第4話 千秋の暴走


 ベッドに座っていた千秋は突然、‪何かを振り払うかのように立ち上がった。

 その瞬間、俺はヒヤリと不穏な空気を感じた。


「瑞生はオレなんかと一緒にいない方がいいんだ。オレは実家に帰る!」


 千秋は大股で足を踏み鳴らしながら部屋を出て行く。


 (あぁ、まずいな。)


 俺はたぶん冷静だった。なぜなら前にもこういうことはあったから。それに、相手が取り乱すほど逆に冷静になっていくような気がする。

 それでも、自覚ない焦りが俺の心臓をうるさく鳴らし締め付ける。

 「落ち着けよ。」

 声にするが届かない。俺は千秋の背中を追いかけた。


「待てよ千秋、俺はそんな話はしていない。」


「瑞生はそういう意味で言ったんだろ!

 瑞生はオレなんかと一緒にいない方がいいんだ。…オレ実家に帰る!」

 千秋は言葉を発しながらもずんずん前を行く、俺はこれ以上離れないように距離を詰める。


「俺はそんな話はしてない。」

 声を張るが千秋は止まらない。耳に届いても心には届かない。しかし、これ以上語気を強めても俺が怒っていると誤解されてしまいそうだ。


(困ったな。こんな時はどうしたらいい?)


「やめて、もう嫌だ。もう嫌だ。」

 千秋は混乱して怯えるように逃げる。

 壁にぶつかり、棚から何か落ちる音がするが、俺はそれには目もくれず千秋に手を伸ばす。


「千秋、待って。」


「オレなんか死んだ方がいいんだ。」


 上着も着ないまま玄関から出ようとする千秋の肩を、俺の手が掴んだ。


「待てよ。」

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