第40話 隣人は再開する
普段よりも格段に大きな号令の後、皆が思い思いに動き出す。友達の下に向かうもの、速攻で帰るもの、なんとはなしに席に座っているもの。それぞれだ。
「おつかれー、一葉」
そう言って声をかけてくれたのは、茂。俺は軽く手を上げて反応を示すと、彼は空いた前の席に腰を下ろす。
「これから何かある?」
「あー……早めに課題終わらせておきたいから、課題やるかな」
「よし、ならこれから飯食べに行こうぜ!」
「え、話聞いてた? 課題やるって……」
「藤谷さんと彩月さんは行ける?」
いや聞けよ。
俺の訴えも虚しく、茂の意識は咲希と花蓮に移る。
「私は構わないけれど」
「あたしもいいよー。帰っても掃除するだけだし」
「んじゃあ決まりだな!」
「おいだから聞けって……」
☆ ☆ ☆
「それじゃ、二学期お疲れ様でしたー!」
「おつかれさん」
「お疲れ様」
「おつかれー」
あの後、「ほら、お疲れ様でした会しようぜ。二学期の!」と茂が言い出したことによりお疲れ様会となった。
「あ、カズくんカレーじゃん。一口ちょうだいよ」
「やだよ。自分のを食え、自分のを」
「ほら、パセリあげるから。ほらほら」
「要らんよ。カレーにパセリ入れないから俺」
パスタからパセリを取って差し出してくる咲希の手を押し戻していると、チラチラとこちらを見てきていた花蓮と目が合う。
「その……私にも一口貰えないかしら。このドリアを一口あげるから交換ってことで……」
なんでそんなにカレーが欲しいの……。カレーを注文しなよ。最初っから。
「おう一葉、ハンバーグ、一口食うか?」
「え、なに。お前もカレー、一口欲しいのか?」
「いや。普通に食うかなーと思って」
「なんでこのタイミングなんだよ」
絶対狙っただろコノヤロウ。
茂を半目で睨んだあと、二人からの要求を丁重に断るとようやく食事が開始された。
「それで、本題は?」
「理由がないと集まっちゃダメなのか!?」
「わざわざ食事に誘うあたり何かあると勘ぐるのは当然じゃないかしら。これまでこういうことはなかったのだし」
「ま、それもそうか」
納得した茂は俺たちの顔を順番に見て回る。
「今月の二十四日って、なんか予定あるか?」
「特に何も無いけれど……」
そう答えつつ花蓮はちらちらとこちらをうかがってくる。
「二十四日なら特に予定は無いな。咲希は?」
「あたしもないよー。あでも、明日には妹がこっち来るから、もしかしたら予定が入るかもしれない」
思い出したようにそうつけ加える。冬休みになるとアリシアが来ると、ちょっと前に言っていたなと思い出す。
「アリシアな。今度はすれ違いになるなよ?」
「だいじょぶだいじょぶ。今度は迎えに行くって連絡してるから!」
「ならいいけど……」
ここまで自信があるようなら大丈夫か。……多分。きっと恐らく。だといいなぁ……。
「でさぁ、今色々と準備してるんだけど、何用意したらいいかな。気軽に泊まれるように布団とか用意しよっかなぁ。でも、これまで通り一緒に寝るのもありだし……。あ、もしくは専用の箸とかコップとかを用意しようかな」
「落ち着け落ち着け。アリシアの話は今度聞くから」
咲希の妹話は長時間に及ぶ。興奮してきた咲希を制止して、話を再び戻す。
「それで、どうしたよ。いきなり予定聞いてきて」
「いやほら。クリスマスイブだろ? なら、クリスマスパーティーでも出来ないかなーっと」
「なんでクリスマス当日にじゃなくてイブなんだ?」
「いやほら。当日は予定がある人がいるかもしれないだろ。その辺の配慮だよ。ちなみにお前は当日予定あるのか?」
「……あるけど」
「へー……ふーん」
意味深な相槌と共に不愉快な視線を向けてくる。邪推してやがるな、こいつ。
「別にお前が思ってるような事じゃないぞ」
「ま、その真偽は置いておこうか」
「置くなよ。真実だわ純度百パーセントの」
「それで、どうだ? クリスマスパーティー、しないか?」
俺の訴えをガン無視して、話を前に前に進めようとする。この野郎……。噛みつきたい気分だが、今噛み付いたら話が進まないと自制する。
「あたしはいいぜー。もちろん、妹も参加してもいいんだよな?」
「そりゃな。せっかくだし、一緒に楽しもうぜ」
「私も特に問題はないわ」
「よし! それじゃあ全員参加するってことで!」
全員の了承を経て、嬉しそうにそうまとめる茂の方を徐に掴む。
「おい待てコラ。何勝手に参加するって決めてんだよ」
「え? 参加しないのか?」
「いやするけどさぁ」
「ならいいだろ。そんじゃ、詳細を決めていこうぜ!」
段々と俺に対する扱いが雑になってきているような気もするが、恐らくは気のせいだろう。うん。そうに違いない。
「場所はいつも通り、一葉の部屋でいいか?」
「ああ」
「問題ないわ」
「いやだから……まあ別にいいけどよ」
「それじゃあ、内容だけど――」
クリスマスパーティーの内容が次々と決められていく様子をぼんやりと眺めながら、俺は一度瞑目する。その様子を瞼の裏に焼き付けるように。
「おい、聞いてんのか。一葉」
自分の名前を呼ぶ声がしたので、目を開ける。
「ああ。聞こえてるよ」
☆ ☆ ☆
扉を叩く音がした。
二学期が終わり、冬休みが始まった俺はいつもよりもちょっとだけ自堕落な生活を送っていた。そんな時の何者かの訪問。俺は欠伸を噛み殺しながら、ドアへと向かう。
少しだけ既視感を覚えつつ、覗き窓から覗いてみる。
少し低い位置に明るい金髪が見えた。
「はいはーい……」
扉の先に立っていたのは、数ヶ月ぶりに見る幼さの残る顔つきの少女。
「今度は予想通りだったな」
ふっと口元を綻ばせて、そんなことを言ってみる。
「お久しぶりです。青柳さん。お元気そうでなによりです」
そう言って、藤谷 アリシアは礼儀正しく挨拶をするのだった。
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