第11話 クラスメイト
「ねぇ、リップ、すごいの使ってるね」
休み時間。 隣の席の子に、声をかけられる。 髪を巻いたり、そのうえ縛ってこなかったり、よく怒られてる子。
私は、ピンクの四角い、細いリップを塗っていた手を止める。
「もらいものだから」
「すご。 彼氏?」
先生だよ。 みんなの知ってる、保健室の。
「彼氏…じゃないけど。 的な人」
にやにやしてる。 これ、言わない方が良かったな。
「ごめん、忘れて。 親からもらった」
「いやいや、遅いて。 大丈夫、あたし、友達いないから。 言わないから」
確かに、この子が誰かとお喋りしてるイメージはない(私もだと思うけど)。
「なんかさ。 自分で選んでない変なアクセとか、服とかより、毎日使うものって、いいよね。 愛だね」
「プレゼント、初めてだから。 服とかアクセサリーも、いいと思うけど」
彼氏から色々、もらってるのかな。 美人だし。 うちは多分、お小遣い、少ないし。 服とかアクセサリー、嬉しいと思うけど。
「いやいや。 ダサいの、逆に困るから。 男は買うの恥ずかしいだろうし、デパコスは、愛よ」
で、でぱこすは、愛。 名言っぽい。 面白いな。
「ねぇ、席隣だけど、何気にお喋りした事ないよね。 あたし、ケイ」
「ケイちゃん。 よろしく」
「ケイでいいよ。 よろしくね」
「ね、お昼、一緒に食べよ」
ええっ。 お昼は、保健室なんだけどな。
「いつも、昼、パン持って消えるでしょ。 トイレで食ってんの?」
違うよ。 ぼっちだからって。
「ええと、空いてるとこ」
「一緒に行く。 実はあたしも、一人で食ってた」
ど、どうしよう。 困ったな。
もじもじしていたら、ケイは、
「じゃあさ、空いてっか分かんないけど、保健室にしよう。 あそこ、ポットあるから。 てことは、戸棚にきっとコーヒーとかあるよ。 飲もうぜ」
って。
えーっ。 いやだ。 来ないでよ。
言う間もなく、手をぐいぐい引っ張られる。
「失礼しまーす。 お昼って、食べてもいいですか」
声、でか。 先生、いるのかな。 会いたくないな。
「どうぞ。 あら」
立ち上がって私を見て、先生は少しびっくりしたみたい。 私は、えへへ、と笑う。 先生も、よそ行きの顔で、ほほえむ。
「三年生の、二人組。 ベッドでは、食べられませんよ。 机も、狭いけど。 それでも良ければ」
先生は、私にいつも座ってる、背もたれ付きの椅子を引く。 ケイには、丸椅子を。 ひいきかな。 どきどきする。
アルコールとペーパーで、机を拭いてくれる。
「先生、サービス満点じゃん。 あたし、また、保健室で食おうかな」
「基本は、教室で。 独りぼっちで来る子もいますから。 そういう子が、来づらくなってしまうでしょう」
「たしかに。 了解です」
ケイは、素直だな。 明るいし。
私みたいに、友達がいないんじゃなくて、友達は、いてもいなくても平気なんだろう。
「いただきまーす」
お弁当、手作りだ。 美味しそう。
「お母さんが作ってくれるの? すごい」
「すごくないよ。 お母さん、働いてないし」
お母さんが専業主婦って、すごいんだよ。 働かなくても、お金あるってことなんだよ。 この子は、知らないのかな。
私は、いつものパンの袋を開ける。
「パンだけ?」
先生が、聞く。 そうだよ。 パンだけなら、先生がホットミルク、くれるもの。
「牛乳、飲みますか」
「おねがいします」
今日も、貰えるんだ。 よかった。 悪いことしてないのに、どきどきする。
「そんなサービスもあるの? 保健室、やば」
サービスじゃないもん。 私だけ、だもん。
いつものカップで、ホットミルクを作ってくれる。 お揃いの、青い小さいお皿に、チョコも乗っている。 私は、先生を見る。
「毒入りです。 どうぞ」
「ウケる」
うるさいなあ。
「先生、彼氏いる?」
食べ終わったケイが、先生に聞く。
「彼氏は、いません」
「結婚してるの?」
「してません」
彼氏は、いません。 じゃあ…恋人は? 私は、今聞いてみたい。
「先生、めちゃ美人なのに。 もったいない」
「もったいなくないですよ。 好きだと言ってくれる人、いますから」
私の方を、見る。 どきどきする。
「ねぇ、あんたは、いるんだよね。 彼氏的な人」
言うなよ! 急に。 ビクッとする。
「へえ。 すてき。 先生に、聞かせてください」
先生は、私が座る椅子のそばに、膝を付く。 そして、私の膝に手を乗せる。 人がいる時は、だめなのに。
「は、恥ずかしいので…。 ここでは、言えません」
「なんでよ。 言え、言え。 先生、私たち、誰にも言わないよね」
ケイが、肘でうりうりする。 先生は、にこにこして、頷く。
「あ、あの。 すてきな、人です。 やさしくて。 背が高くて。 かっこいいし。 たくさん、お話、聞いてくれます」
勘弁して。 恥ずかしいよ。 向こうからは見ていないと思ってか、先生は、私の膝を手のひらで撫でる。
「いいねー。 もう、やったん?」
勝手に淹れた紅茶を飲みながら、ケイが聞く。 デリカシーが全くない。 こいつ、なんなんだ。
思わず、先生を見る。
「あら。 誰にも、言いませんよ。 お友達にも、他の先生にも」
「…あの、キスとかは、しましたけど」
「面白いお友達が、できたんですね」
「変な子だよ。 まだ友達じゃない」
「同じクラスなら、お友達でしょ」
放課後、カーテンと鍵を閉めた保健室のベッドの上で、抱き合いながら。 小さい声で、お話する。 ケイには、一緒に帰ろう、って誘われたけど。 大事な用があるからって断った。
「先生、なんで恋人いるって、言ってくれなかったの」
ぎゅうぎゅうに強く抱き締めて、足も、絡める。
「彼氏はいるのかって、聞かれたので」
「そうだけど…んっ」
舌を入れられて、キスをする。 私も、先生の口の中、舌をさし込む。 なんか、すっごい、興奮する。
「あなただって、言ってくれなかったでしょう。 先生と付き合ってます、って。 キスだけじゃなく、女どうし、このベッドで、いやらしい事してますって」
「や、やだ。 言えるわけ、ないじゃん…」
先生は冷たい指で、スカートの中を弄る。
「授業中も、濡らしてること、あります。って」
そんな事、友達だって、友達じゃなくたって、絶対言えない。 そういう報告できるのは、ここにいる、先生だけ。
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