第2話 二年生の頃 着任式
「続いては、今年度着任の、先生方のご紹介です」
だる。
今日から、二年生。 学校は、たいして楽しくない。
今年度着任の先生方、っていってもさ。 女子高なんて、かっこいい、若い男の先生が来るわけないし。 先生と生徒、デキちゃうかもしれないじゃない。 そんなん、少女漫画だけだよね。
果たして、新しい先生達は、ベテランばかりだった。 うちはそこそこ進学校だし、まぁ、そうだろう。
でも。 最後に出てきたのは、背の高い、かっこいい、大輪のお花みたいにきれいな、新しい保健室の先生だった。
自己紹介をしてる。 ハスキーな声。 どうしよう。 すごい、きれいな先生。 胸が、どきどきする。 白っぽいパンツスーツにお花のコサージュを付けて、すごくかっこいい。 脚、長い。 すてき…。
私は、一目で、恋に落ちてしまった。
芸能人だって、漫画のキャラクターだって、中学までの同級生にも、あんなに気になる人はいなかった。 教室に戻っても、どきどきする。 先生、何歳だろう。 結婚、してるのかな。 楽しい人かな。 怖い先生かな。 お話、してみたいな…。
帰りのホームルームが終わって、気が付いたら、鞄を持って、保健室の前にいた。
自分でも、驚いてる。 行動力は、全然無い方。 なのに、気付いたら、ドアの前にいる。 今日は始業式だけだから、みんな、とっくに帰ってる。
どうしよう。 来たはいいけど、用、ないよ。 たまにいる、異常なコミュ力の子みたいに、せんせ~来たよ~みたいの、できないし。
もじもじしていたら、廊下から、声をかけられた。
「こんにちは。 具合、悪いのですか」
「あっ…先生」
「覚えてくれて、ありがとう。 今日から、ここの先生なの」
パンツスーツの上に白衣を羽織って、先生、にこっと笑ってくれる。 まぶしいほど、きれい。 心臓は、セーラーのリボンが揺れるほど、大きく上下する。
「あっ、手伝います。 荷物」
段ボールで、引っ越ししてたんだ。
「大丈夫、これで最後だから。 ありがとう。 やさしい子。 何年生?」
やさしい子、だって。 なんか、すごい。 かっこいい。 去年までの厳しいおばさん先生は、何だったんだろう…。
「に、二年生です。 上履きの先が青いのが、二年生」
「そうですか。 教えてくれて、ありがとう。 体調、大丈夫?」
そうだった。 保健室の前で、佇んで。 具合が悪い、ふりしないと。
でも、でも、つまんない嘘、つくのはいやだな。
「あの。 体調、悪くないんです。 せ、先生に、ご挨拶、しておきたくて」
変じゃないよね。 変じゃない。 普通だよね。
「わざわざ、ありがとう。 帰り、急いでますか」
どきどきして、喋れなくて、首をぶんぶん横に振る。
「よかったら、お茶でも。 他の皆には、内緒で」
電気ポットに水を入れて、紅茶の準備をしてくれる。
私、保健室なんて来るのは、まだ二回目。 調理実習で、指を切って以来。
ベッドに腰掛けて、先生を待つ。
どうしよう。 先生はただお茶に誘ってくれただけなのに、私は勝手にどきどきしてる。 先生、ほんとに、きれいな人。 全然、目が離せない。 なんだか、いい匂いもする。
「入りましたよ。 ベッドでは飲めないから、こちらへどうぞ」
私は机の側の、丸椅子に腰掛ける。 先生は、前の先生も使っていた、大きな背もたれ付きの椅子に。
不思議な絵のティーセットに、私の分を。 先生は、金色の枝みたいな絵が書いてあるカップに、お湯だけ入ってる。
「先生は、紅茶じゃないんですか」
「私は、白湯で」
さゆ、っていうんだ。 お湯のこと。 大人っぽい。
いただきます。 紅茶を、飲む。 先生も、白湯を啜ってる。
「着任式の時に」
先生が涼やかな声で、話し出す。
「あなた、私をじっと、見てましたね。 ずうっと。 先生の挨拶、変でしたか」
「えっ」
心臓が、止まりそうになる。 先生を見ると、私の目を、じっと見ている。
「み、見てません。 あの、ええと、見てたかもしれません。 新しい先生はみんな、気になるから」
目を逸らして、俯いて、声が、すごく小さくなってしまう。 どうしよう。 やっぱり、来るんじゃなかった。
先生は、カップを机に置いた、私の手を撫でる。
「そうですか。 あなただけが、最初から最後まで、ずうっと見ていてくれたから。 私だけを見ていてくれたのかと」
手、溶けそう。 心臓、早すぎて、止まるかも。 多分、顔、真っ赤だ。
「あ、あの。 ごめんなさい。 先生のこと、ずっと、見てました。 あんまり、きれいだったから。 い、今も、あの、お話とか、してみたくて。 来てしまいました。 ご、ごめんなさい」
「どうして、謝るの? なんにも悪くないのに」
先生の、きれいな声。 撫でられてた手の甲は、ぞくぞくして、変な感じ。 今度は、人差し指で、私の手の甲をなぞる。
「可愛い子。 先生のこと、気になりますか」
私は、首を縦にぶんぶん振る。 もう、声が、出せない。 心臓、破裂しそう。 死ぬかもしれない。
「お顔、よく見せて」
先生は、私の両頬を、両手で持ち上げる。 少し傾けて、唇に、キスをした。
わけが、わからない。
すぐに、すっと唇が離れる。 そして、先生は、
「キス、したことある?」
と聞いた。 私は本当に訳が分からなくて、涙目で、首を横に、ぶんぶん振る。
「じゃあ、これが、二回目ですね」
と言って、先生はまた、私にキスをした。 今度は、大人の長いキスを。
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