SI!BU!YA

部屋に入るなり、エネルは何やら真剣にここの地区の地図を見ているではないか。


   「お、エメルちゃんの授業は終わったのか」


親戚のおじさん的なオーラを放ちながら俺に聞いてきた。


   「まぁエメルさん曰く、大分簡潔にしたそうですけど、7割り近く何を言ってるのか....」


   「それもそうだよな~この地球での魔術なんて空想の物としてしか認識されてないからな、分からないのも仕方ない」


俺にフォローを入れてくる辺り、親戚のお兄さん的なオーラも漂ってくる。


   「まぁいいよ、一様右腕について少し分かった事があるから。で、エネルは何でここら辺の地区の地図なんて見てるんだ」


この部屋に入った瞬間から、机の上に国立駅周辺の地図ではなくここから少し離れた、渋谷の地図を広げてまじまじと見ている。


   「あぁ、異形種ってのは人を排除するために作られた生命体って言っただろ。という事は、人が多いところに必然として群がるように配置される。さっきネットでこの辺り周辺で人がいっぱいいる所って検索したらここが出てきたから、今日はこの渋谷に行ってみようと思う」


   「人に群がる性質....じゃあ学校とかも人が群がるはずだけど、何で学校には異形種が現れないんだ」

 

   「異形種ってのは、基本夜にしか出てこないようになっている。だって朝とか昼とか皆が活動している時に出てきても、目立って警察やら自衛隊やらにやられるのが、この惑星は分かっているからあえて深夜の日付をまたいだ頃に、駅周辺にいる、残業終わりのサラリーマンとかを襲ったりするのだろう。よく見てみるとこの渋谷って場所、路地裏とかあるしここに持っていけば、あとは殺すだけって感じだな。そしてその死体を捕食し地球という惑星に還元し、寿命を伸ばす。改めてこのシステムには恐れ入るよ」


絶句した。毎日あれだけ失踪事件とニュースされていて失踪に合った人の家族達はいつまでも帰りを待ち続けているのに捕食されているだと。だとしたら一刻も早く.....

   

   「はやる気持ちは分かるけど、落ち着け刹」


   「でも.....」


   「取り合えず刹は、まず異形種の実態を確認することが大事だ。どんな姿をしているのかも分からず、ただ最初から殺すことだけを考えていると足元をすくわれるぞ」


   「そうだよな、ごめん」


激しく酸素を送る心臓に脳が落ち着けと命令する。


   「今の時刻は....9時40分か、渋谷駅近くも見ておきたいし....」


一人で何やら呟いているエネル。  


   「刹、この国立から渋谷までは何分かかる?」


   「電車を使えば35分ぐらいかな、でも何で」


突如として、交通の話を聞いてくるので意外だなと思いつつ、つい聞き返してしまった。


   「そりゃ、今から行くからに決まっているからだろう」


そうか、俺達がこうしている間にも異形種が出現する時間に一刻と近づいてるのか...でも


   「待って、心の準備がまだ....」


   「そう言っているうちにも、異形種に襲われている人がいるけどいいのか」


そこで、ハッと目が覚めた。何を心の準備だとか甘ったれたことぬかしてるんだ俺。襲われる人は何の前触れもなく襲われているんだぞ!!甘い考えを持ってしまった自分への罰だと舌を思い切り噛んだ。


   「分かった、後何分後に出発するんだ?」


気持ちを切り替え、エネルに尋ねる。


   「そうだな、俺も初めて行く場所だからやっぱり少し早めに行ってどういう所か把握しておきたいからなぁ......まぁ、エメルちゃんがこの部屋に帰ってきて、凛ちゃんが寝静まった頃ぐらいかな」


幸いにも家の妹は寝る時間が早いので、後もう少しで出れそうだ。


   「分かった、それまでに準備しておく」


何を準備しておけばいいかは分からなかったが、取り合えず財布と携帯だけで十分だろう。


用意も終わり暫くエネルと地図を眺めていると.....


