第7話 「休憩室で待ってます」

 「いや~話しかけてみるもんだね~ww」


 「いや、ウザw」


俺はこないだ中村さんとあった出来事を翔太に自慢していた。


 「へ~、同い年だったのか~。でもよく話しかけたな!圭にしては頑張ったやん」


と、翔太は俺のことをほめるように言った。そして、また何か思いついたようにニヤッと笑い、


「でも圭、まさかとは思うけど名前と年齢聞いただけで満足してないよな?」


と、言われて、俺はドキッとした。正直俺は話しかけただけで満足しており、あの日中村さんと話した後のバイトは、やるべき仕事はやっていたが、中村さんのことが気になり、心がここにあらずという状況であった。


「はっきり言うと満足してた、でももっと中村さんのこと知りたいとは思ってる」


と、俺がいうと、翔太は


「よかった、なら次の課題は連絡先を交換することだな」


「連絡先か~なんか急にレベルが上がった気が……」


「まあ、確かに連絡先交換はハードル高めだけど、圭はこれから彼女とどうなっていきたいの?」


と言われ、俺は自分が彼女と話すことだけしか考えていなかったことに気づかされた。


「俺は中村さんと仲良くなったらデートとか行きたいかな」


と照れながら言うと


「そうだろ!じゃあ頑張って連絡先聞いてこい!連絡先ないとまたお前いつ会えるかわからずにずっと会えるのを待つしかないんだぞ!だけどもしお前が勇気を出して連絡先を交換したらどうなるか?別にバイト先で会わなくてもデートの約束くらいはできるんだぞ!」


「でも、初デートの誘いって直接のほうがいいんじゃないの?」


と、俺は聞いた。この噂は俺自身が体験したことではなく、仲のいい女子たちの多くがそう言っていたからである。


「まあ、確かにそのほうが相手に気持ちは伝わりやすいけど、圭の場合はいつ会うかわからない子なら最悪LINEとかでも俺はいいと思うけどな。でも一番は直だからな、それだけは忘れるなよ!」


「じゃあもう次会って連絡先交換したらその場で遊びに誘う?」


「いや、さすがにデート誘うのは、連絡先交換してから、何回かLINEとか直接会ったときに話してからだな~」


「だよね。まあまた会えたら連絡先交換するわ!」


「うん、ガンバ!」


そうして俺の次の目標が決まった。

 そしてしばらくたった9月頃のある日の出勤日。俺はいつものようにそわそわしながらバイト先へ向かった。その道中、俺はずっと「連絡先を交換する!」ということだけを考えていた。今日は休日であったので俺は平日の学校帰りとは違い、ゴミ捨て場のある一階の警備センターから出勤した。本来は警備センターを経由して出勤しなければいけないらしいが、学生のような遅番シフトの人は退勤時に警備センターを経由するので出勤時には経由する必要がないらしい。なので俺は警備センターから今日は出勤した。


「お疲れ様です。」


と言いながら、俺は社員証を見せてエレベーターを待っていると、後ろから


「ガシャン!ドン!」


と、ものが落ちたような音がしたので、振り返ると誰かがゴミ捨て場で大変そうにしていたので、俺はゴミ捨て場のドアを開けて、


「誰かいますか~?」


と聞くと、奥のほうから


「一人いま~す!」


と声が聞こえたので、俺は


「すごい音がしましたけど、大丈夫ですか?」


と聞いた。するとまた奥のほうから


「すいません、ゴミが雪崩を起こしてしまってwちょっと手伝ってもらってもいいですか?」


と言われたので、俺は奥のほうに進んだ。すると


「あれ?中村さん?」


「えっ、あー羽柴君!おはようございます。」


と、ゴミ捨て場にいたのは中村さんであった。俺は急いで手伝った。


「羽柴君まだ出勤前で私服なのにこんなゴミ掃除してもらってすいません」


「いやいや、ものすごい音が聞こえたのでさすがに無視はできなかったし、中村さんだったのでよかったです」


「ん?私でよかった?」


「あ~何でもないです。気にしないでください!」


「そっか、わかった。」


俺は顔が真っ赤になるほど恥ずかしくなった。「やべ~、つい会えたのがうれしくて口が滑った、変に思われてないといいけど…」と心の中で思った。そして無事二人でやったおかげで、整理が終わり、中村さんが、


「ほんとにありがとうございます。」


と言ってきたので、おれは


「いやいや全然大丈夫です!」


といった。そして二人でそのままエレベーターを待った。その時俺は思った。「連絡先聞かないと」と。なので俺は、中村さんに話しかけた。


「あの~中村さんってLINEとかってやってたりします?」


「はい、やってますよ。」


「もしよかったら交換してくれませんか?」


「もちろんいいですよ。逆にいいんですか?」


「はい!じゃあ今」


と言って俺が携帯をカバンから出そうとすると、


「あ~ごめんなさい。私の職場、仕事中に携帯いじっちゃいけなくて携帯事務所に置かないといけなくて今持ってないんですよね~」


「あ~そうなんですね、確かに今仕事中ですもんね。」


と、落ち込んだように言うと、


「でも私も羽柴君も連絡先交換したいので交換はしましょう。」


と彼女が言ってくれたので俺はとてもうれしかったのだが、なかなか会えない彼女とどうLINEを交換するかを考えていた。


「そうですね!でもそしたらいつにします?中村さんは仕事中つかえないですもんね」


「う~ん、どうしますかね。」


インスタのように名前等で俺がその場で検索して「これですか?」などと彼女と一緒に探せたらいいけど、LINEにはそのような機能はなかった。一応パスワードのようなもので検索できるにはできるけど、聞くのも失礼だし、あれを覚えている人はきっといないだろう。などと考えていると、中村さんは話しかけてきた。


「羽柴君は今日何時に終わりますか?」


「今日は休日なんで、21時30ですね。」


「じゃあ休憩室で待ってますよ。」


「いやいや、待ってもらうのは申し訳ないです。ちなみに中村さんは何時までですか?」


「私は今日は20時45分くらいですかね。」


「さすがに45分も待ってもらうのは悪いですよ。」


「大丈夫です。今日は私もいつもより退勤時間早いですし、さっきも助けてもらいましたし。休憩室でゆっくりしてますw」


「ほんとですか?じゃあ俺も早めに行けるように仕事頑張ります。」


と、結局中村さんを待たせてしまう結果にはなってしまったが、連絡先を交換できると思い、俺は飛び上がるような気持ちになった。そして俺と中村さんはエレベーターに乗り、3階へついたところで中村さんが降りながらこう言った。


「休憩室で待ってます」




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