第3話 瑞生の憂鬱

 仕事から帰った千秋は、俺が作った料理を食べていた。


 千秋の職場は厳しくないので、髪をかなり明るく染めている。ほとんど金髪。

 俺は千秋の髪色、嫌いじゃないけど…

 生え際黒くなってんぞ。


 ガン見し過ぎたな。

 俺は手元に視線を落とした。

「千秋、髪プリンになってるからまた染めような。」


「あ、おう。その内な。」

 気のない返事。


 千秋はこの手のことは先延ばしにしたがる。ごはん食べたらブリーチ買ってこよう。



 千秋は俺と違って社交的で、明るくて、

 背も高いから上の棚も手が届くし、一緒に住んでいて何かと助かっている。

 俺は特に何も持ち合わせていないけど、千秋のためにできることはしてやりたいと思っている。



「料理美味しいね。」

 ―嘘だ。ぜんぜん減ってないじゃん。

 本当に美味しかったら千秋はペロッと全部食べるだろ。

 俺の料理が上手くないことは自分でわかってるんだよ。

 料理の腕も千秋にかなわない。


「テレビ面白いね。」

 ―言った直後に消すなよ。意味わかんね。


「何してるって、作曲してるよ。」

 ―嘘だ。

 手にしているiPhoneからいつもの動画の音が漏れてる。


「お酒?飲んでないよ。」

 そこの空き缶と空き瓶は何でしょうか?

 こないだ酒やめるって千秋から言い出したばっかだろ。


「タバコ?吸ってないよ。」

 臭いますけど?ほら、吸い殻あった。

 俺に隠れて吸ってるのがバレるのなんて、数えてないけど今まで10回以上はある。


「怒ってないよ。」

 そんな怒った顔で怒鳴られましても。


 千秋は俺に嘘ばっかり言うようになった。

 前はそんなんじゃなかったのにな。


 千秋は知っているだろ。

 もう何回も言っただろ。

 俺が一番嫌いなのは、嘘をつくことだ。


 嘘をつくということは、信用するなと言っているようなものだ。

 どうして千秋は俺に嘘ばかり言うんだ。


 俺にだけは、本当のことを言ってくれていると思ってたのに。

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