第5話 戦争4

「陛下!正気ですか!?」

思わず一人、声を張り上げる。

それは黒髪を短く切りそろえた三十代後半ほどの男性将だった。

そしてその隣に座る老将は下を見つめながら後頭部に手を組んで置き、何か小さく独り言をつぶやいている。

「やはり、国王に指揮を任せるんじゃなかった。任せたからこんな」

と同じような内容をぶつぶつ呟いている。その独り言はケーベルスまでは届いていない。

「俺は右側の軍の指揮を執る。左側はヒューロス。任せた」

そう言い、ケーベルスは独り言を呟いている老将を見つめた。

ヒューロスと呼ばれた老将は背筋をピンと張り直し、一瞬黙り、そして

「分かりました」

と返答した。


カルケス率いる兵約百人は砦に向かうべく足を走らせていた。

まだ十分ほどしか登っていたがあと五分もすればたどり着きそうである。

カルケスがもうすぐ着くと安心していると、前を歩いていた騎士が声を張り上げる。

「敵襲だー!敵襲!!」

カルケスは最悪の報告に頭を悩ませるが、ここまで来てしまった以上引き下がれもしない。

「皆の者、剣を抜け!ここの場面、絶対に勝つぞ!」

カルケスが剣を抜くとほかの騎士たちも続々と続いて剣を抜き続ける。

全員が剣を抜き終わると敵兵の姿も確認できていた。

カルケスたちの少し上にいるリニアリス兵、約百人である。

カルケスはまたも声を張り上げる。

「皆の者、固まれ!孤立するんじゃないぞ」

カルケスがそう言うと他の騎士たちがカルケスの元へと近寄ってくる。

そしてカルケスの前に立った兵が、いきなりカルケスに倒れてくる。

カルケスは慌てて受け止め、倒れた騎士の顔を見る。そうするとその騎士の額にはあざがついていた。

そしてそれが開戦ののろしと言わんばかりに大量の石がこちらに投げ込まれてくる。

ある騎士は剣を前に出し石を防ぎ、そしてある者は木を盾にして投石を防いでいる。

そしてある瞬間ピタリと投石がやみ、そして上から敵兵たちが流れ込んでくる。それに対応するようにカルケスの兵たちも相手に向け剣を向ける。

そして激戦が始まった。時刻は真夜中、松明の明かりを頼りにしなければ相手は全然見えなかった。


隊列を組んだ兵たちを半分に分け、右側の指揮はケーベルスが執る。

右側に分かれた約九百五十の兵は急いで川渡る。その川の深さはひざ下に足が浸るほど。

そして右側の軍が渡りきり、対岸を見るとその光景は意外だった。いや正確にはケーベルス以外が意外だと思っていた。

川の前に居る兵が想像より少ないのだ。ずっと。

見積もると約千五百ほど。それでもこちらの兵力よりは多いのだが。

こちら側に来た兵士が千五百、進軍してきた兵が八千。つまり六千五百の兵が左側の軍に向かうこととなったのである。



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