「たっだいま~ってあれなんで二人ともそんな神妙な面持ちで地図眺めてるの」


凛との歯磨きを終えたエメルさんが軽快に部屋に入ってきた。


  「今から渋谷に異形種狩りにいくんだよエメルちゃん」


  「渋谷!!!やった~~」


エネルが目的地を言った瞬間に子供のように飛び跳ねるエメルさん。エメルさん、相変わらず純粋すぎる。


  「あくまで、いつもと一緒の”異形種狩り”だからねエメルちゃん」


  「はい....」


いつもとは逆な立場でエメルさんを落ち着かせるエネル。


  「エメルさんが来たってことは、凛ももう寝たのかな」


  「うん、一階の消灯は私がしたし、凜ちゃんは先に二階に上がっていったから」


念のため部屋を出て凜ちゃんの部屋を見てみると、いつも通り”寝ています”という板が扉の前に吊るされていたのを確認した。


  「よし、大丈夫そうだ。でも念には念だ、なるべくゆっくり出よう」


そう言い俺が先頭に出てから、その後をエネルとエメルさんがついていく形で部屋から出ていった。それからも凛には気づかれることなく無事に家から出れた。


  

  「ふぅ...取り合えず第一の関門は突破かな」


  「凜ちゃんには悪いけどね」


  「まっ、事情が事情だ仕方ないさ」



何とかここまでバレずにいったのだが......


「やっば、財布のお金絶対足りない.....」


財布と携帯だけを急いで用意したもんだから、昨日のカフェで使ったお金を補充するのを忘れていた。


  「エネル達は.......」


持っているわけないよな、第一お金を持っていたら、この家に泊まることなどしてないもんな。あぁ、本格的にどうしよう...


  「それなら大丈夫だぞ刹」


一文無しのエネルが自身満々にこちらに話しかけてくる。


  「悪いけどエネル、これはエネル達でも解決出来ない問題なんだ」


  「そんな問題すぐに解決出来るって。ほら、俺の手に捕まりな」


何故だかエネルは自分の左腕を俺に差し伸べてきた、その手を見る限りでは現金のようなものは乗ってはいないが....


  「こうか......」


  「あぁ、そんな感じだ。じゃあいくぞぉぉぉぉ」


するとエネルは地面を思い切り蹴り、とんでもない高さを跳躍した。


  「うわぁぁぁぁぁあ」


高い高い高い怖い怖い怖い、生まれて初めてだ、こんなに高い場所に無防備に放り投げだされる感覚はぁぁぁ。でも絶景でもあった、見渡す限り真っ暗だが、ぽつぽつと住宅街の光がまるで宇宙を表しているかの如く、ここからでは数十㎞ある国立駅までもが一望できた。恐らく俺の生涯でこの俯瞰景色は忘れることはないだろう。


  「よっ、よっ、と ちゃんと捕まってろよーーーー」


高層ビルに次々飛び移り、更にスピードを加速させるエネル。そのスピードが速すぎるので、空を切る風がナイフのように肌を切り裂いていく。


  「すすすす少しはぁぁそそ速度を緩めろぉぉこのバカぁぁぁぁぁぁ」


全力で叫んだので辺りにこだまするかと思ったが、それも虚しく、異常な速度の風に一緒に流されてしまった。その事にもちろんエネルは気づかず、更にスピードを上げていった。


  「こら、エネル 刹君が死んじゃいそうだから、少しゆっくりにしてあげな」


ナイスエメルさん。高層ビルを次々飛び乗っては、蹴って飛んでを繰り返しているエネルも疲れてはいるのかもしれないが、忘れないでほしい俺は普通の人間なんだと


  「それも、そうだ。よいしょっと」


  「え!?」


急に何を思ったのか、エネルは跳躍中にも関わらず、何も無いところで急にブレーキをかけた。辺りには蹴れる建造物などなく、あるものと言えば、エメルさん、エネル、俺ぐらいで、この気持ちを例えるなら、遊園地のジェットコースターの一番上で機械が止まったような感覚だ。


もちろんここは地球なので重力というものが存在する。重力があれば空中に浮いている物体は地面目掛けて、真っ逆さまに落ちるであろう。そう、俺達も例外ではなく。


  「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


  「ははははははははははははははは」


  「何してんのあの二人」


空中で対空することなく、地面目掛けて真っ逆さまに落ち続けた。そのエネルの行為に対し呆れたのか、エメルさんは一瞬だけこちらを振り向いてから、高層ビルを転々としていった。


