第28話 ベストフレンドと思い出作り
列に戻ると、そこにはどこか見た事のある男子生徒が茂達と談笑していた。
「あ! 青柳先輩、お久しぶりです!」
「お久っす! 先輩!」
直接会うのは一ヶ月ぶりの海の家ぶりである、本堂と江澤。同じ高校である二枝 美紀がいた時点で、こいつらもいるんだろうと思っていたが。まさかもう会っているとは。
「そういえば先輩聞きました! 根本先輩、県大会に出るらしいんすよ!」
「あれ、そうなの?」
初耳だった。茂に視線で問うと、こくりと頷いた。どうやら本当らしい。
「わざわざ言うことでもねーかなって思ってさ」
「言えよ。お前自分のこと話さな過ぎなんだよ」
「県大会経験があまりない我が校で出場となると、かなり誇っていいことだと思うけれど」
「というか、それだけの事なのに壮行会とか開かないんだな。あたし、あれ大会の度にやってるんだと思ってたんだけど」
「壮行会は確か、来週に予定されていたはずよ。その時に発表するつもりなのかしら」
口々にそう言うと、慣れていないのか茂は居心地の悪そうに身を捩る。
「ど、どうしたよ。お前ら普段はオレの部活のことなんか大して気にしてないだろうが」
「まあそりゃあ、お前が部活について話さないからだろ」
「いやまあそりゃそうだけどよ」
「頑張れよ、根本! 応援行けたら行くから!」
「それ行かないやつのセリフだろ」
……と、そうだ。せっかく本堂と江澤がいるのだし、今のうちに例の件を頼んでおこう。
「本堂、江澤。ちょっといいか?」
三人から少し離れた位置に移動して、ちょいちょいと手を招く。
「どうしたんすか?」
「なんすか?」
こちらの意図を察してくれたのか、そっと抜けてこっちに来てくれる。そんな彼らに花蓮達に気づかれないように気をつけながら要件を伝える。
「前に話した、二枝 美紀って娘のこと覚えてるか?」
「……あの、中学時代色々あったって言う」
「そう。それでお願いがあるんだけど、二枝 美紀が俺たちに出会わないように、分かる範囲でいいから行動を教えてくれないか?」
「違う班なので限界はありますけど、それでいいならいいっすよ」
「ありがとう」
意味があるか分からないけど、行動範囲が分かるだけでもありがたい。
「あ、でも、多分二枝さん気にしてないっすよ。あの人、告白してきて振った相手とも仲良くしてるみたいですし」
「まあその辺は……俺の気持ちの問題だから」
「それもそうっすね」
本堂が納得したように頷くと、それに連動するように江澤もうんうんと頷いた。そうしていると、彼らはなにかに気づいたのか「あ!」と声をあげると慌てて時計を確認した。
「すみませんっす先輩! そろそろ戻らないといけないんで失礼します! ほら行くぞ、春樹」
「失礼しますっす! ちょおい、引っ張るなって……」
「ありがとうなー」
駆け足で去っていく二人を見送ったあと、俺も時間を確認する。……っと、俺もそろそろ戻らないとな。
☆ ☆ ☆
「ディスイズ金閣寺!」
目をキラキラと輝かせて、柵の近くまで駆け寄っていく咲希。俺たちはその様子を呆れたように見ていた。
「咲希さん、相変わらず元気ね」
「長い移動時間の後にあの元気……若いねぇ」
「オレらと同い年だぞ、同い年」
そうだったそうだった。
「にしても、あいつあんなに歴史的建造物に興味あったんだな。なんか意外だ」
「そうよね。日本史はどちらかと言えば苦手な部類だったのに。いつ興味を持ったのかしら」
「ただ単に旅行で来たっていう思い出を作ってるだけだろ」
「確かにそういうタイプではあるな」
茂の言葉に納得をしていると、咲希が写真撮影から戻ってきた。ひと仕事終えた後のようなすっきりとした表情で、見えない汗を拭うフリをしている。
「いやー、撮った撮った」
「なあ咲希、お前そんなに歴史的建造物に興味があったのか?」
答え合わせをするべくそう尋ねてみると、彼女は首を傾げながら「いや、」と続けた。
「せっかく来たんだし取っておこうかなーって思ってさ。ほら、修学旅行の思い出としてさ。写真撮っていればアリシアにも今度見せてあげられるし」
「茂、お前が優勝だ」
「今回の問題は楽勝だったな」
別に何度もこんな事をしているつもりはないけれど。勝ち誇る茂を不思議そうに見たあと、なにか思いついたのか、パァっと顔を輝かせて口を開いた。
「そうだ! みんなで写真撮ろうぜ!」
咲希がそう唐突に提案してきた。
「俺はいいけど」
「オレもいいぜ」
「私も問題ないわ」
俺たちがそう言うと、じゃあ来てきてとさっき撮っていた場所までもう一度向かい、ちょいちょいと手を招いてくる。
「あ、そういえば写真は誰が撮るんだ。ジャンケンで交代するのか?」
俺がそう聞くと、「ちょっと待ってて」と言い残して近くにいた人に話しかけに行った。
「行動力すげぇな」
「彼女、こういう所の行動は早いタイプだから」
そうこう話しているうちに、咲希が気の良さそうなおじさんを連れてきた。
「では、お願いします!」
咲希はおじさんにカメラを手渡すと、こちらにたたっと掛けてきた。
「はいはいもっと寄って寄って〜!」
俺と花蓮、茂を引き寄せる。
咲希らしい慌ただしさに巻き込まれながら、崩れる体制をなんとか整えてポーズをとる。
花蓮に抱きつきピースする咲希に、恥ずかしそうに身を捩る花蓮、引き寄せられたせいでおかしな体制になっている俺と茂。
そんな俺たちの様子を見て、楽しそうに咲希が笑った時、
――パシャリと、小気味の良いシャッター音が聞こえた。
写真を撮ってくれたおじさんにお礼を言って別れてしばらく経った頃。俺のスマホに通知が届いた。送り主は本堂からで、内容は『これから金閣寺に向かいます』とだけ書かれていた。
「そろそろ時間だろ。移動するか」
「そうね。移動しましょうか」
集合場所へ向かう道中、しおりを読んでいた咲希に話しかける。
「咲希、次って何やるんだっけ?」
「あーっと、ウォークラリーだってさ」
「ウォークラリーか」
チェックポイントに歩いて向かい、そこで課題を解く競技だっただろうか。
「こういうのってよ、毎年何組か迷子が出るんだよな」
茂が冗談めかしてそう言った。確かに小学生の頃、似たようなことを行って何人か遭難者が出たことがある。さすがに高校生にもなって迷子はないと思うが、フラグになりそうなので声には出さない。
「任せて。あたしが正解とゴールまで導くから!」
ドーンッと胸を叩く咲希は始まる前だと言うのにやる気に満ち溢れていた。このやる気が空回りしないといいが……。
「それに、高校生にもなって迷子になるなんてないでしょ!」
……どこかで嫌なフラグが立ったような気がした。
☆ ☆ ☆
空が徐々にオレンジ色に染まり始めた時間帯。そんな頃に、俺たちはふらふらと街中をさまよっていた。
先頭を歩いていた咲希がくるりと振り返り、光の消えた目で俺たちを映し出す。そして、こう言った。
「ごめん、迷った」
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