第10話 堅石さんと掃除終わり


 約二時間後、全ての部屋の掃除が終わった。


 いつもはここまで全部屋の掃除なんてしないんだけど、堅石さんもやる気でいい機会だったし、色々と教えた。


 キッチン周り以外の部屋は、だいたい掃除出来るようになったはずだ。

 ……キッチン周りはまだ怖いからね、お皿とか割りそうで。


「お疲れ様、堅石さん」

「空野さんもお疲れ様です。それと、教えていただきありがとうございます」


 堅石さんはソファに座りながら、深く頭を下げた。


「いやいや、今日の掃除はほとんど全部やったのは堅石さんだから」

「空野さんの教えがなければ、一つも出来ていませんでした」

「そうかもだけど、一番頑張ったのは堅石さんだよ。慣れないことで大変だったでしょ?」

「はい、少し。ですが空野さんの助けがあったので、とても助かりました」


 まあ堅石さんは時々、よくわからない失敗をすることがあったからね……目が離せなかった。


 違う部屋を僕が掃除している時に、堅石さんが掃除している部屋で大きな物音がして急いで行くと、彼女が布団に埋もれているのを見つけた。


 なぜあんなことになったのかはわからないが、それを片付けるのもなかなか大変だった。


「お疲れ様。もう夕飯時だし、お腹減ったでしょ?」

「はい、ペコペコです」

「ふふっ、そっか」


 堅石さんは時々、結構可愛らしい擬音を使って表現するのが面白い。


「じゃあ夕飯作るね。何がいいかな……」

「可能であれば、キムチ炒飯というものを食べたいです」

「いいけど、急だね」

「前に初めてキムチを食べて美味しかったので。それと中華料理の炒飯はもともと好きなので、それらが一緒になっているというので気になりました」

「そっか、じゃあキムチチャーハンを作ろうかな」

「よろしくお願いします」


 そして三十分後、僕が作ったキムチ炒飯と、堅石さんが作ってくれた味噌汁が出来上がった。


 味噌汁はお湯を注ぐだけで出来上がるインスタントのやつだけど。


 それでも堅石さんは、


「これで私の料理のレパートリーが増えました。いつか空野さんに一人で料理をして振る舞って差し上げたいです」


 と目を輝かせて言っていた。


 本当に子供の成長を見守るみたいで、微笑ましい気持ちでいっぱいだ。


「いただきます」

「うん、召し上がれ」

「空野さんも、私の味噌汁をどうぞ」

「うん、いただきます」


 お互いに相手が作った料理を、一口。


「っ……とても美味しいです、空野さん」

「よかった。味噌汁も温かくて美味しいよ」


 堅石さんはとても嬉しそうに、キムチ炒飯をパクパクと食べていく。

 僕も料理は一通り出来るけど、自分で食べるか、時々家族に作るだけで、他人に振る舞ったことはほとんどなかった。


 だからこうして堅石さんがすごく美味しそうに食べてくれるのは、とても嬉しい。


「空野さん、そこまでじっと顔を見られると食べづらいのですが、私の顔に米粒でもついていらっしゃいますか?」

「あっ、ごめんね。堅石さんが美味しそうに食べてくれるのが、なんだか可愛くてね」

「……そう、ですか」


 少し頬を赤らめて、目線を逸らした堅石さん。


 あれ、もしかして堅石さん、照れてる?


 堅石さんのこんな顔、初めて見たかもしれない。


 いや、僕もそう思うと、今までの堅石さんの行動を見て子供のように感じて「可愛い」とつい口にしてしまったが……結構なことを言ってしまったかもしれない。


 僕も恥ずかしくなってきて、顔が赤くなっていくのを感じる。


「……た、食べようか」

「……はい」


 僕と堅石さんは、なんだか今までにない空気のまま、夕飯を食べた。


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