第7話 戦争6

「降参...か」

ヒューロスはため息交じりに小さくつぶやく。

「それはありあえないな」

と隣にいた騎士にきっぱりと言い切る。

「それは、なぜでしょうか?この絶望的な状況。覆せるんでしょうか?」

「ワシたちだけじゃ無理じゃ」

「じゃあ一体どうすれば」

「東側の軍が援護に来るのを待つんじゃ、ワシたちにはそれしかない」

「本当に来てくれるでしょうか?あちら側にも二千五百もの敵兵が行っているはずですし」

ヒューロスはそういわれると過去を思い出す。

「もしかして陛下の教育係だったときのことを思い出しているんでしょうか?」

騎士にそう言われる。図星だった。

「失礼ながらも秀でた才もなかったと影の噂聞いたことがありますが」

騎士は申し訳なさそうな顔で言う。だがその発言は真実だった。


ケーベルスが幼少期、ヒューロスはケーベルスの教育係を任されていた。

ケーベルスの前は兄であるヒュルストレスを教えていたこともあった。

ケーベルスは一つ言えば平凡、目立った特徴はなかった。

筆記なども全部そこそこできる、程度だった。

戦法の紹介をし、それを解説させるとなにか一つ足りなかったりした。

軍の陣形の組み方なども紹介したが全て完璧には理解できていなかった。

ケーベルスは才能はない。とヒューロスは見切りをつけていた。が、そんなケーベルスも一つ、飛び出た才能があった。これだけは絶対に勝てないとヒューロスに思わせるほどの才能が。

それはボードゲームだった。オセロだったりチェスだったりだ。

最初は有利と思っていても、これは詰ませたと思っても、だがなぜか最後にはこちらのキングが倒れていたり、相手の色のほうが多かったりする。

序盤、中盤は絶対に勝っていた。あと一手二手で詰ませられそう。だがそれが届かない謎の手によってこちらの盤面が荒らされている。


「まぁ確かに秀でた頭はなかったかもしれない。だが、それを凌駕するほどの『なにか』を持っている」

「なにか、ですか?」

「そうだ。ケーベルスには悪い言い方をすれば不気味さがある。それが元教育係のワシからの評価じゃ」

「ただそれだけで、援軍が来るとお思いなんですか?九百五十もの兵の命がかかってるんですよ?」

「わかっている。ただワシにはただなんの策も無しにケーベルスが軍を分けてこんな無謀なことをしないと思うんじゃ」

ヒューロスがそう言うと騎士は呆れたような表情をして

「まぁ、あなたが左側の軍の指揮官だから従いますけど」

と、ため息交じりにつぶやいた。

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