  「しぬしぬしぬぅぅぅぅぅぅ」


落ちるという感覚は遊園地でしか経験したことがないが、これはそのような次元ではない、安全バーもあるわけないし、高さだって普通のアトラクションの数十倍だってある。

 

  「はははは、何度やってもこの感覚だけは最高だぜーーー」


なのに横で落ちているこの男は実に呑気なもんだ。真っ逆さまに落ちながらずーと笑っていやがる。こんなことになるなら家に財布を取りに帰るべきであったと、ひどく後悔した。


  「まずいぃぃいぃぃいぃぃぃいっぃぃぃ」


先ほどまでは高層ビルよりも遥か上にいたにも関わらず、落下しだした今では、高層ビルの屋上程度しか高さがない。死が急速に迫ってきているのが体を通して伝わってくる。


  「そろそろかな....」


エネルが落ちながらそう呟き、俺よりもさらに急降下して、俺の下へと潜った


  「今度はお姫様抱っこと行こうじゃないか」


するとエネルは自分の右腕を自らの落ちる方向へと思いっきり滑らした。


  「綺麗.....だ....」


その滑らした下の空には、エネル自身よりも何倍も大きい炎が弧を描いていた。その炎は人を悲しませるものではなく、花火やその他の娯楽の類で生み出された見ていて楽しい炎に近かった。すぐにして炎は花火のように消え去り、炎を描いた反動によってエネルが浮上し、俺をお姫様抱っこで抱えながら再び高層ビルへと向かって行った。



  「エネル今のは......」


あの炎は紛れもなく魔術とかそういうものによって生み出された物だろう、しかしエネルは魔術が使えないと先ほどのエメル先生の授業を受ける前に聞いていた気がするのだが。


  「あぁ、少し張り切り過ぎてね、少し権能を使ってしまったよ。こんな風に使うのは初めてなんだけどね」


  「今から異形種を倒しに行くんだろ、張り切るならその時にしてくれ」


じゃないとこっちの身が持ちそうにない。


  「ちぇ~つれないな~ 刹。まだまだ上があるのによぉ」


そうして俺の視線を逸らしながら、高層ビルの上を次々飛び乗った。これ以上上があるのなら、俺の体が蒸発するから是非とも俺相手ではなく異形種相手に発揮してもらいたい。  


少しした後にようやく目的地である渋谷駅が空中からだが見えてきた。


  「やっぱり、あっちの方が色々と発展してるな」


空中から数百メートルある所からでも分かるあの煌びやかな駅。駅周辺の公共交通機関だけが通る舗装された道路は、まるでレッドカーペットのように乗せている人達がスターでもあるかのような錯覚してしまうほどに美しかった。駅周辺では、何でもない日なのにも関わらず、たくさんのイベントをやっているように見えた。おまけにでかでかと広告が辺りを張り巡らしている。それを自分達が住んでいる駅と比べてみて、しょっちゅう駅に行くわけでもないのに少し羨ましいと感じてしまった。まぁ、もし自分達の住んでいる駅が渋谷駅のように煌びやかなら毎日駅にいても飽きはしないだろう。


  「あれが渋谷駅....俺達が住んでいる所の駅よりも良くないか」


  「ごもっともだエネル」


やはり生命体としての格は違えど、見てるものの価値観に変わりはないんだな。次第に転々としていた高層ビルとは言えなくなり、気が付けば地面と俺達の距離は数十メートルの差となっていた。下の人達が見えて、すぐ消え。また新しい人が見えては消えての繰り返しで、どれだけエネルがかっ飛ばして来たのかが垣間見える。


  「よっと、ようやく到着したぜ~」


流れるように抱っこしていた俺を地面に下ろして、一息ついていた。


  「ここまで運んできてくれてありがとエネル、死にそうな思いもしたけどそれなりにいい経験になったよ」


  「これぐらいはお安い御用だぜ、何なら帰る時は今の二倍の速度にしてやろうか」


  「それは勘弁してくれ」


今の速度でも死にそうだったんだ、これのさらに二倍なんて命の保証ができない。そう思っている所に、見慣れた水色の女性が近寄ってきた。


  「ちょっと遅かったんじゃないのかな、二人とも~」


そこには腕を組みながら、頭の近くに(怒)のマークがついていそうなエメルさんの姿があった。夜中の渋谷駅。辺りは会社終わりのサラリーマンや、ビラ配りのお姉さん、デート中のカップル達と、国立駅ではあまり見られない光景がそこにはあった。その中でもたった一人街灯に照らされたエメルさんは、怒っている姿でさえ絵になっていたので、周りからの視線を集めていた。


