に向かってる。

 そうっと、ベッドから出る。 後ろからぎゅっとして、びっくりさせちゃおうかな。 抜き足、差し足で、扉へ向かう。

「────」

 私、肩がびくっとする。 先生、小さい声で、誰かと話してる。 電話かな。

「……なの。 ますます、わからなくなって……」

 邪魔しちゃ、悪いな。 そう思ってベッドに戻ろうとして、躓く。

「うわっ」

「きゃっ」

 私の声に、先生、駆け寄ってくる。

「おはよう。 大丈夫?」

「おはようございます…。 えへへ。 こけちゃった」

「どこも、ぶつけてない?」

 ちら、と作業机を見ると、夏休みにこっそり見た、高校生の頃のかわいい先生と、お姉さんが二人で写った、写真立てだけが置いてある。

「大丈夫、膝だけ。 ねえ、先生、あの写真、超かわいいね」

 私は照れ隠しに、写真立てを指差す。 あの、前髪ぱっつんの、笑ってない、高校生の頃の先生。

「写真? うん。 かわいい? あなたの方が、ずっとかわいいわ」

 そう言って、先生は写真立てを、本棚の一番上に置いてしまった。

「じっくり見たいよ。 昔の先生」

 先生は、私をぎゅうっと抱きしめる。

「今の方が、きれいでしょ。 さあ、お顔を洗って、歯磨きしてきて」



 言われた通りにさっぱりしてきたら、先生は、猫脚のソファで待っていた。 私を手招きする。

 ソファに横に座ってる先生の、お膝に乗る。

「えへへ。 先生、キスしていい?」

「しましょ。 おいで」

 ちゅ、ちゅっ、て、唇をくっ付ける。 くっ付いたり、離したり。 小鳥のようなキス、繰り返す。

 ……舌、入れたいな。 入れようとすると、先生、逃げちゃう。

「ねえ、大人のキスにしよ」

 首に腕を回して、舌を出して、甘えてみる。 先生はちょっと、困った顔をする。

「なんで。 いつも、してくれるじゃん。 えっちなキス、しようよ」

「今日は、えっちな気分じゃないの。 ぎゅっとして、キスは唇だけじゃ、だめ?」

 そんな気分の日、あるんだ……。 先生って、いつでもえっちなのかと思ってた。 私と一緒で。

 あ。 もしかして……。

「あの、まだ、怒ってる? 昨日のこと……」

 昨日、私が、やりすぎちゃったこと。

 先生は、くくっと笑う。

「怒ってませんよ。 気持ち良かったわね。 あんなに恥ずかしい思いをしたの、初めてよ。 貴重な経験」

 よかった。 笑ってる。

「修学旅行、何だか、それなりに疲れたみたい。 歩き通しだったし」

「マッサージ、してあげようか? 私、上手だよ。 ママに小さい頃から、やらされてるから」

 シルクのパジャマの上から、先生の脚、触る。

 先生は、ふふ、ありがとうと言って、ぎゅっとしてくれる。

「気持ちだけ、貰っておくわ。 マッサージなんてしたら、また、したくなっちゃうでしょ。 夕陽は、かわいいお猿さんなんだから」

「まぁ……そうかもだけど」

「朝ご飯、用意するわね。 今日は、真面目にお勉強しましょう。 私は少し、休みます」

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