第22話 初夏のお茶会

「ねぇ、連休、どっか行った?」

「うん。 温泉」

「まさか……男か?」

 私は答えずに、カフェラテをちゅーっと飲む。 男じゃないし。

 私とケイは、最寄駅が同じ。 お互い、友だち、いない。 駅の近くのハンバーガー屋さんで、またお茶をする。

「ねぇ、温泉とか、どうやって行くの。 泊まりでしょ。 親は?」

「う……うそついた」

「やるじゃん」

 やるよね。 いけないよね。 自分でも、ばれたらどうしようって、めちゃめちゃ怖かったもん。

「温泉って、電車? どっち方面?」

「県北のほう。 車で」

「車……。 えっ、彼氏の車?」

「まあ、そう」

 彼氏じゃないけどね。 ケイもよく知ってる、保健室の先生だけど。 

「エロ……。 ねぇ、彼氏っていくつなの。 温泉も、全部出してもらったんでしょ」

 ケイは、眉をひそめて、聞く。 そうだよね。

「歳は、けっこう上……かな。 ひとまわりくらい?」

 正確には、知らない。

「温泉は、全部出してもらっちゃった」

 後で検索して、私が思ってた金額の五倍くらいしたから、びっくりした。

「あのさ。 言いにくいんだけど、それは援助……」

「違うってば。 私が、私のほうが、大好きなの」

 ちょっとムキになって、声、大きくしてしまった。 ケイは、びっくりしている。

「ごめん。 あの、でも、ほんとに。 好きなの」


 みんなと違うって、分かってる。

 先生はきれいでかっこいいけど、こんな気持ちになってる子は、きっとそんなには、いない。

「いや、ごめん。 あたしも。 ごめんね」

 背中を、ぽんぽんしてくれる。 ケイは悪くないよ。 全然、悪くない。

「すっごく、好きなの。 温泉、最高だった。 お花とか、ケーキとか出てきて。 お誕生日プレゼント、貰って。 いっぱい、したし」

「うん」

「こんなに好きなのに、毎日一緒にいられないの、つらい。 早く卒業して、一緒に住みたい」

「うん、うん。 そんな約束、してるんか」

 言いながら、泣けてきた。

「早く、一緒に住みたいよう。 朝も夜も、一緒がいいよう。 毎日、したいよう」

「泣くなよお。 こっちまで、悲しくなってくるじゃん。 よし、じゃあさ、元気出るように、ケイちゃん、ポテト買ってくるから。 待ってな」

 ポテトで、別に元気出ないよ。 でも、やさしいな。 友達、うれしい。

 先生にもらったハンカチで、涙を拭く。 白い、百合の刺繍のハンカチ。 これだけは、自分でアイロンかけてる、宝物。

「ただいま。 ポテト、一緒に食べよ」

 一番大きいサイズじゃん。 ふたつも。

「でっかいやつにしたからさ。 温泉でやりまくった話、聞かせてよ。 あたしも連休中、ついに、やっちゃった。 いひひ。 今日は、いっぱい話そ」

「ありがと。 ケイ、大好き」

 私たちは、二人で笑った。 先生に、明日、友達とお茶したよ、楽しかったよって言おう。 先生のおかげで、友達できてうれしいよ、って事も。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る