  「あのねぇ、ふざけてたかは知らないけど限度ってものがあるでしょ」


これはかなりご立腹だ。実際エネルの速度は、最後になるに連れて段々と遅くなっていたから、エメルさんが長い間待っていたのも頷ける。


  「ごめんなエメルちゃん、でもその手に持っている物を見ると、十分に満喫していたようにも見えるけど」


エネルがエメルさんの右手に持っている袋を指さし言った。


  「これは...その...あれよ!あまりにも来るのが遅かったから、少しこの辺を探索してたら偶然たこ焼き屋さんを見つけて、匂いだけで食欲をそそってきたからつい買ってしまっただけよ」


  「正直でよろしい」


右手に持っているたこ焼きが入っていたであろう袋を振り回しながら主張してきた。


  「で、肝心の異形種のことだけど。今見回った限りだとまだ出てきていないって感じかな」


現在時刻はちょうど10時に差し掛かった所だ、エネルから聞いていた話によれば異形種の出る時間帯には少しのばらつきがあるので、こうして少し早く来たらしいが、未だに異形種は目撃できていない。


  「まだ出ていないなら、少しだけこの渋谷スクランブルで遊ぼうぜ」


本来の目的を放棄したのか、唐突に遊ぼうなどと言ってきた。


  「異形種が出るまで、渋谷周りを散策するんじゃなかったのか?」


  「分かってないな刹 遊びながら散策するに決まっているだろう。てことで....あ、あの建物上にボーリングあるって、行ってみようぜ」


こちらが呼び止める前にエネル達は目を光らしながら、ボーリング施設へと入っていってしまった。


  「まったく好奇心ほど怖いものはないな.....ってあいつら金持ってないじゃねぇかぁぁ」


全員一文無しでここまで来たんだ。交通費はおろか娯楽までにさけるお金なんてあるわけない。


  「まさか、無料で出来るなんて考えてないだろうなぁあいつら」


もし予感が当たっていたらおそらく面倒事になるので、二人を止めるべく、慌てて俺もボーリング施設へと向かった。


  「はぁ...はぁ.....はぁ....」


お店の中は実に煌びやかに装飾してあったが、それはこの店を出る時に気づいたことであり、入店する時には、周りなど見えておらずただただ二人を止めるべく全速力で走っていた。


  「はぁ.....やっと....見つけた....」


肩を上下に動かしながら呼吸する。俺の全速力ダッシュで二人の早歩きに追いつけないなんて、あの時よりも落ちたものだな俺も


  「どうしたの~刹君そんな息切らしてどうしたの?」


エメルさんは俺の疲れている姿を見るや否や心配そうに聞いてきた。


  「お金....ないだろ...」


  「お金......あぁ、それなら大丈夫」


エネルは自信満々に自分の財布に入っているお札を見せてきた。そこにはなんとびっくり、エネルの手がいっぱいになるほどの一万円札があるではないか。というかそんなお金があるのならば空中散歩などやらずに電車で行けばよかったのでは、と頭の中をよぎったが後の祭りだ。

  

  「どうして、そんなにお金あるんだ?」


ようやく呼吸が安定し、そのお金の事について問いただす。


  「聞きたいか?」


エネルの手によってお金は、意識を持っているかのように揺れている。


  「あぁ、どうして一文無しのお前が、そんな大金持ってんだよ」


  「バイトだよ」


  「え!?」


  「それもとびきりのやつ」


周りに聞こえないように配慮してなのか、エネルは小声で言ってきた。


  「どこのバイトだよ?」


自分自身もバイトをしている身分として、たった一日でそんな大金が貰えるバイトがあるなら、是非ともそのバイトを掛け持ちしたいもんだ。


  「それは秘密だ」 


  「おい、それって本当にちゃんとしたバイトなんだろうな?」


短時間で、それにそんな大金が貰えるバイトなんて、怪しさマックスでしかない。


  「ちゃんと合法的なやつだから大丈夫だ」


ここで合法とか言ってしまうあたり、本当に大丈夫か、と思ってしまう。


  「取り合えずお金持ってるんなら良かったけど、俺はあっちにいるからあんまりはしゃぎすぎんなよ」


  「あっちて...刹も一緒に行くんだよ」


  「おおぉ...」


無理やり襟元を引っ張られながら、ボーリングがある場所へと強制連行される。


  「待て待て、俺ボーリングなんてやったことないぞ」


  「なら私たちと一緒だね刹君」

  

