第19話 春の連休 二日目の夜、お祝い


「ねえ、先生。 昨日と、メニューが違うよ」

「それは、そうよ。 私たち、連泊するのに、同じお夕食ではつまらないでしょう」

「そういうもんなの?」

 そういうものです、と先生は言う。 大人は、高い旅館は、そういうものなのかもしれない。 私、同じメニューでも、ぜんぜんいいけどな。

 春の連休、二日目。 私たちは、二回目の、お夕食。 

 先生が連れてきてくれた、多分かなりお高い、温泉旅館。 昨日の夜も、今日の昼間も、私たちはたくさんたくさん、えっちな事をした。



 今日も、お夕食、美味しかった。 美味しいものいっぱい、順番に出てきて。 食べ方とか、説明してくれるの。 すごいね。

 食べるところは半個室になってるから、昨日先生が言ってたように、不倫のカップルいっぱいいるのかな、と思ってキョロキョロしてたら、先生にばれて、静かに叱られてしまった。

 指をぎゅっと繋いで、並んで歩く。 

「お腹いっぱいですか?」

 先生、また、顔が少しだけ赤くなってる。 繋いだ指も、いつもよりあったかい。 お酒、飲んでたからかな。

「うん。 でも、昨夜より、いっぱいにしなかったよ。 今日はお部屋でお菓子、食べるんだもんね」

 先生が、今夜もお部屋で飲み直すから、その時一緒にデザート頂きましょう、って。 お部屋に持ってきてもらうんだって。 デザート、何だろう。 その分、お腹を少し空けてある。



 部屋に戻ると、テーブルには先生が飲むお酒と、黒い箱が置いてあった。

「デザート…おせち?」

「さあ? 開けてみて」

 促されてお重を開けると、きれいなお花が入っていた。 ピンクのバラ、白いバラ、それに名前の知らない小さなお花が、たくさん!

「なにこれ。 なにこれ、先生。 かわいい」

「ふふ。 お誕生日、遅くなってしまって。 お祝いです」

 ええっ。 かわいい! きれい。 お花、たくさん。

「すごい、かわいい。 ありがとう、先生」

「二段目も、見て頂戴」

 二段目には、小さなケーキがたくさん入っている。 こっちも、白いケーキ、チョコのケーキ、ピンクのケーキが、たくさん。 かわいい!

「えーっ、こんなに! かわいい。 食べてもいいの?」

「もちろん。 あなたの為に、用意したから」

 私は、ジャンプして先生に抱きつく。 すごい、すっごく、嬉しい。 やばい。 どうしよ。 涙が出てきた。

「先生、ありがとう。 ほんとに、ほんとにありがとう。 こんなに色々、してくれて」

「まぁ。 どうして、泣くの」

「嬉しいから…」

 先生は、私の頬っぺたにキスをくれる。 そして、涙を、ぺろりと舐める。 髪を撫でながら、私の目を見て、先生は言う。

「お誕生日、4月の初めでしょう。 去年仲良くなった頃には、もう過ぎていたんですものね。 初めて、お祝いさせて貰えた」

 そんな風に、言ってくれるなんて。

 嬉しくて、涙がぼろぼろ溢れてくる。

「先生。 大好き。 私のこと、大好きでいてくれて、ありがと…」

 先生は、私の唇にやさしくキスをしてくれる。 そして、私の首筋にも、キスを。

「これ、嫌いじゃなかったら、あげたいの。 貰ってくれる?」

 薄いターコイズ色の、小さな箱。 私でも知ってるような、有名なブランドのもの。

「あけていいの?」

「もちろん」

 中には、真ん中にきらきら光る宝石が付いた、小さな銀色のネックレス。 きれい!

「えっ。 こ、こんな高いもの、だめだよ」

「嫌い? かわいくなかった? ちょっと、大人っぽすぎたかしら」

 ううん、すっごく、きれい。 ダイヤかな、きらきらで、すごくかわいい。 私は首をぶんぶん、横に振る。

「旅館も、絶対高いもん。 ネックレスまで、ほんと、お返し一生できないってば」

「あのね。 お返しどころか、先生、毎日貰っていますよ。 あなたから」

 なにを? 私が先生に、あげてるもの。

「毎日、大好き大好きって、言ってくれるでしょう。 出会った日からずっと、私を見てくれるでしょう。 若いあなたの大切な時間、あなたの青春を、先生に毎日くれて、嬉しいの。 何にも、換えられないものよ」

 付けてあげてもいい?と先生は私に聞いて、ネックレスを付けてくれる。

 鏡を見ると、箱に入っている時より、ずっときらきらしてる、ダイヤのネックレスが私の首に掛かっていた。

「に…似合うかな。 ネックレスに、負けちゃうね」

「とっても似合うわ。 ますます可愛くてよ。 お肌の色に合うから、プラチナにして良かった。 だけど、学校では、付けてはだめですよ」

「朝と帰りは、いい? 寝てる時も。 毎日付けるんだ」

「他の先生に、見られないようにね。 お母様にも、うーん、秘密かしら」

 また、ママに秘密ができてしまった。 これはもう、しょうがない!

「先生、ケーキ食べたいな。 お利口にするから、お膝に乗せて、あーんして、食べさせてくれる…?」

「勿論よ。 食べたらまた温泉に行って、その後は、いっぱい、いやらしい事しましょうね…」

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