第7話 学校での堅石さん
僕が学校へ着くと、すでに堅石さんは席に座っていた。
そりゃ僕より先に出たんだから、当たり前か。
堅石さんは自分の席で本をじっと読んでいた。
「堅石さんって本当にずっと本を読んでるけど、何を読んでるんだろうな」
「やっぱりあんな感じだし、すごい難しい本を読んでるんじゃないか? 哲学的なやつとか、もしかしたら外国語で書いてあるやつかも」
「ああ、確かにそうかもな。本のカバーをずっとしてるかわからないけど、難しそうだよな」
僕の近くの男子二人が、堅石さんのことを見ながらそんな話をしている。
確かに堅石さんの学校だけの雰囲気を見ると、そういう難しい本を読んでるイメージかもしれない。
実際に、僕が初めて会った時は読んでいた。
だけど今、あのブックカバーの下には……漫画かラノベがあることだろう。
前に家で僕が「漫画とかラノベが好きなんだ」という話をしたら、堅石さんは異様に食いついた。
もともと本を読むのが好きだった堅石さんだけど、漫画やラノベは読んだことがなかったみたいだ。
だけど堅石さんは意外とそういうのに忌避感や偏見はなく、むしろ僕がオススメしたラノベを一瞬で読み終わり、
『素晴らしかったです。今まで読んできた本とは全く違う、自分を別の世界に連れてって行ってくれるような、高尚な本でした』
と絶賛していた。
それから漫画にもハマり、最近はアニメも一緒に見るようになった。
だから多分、あのブックカバーの下は漫画かラノベ……多分あの本の大きさ的に、漫画かもしれない。
堅石さんは窓際の一番後ろの席なので、誰にも読んでる本の中身を見られない。
もしかしたら学校で漫画を読むのはダメかもしれないけど、特に注意をされていないから大丈夫なのかな。
前に堅石さんが女子の生徒に話しかけられた時に、
『はい、読書はとても素晴らしいものです。文字を追っているだけなのにその世界に入り込むことが出来て、他人の人生を自分も体験しているかのような感覚になります』
と言っていたが、あれは多分ラノベのことだ。
その後に女子生徒と一緒に話そうとしていたけど、難しい本を読んでいると勘違いされて、引かれてしまっていた。
あれは少し見てて可哀想と思ったけど、堅石さんの喋り方とかがお堅いから、勘違いされても仕方ない気もする。
その後、普通に授業を受けて、昼休みになった。
生徒達がそれぞれ立ち上がり、学食へ行く人だったり他のクラスへ行く人もいる。
僕は普通に教室で仲の良い友達といつも二人で食べているので、友達が僕の席まで来て食べる。
「なあ、楓」
「ん?」
「堅石さんっていつも弁当だけど、自分で作ってるんかな?」
「……ど、どうだろうね」
言えるわけがない、僕が作ってるってことは。
堅石さんの方を見ると、机の上にあった教科書や筆箱をカバンにしまっており、弁当箱を取り出している。
弁当箱を開けて中身を見ると、ほんの少し、本当にわずかだけど嬉しそうな雰囲気が出ていた。
多分他の人じゃわからない、ほぼ一緒に住んでいる僕だからわかる変化だ。
それに今日のお弁当は、僕が堅石さんが好きな肉団子を入れてあげたから、嬉しかったのだろう。
堅石さんは静かに両手を合わせ、目を瞑って数秒。
そして目を開けて、「いただきます」と小さく呟く。
その様がどこかの聖女の祈りのようで、とても美しい。
クラスにいるみんなも、その光景を毎回見るために堅石さんの方を見ていると言っても過言ではない。
「はぁ、今日も堅石さんは綺麗だな」
「……そうだね」
「もう一年生の中でも有名らしいぜ、二年生でとんでもない美人がいるってことが」
「へー、それはすごいね」
「……少しは興味持てよ楓、つまんないな」
「別に興味がないわけじゃないけど」
僕の前でふてくされているようにご飯を食べているのは、荒木真也。
高校一年生の時から知り合い、一番仲の良い友達だ。
男の僕から見ても、真也はカッコいい。
僕は身長もそこまで高くなく、170センチギリギリないんだけど、真也は180センチ近い高身長で、スタイルがいい。
運動も出来て、女子からモテて告白とかもされていた気がする。
だけど誰とも付き合ってはいないはずだ。
僕は別にモテてもないし運動も出来る方じゃないけど、真也とは一年生の頃からどこか気が合って、よく一緒にいる。
真也も「楓はなんか気を遣わないでいいんだよなぁ」と言ってくれる。
「ん? そういえば楓の弁当箱って、堅石さんと一緒だな」
「えっ!? あ、いや……そ、そうかな?」
「ああ、堅石さんのは遠くで少し見えづらいけど、俺は目がいいからな。一緒だってわかるぜ」
そ、そういえば、堅石さんのお弁当箱は僕が買ってきたもので、一緒のものを使ってしまっている。
「別にその、適当にネットで買ったものだから、同じだとしても不思議じゃないと思うけど?」
「なんでそんなに焦ってるんだよ」
「い、いや別に焦ってなんか……!」
「なんか怪しいな、楓……はっ! お前、もしかして……!」
「な、なに?」
もしかして、僕が堅石さんの弁当を作ってて、ほぼ一緒に暮らしていることがバレた?
「堅石さんに憧れて、同じ弁当箱を買ったのか!? いやー、意外だな、楓がそういうことをするなんてな」
「……いや、違うけど」
「嘘つくなって。別に恥ずかしいことじゃないぞ。俺も好きなサッカー選手とかの使ってるもの集めたくなったりするしな」
「……そうなんだ」
「おう、このリストバンドも俺の好きな選手のブランドなんだぜ。カッコいいだろ?」
「うん、すごい似合ってると思うよ」
そうだ、真也にバレるはずがなかった。
だって真也は、なかなかのアホだから。
まあそういうところが面白くて好きなんだけどね。
「ふふっ……」
「ん? なんだよ、いきなり笑って」
「いや、なんでもないよ」
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