第56話 大好き、全部好き
先生、布団を被って、出てこない。
つんつん、ってしても、その指、手の甲でぱしっとはたき落とされてしまう。
「先生、お話、しようよ。 起きてるんでしょ」
「嫌よ」
あ。 四十分振りに、喋ってくれた。
「あの、私、全然気にしてないし。 恥ずかしくなんて、ないよ」
「恥ずかしいわよ!」
あ。 布団から、お顔が出てきた。 先生はヤドカリみたいに、布団を背負ったまま私の前に座る。
上は、白いシルクのパジャマ。 下は、黒の、レースのパンツ。
目、真っ赤だ。 かわいそう。 かわいい。 好き。
「先生、泣いてたの」
「泣くわよ、そりゃあ……」
そう言ってまた、涙をぽろっと流す。
「ごめんなさい。 そんな、泣いちゃうって、思わなくて」
座ったまま、正面からぎゅっと抱きしめる。 先生はまた、すんすん泣き始める。
「だめって言ったら、だめなのよ。 やめるのよ。 じゃないと、今日みたいに、事故が起きるから」
「はい。 気を付けます。 だめって言われたら、だめ。 やめる。 覚えます」
確かに先生は、えっちの時に、言う。 気持ち良い時は、きもちいい って言いなさいって。 こういう事なんだね。 (ちがう?) ごめんなさい。
「あの、先生」
「なに」
声はまだつんつんしてるけど、返事してくれるだけ、だいぶいい。 もう少しで、いつもの先生。
私は元気付けようとして、笑顔で言う。
「おもらしした事、私、誰にも言わないから。 安心して!」
「わざわざ言葉にして、言わないで頂戴……」
二人で、寝転がって、布団にくるまる。 先生は下、パンツのまま。 私も素足を絡めたくて、パジャマのズボン、脱いだまま。 すべすべの脚、気持ちいい。
「先生の脚、気持ちいい……えへへ」
「ありがと。 あのね、夕陽」
私のほっぺをむにゅんと引っ張って、先生が言う。
「あの……わ、私、普段は、あんな事、ならないわよ」
そりゃ、そうだ。 つい、笑ってしまう。
「分かってるよ。 調子に乗って、ごめんなさい」
「きたなくて、嫌いになる?」
変なこと、聞くなぁ。 先生。
私も、先生のお肉のついてない白いほっぺを、つまむ。
「なるわけないじゃん。 汚くないし。 大好きだよ」
きたないわよ、と先生は唇をとがらせる。 もうきっと、わざとじゃない。 私の癖、唇がとんがる癖、移ってるのかな。 なんだか、嬉しい。 先生、気付いてないのかな?
「先生だって、逆だったら、そう言うでしょ。 知ってるもん」
愛おしくて、すりすりする。 さらさらのほっぺに、すりすり。 先生、やっと、ふふっと笑う。
「そうね。 そうよね。 先生、ばかね」
「そうだよ。 先生、大好き。 泣いても、大好き。 怒っても、大好き」
笑ってるのは、もっと大好き。
……次に大好きなのは、意地悪してくれるときだけど。 これは、内緒にしておこう。 きっと、仕返しされちゃうから。
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