  「?」


俺は不思議そうにエメルさんの顔を見つめる。


  「実は私たちもボーリングって言うものだけは知ってはいたんだけど、実際にはやったことなくってさ。折角なんだし初心者同士対決でもしてみましょうよ」


確かにエメルさんの言う通り、初心者同士なのだから下手な気を使わずに済みそうだ。

  

  「なら俺も参加します」


  「本当、やった~~」


嬉しそうにぴょんぴょんとウサギのように跳ねるエメルさん。


  「覚悟してろよ刹、ボーリングをやっている動画を何十回と見たんだ。ただの初心者とは言わせねぇよ」


  「ふん、こっちだってただ負けるわけにはいかない」


やったことはないけど、ただ玉を投げて10本のピンを倒すだけだろ。それなら案外他のスポーツと違って俺でもいけるんじゃないのか。などと少し期待を胸に膨らましながら、ボーリングの場所へと向かっていった。









  「惨敗だ....」


ボーリングというものを随分と甘く見すぎていた。ただ玉を投げて10本のピンを倒すだけだろ、なんて考えをしていた自分を殴りたい。第一何なんだあのボールの重さは、一番軽いボールを選択したのにも関わらず、重すぎて重心が全部ボールに持っていかれそうだった。おまけに投げる時にかかる腰と手への負担が以上だ。これは明日には筋肉痛だろう。そして一番思ったのが、真面目にやっているつもりのはずなのに、一向にガターばっかりでピンにかすりもしない。そんなこんなあり、異形種の偵察に来たはずなのに、ボーリングだけで随分と体力を持っていかれてしまった。椅子にぐったりとしている所にエネルとエメルさんが気遣って水を持ってきてくれた。


  「はい、これお水」


  「ありがとうございます」


  「まさかあそこまで、下手だとは思わなかったぜ」


一方で初心者だとかぬかしていたこの二人は、当たり前のようにストライクばかり取っており初心者とは一体....となったが、そもそも先輩の言っていた通りに一つや二つ上の次元の存在なんだ、やったことなくても感覚で何となく分かるものなのだろう。


  「うるさいなエネル、あれでも一様全力でやったんだぞ」


特別激しい運動をしていないにも関わらずこれだけ息が上がっているのは、流石に自分の体力のなさを痛感した。


  「ふふふ、まぁいいんじゃない、誰だって最初は下手なんだもの」


おいおいあんた初心者とか言っていたけどめちゃくちゃ上手かったじゃないか。


  「でも、ここでくたばってちゃいけない」


正直遊び疲れて帰ってベットに直行したい所だが、それではただの遊びに来た奴らになってしまう。


  「あぁ、そうだな。時間も時間だし、もうそろそろ異形種が出てきてもおかしくない頃合いになってるな」


  「くっ.....」


深夜の11時 大体の人は寝静まる頃。一方では残業をさせられて、今から家へと帰る社会人。そんな夜遅く帰る社会人達を筆頭に、今もなおここら近辺での集団失踪事件は絶えない。それらの原因とされる異形種が今夜もこのあたりを埋め尽くし、駅に残っている社会人他諸々を殺すだろう。そのような現状を知り、俺は到底許すことができない。地球という大きな生命体に対して、やり方があまりにも外道で卑劣でみみっちすぎる。罪のない人達を殺すことも、そのやり方も、何もかもが許されない。それが例え一時の崩壊の抑止になったとしても、そのやり方では地球だけが幸せになるだけじゃないか...


  「せ.......刹、何をぼやっとしてんだ、行くぞほら」


  「あ.....」


エネルに呼ばれ、滾っていた頭を冷やし、意識を外界に向ける。どうやら少しの間考え事をしていたようだ。徐々に痛くなってきている体に鞭を打ち、椅子から立ち上がる。


  「よし、行くか」


そう言って、楽しかったボーリング場を後にし、外にある戦場へと赴いた。

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