問題児

その後は、無事に目的のマヨネーズも買えたのだが....


   「せっかくここまできたし、明もリフレッシュしろとか言ってたからなんか気分転換にどこか行こうかな」


明から言われたことを思い出し、何か良い所はないかと考える。


   「うーん いざ考えてみると案外出てこないもんだな」


普段からは、あそこに行ってみたい、ここに行ってみたいと思いつくのだが、こういった時に程行きたい場所は特にない。


   「そういえば....」


そういいながら、財布の中身を見る。


   「あった」


見つけたのは、この前要らなと凛から、渡された駅前にオープン仕立てのカフェだった。


   「別に行きたいと所ないし、気分転換には最適の場所だろう」


と、思い家に帰る方向の逆を行き、駅前のカフェに向かったのであった。


歩いて約20分ようやく駅前にたどり着いた。


   「はぁはぁ、ここに着くまでに身体の面での疲れも出てきてしまったじゃないか」


と言いながら、目的のカフェに向かう


   「朝っぱらからかしんないけど、人は少ないな」


駅前は非常に閑散としていて、駅前というには、あまり活気がない。それもそのはず、この駅前は都市部との駅前とは違い全く持って発達していない、都市部の駅前では、学生が遊べる場所がたくさんあると聞くが、こっちの駅前はほとんど移動するために来る場所と認識されている。そのため駅自体の回転率はものすごく早い。


   「この格差をどうにかしてほしいもんだ」


そんな中俺はほとんど人がいないので、真ん中の道を歩いて優越感に浸ろうとしたが、如何せん暑すぎるので、結局日のささない端っこの方を歩いてしまっている。これも年をとってきている証拠なのだろうか。



   「はぁはぁ、早くカフェに行って休憩しないと体も持たなくなってしまう」


20分以上も歩いているので、いい加減休みたいと思いながら歩いていると、ようやく目的のカフェに着いた。


   「おぉ....」


これは、驚いた。最新の建物と聞いていたので、キラキラしている内装かと思ったが、そんな事は一切なく、むしろ大人が好みそうなモダン風な内装になっていたのだ。実際、俺もあまり期待はしていなかったのだが、これだけ落ち着いた雰囲気があるのなら、ここに通って勉強でもしたいとさえ思えた。駅前の調子があれなので、ここにも人はまばらにしかいなったが、むしろそれがいい味を出しているだろう。


   「お客様 ご注文はどうなされます?」


   「あっ すいません。今決めます」


俺があまりにもこのカフェの中で棒立ちしていたのか、それを心配した店員さんが寄って来てくれた。


   「どれどれ....」


店の入り口付近にある、メニューに目を落とす。メニュー自体は、一般的なものとはそこまで大差は無いだろう、俺でも知っているようなものばかりある。でも、逆にそこがいい、最近の店はすぐに流行に乗りたがる。流行っては、すぐ廃れ、そしてまた流行って、廃れ、最近はそんなイタチゴッコを繰り返している気がする。しかしここは、普通の物しかおいていないとはいえ、昔ながらのカフェの良さをとことん追及している気がする。流行りには乗らない、俺達は王道を往くという思いが内装と言い、メニューと言い伝わってくる。今はあの朝食のせいで、あまりお腹は空いていないので、コーヒーだけ頼むことにした。


   「アイスコーヒーを一つお願いします」


   「かしこまりました」


注文を済ませ、先にテーブルへと腰を掛ける。一人で来ているのに、テーブルに座るのはいかがなものなのかとは思うが、外観から見たこの店の中は意外にも広く、また、あまりお客も時間帯的にはいないので、少し罪悪感はあるが、20分以上歩いてきた報酬という形で埋め合わせをした。


   「アイスコーヒーのお客様~」

  

   「は~い」


この店は、セルフで取りに行く仕様になっている、少しでも店員さんの負担を減らすといった方法なのだろう。まっ今じゃこのやり方も当たり前になっていき、そこまで特別感は感じなくなっているが。


   「お待たせいたしました、アイスコーヒーです」


   「ありがとうございます」


そう店員さんにお礼を言い、さっきまで座っていた、テーブルへと戻る。始めてきたこともあり、本来の味を知りたいので、砂糖やクリープなどは入れない完全なブラックコーヒーとして飲むことにした。


   「いたただきます」


そう言いながら、一口飲んでみる。


   「これは....」


なんということだろう、普段は苦味があるといって嫌っていたが、全くといっていいほど苦くない、むしろ甘味すら感じられる。多分店員さんの豆の挽き方が上手いからなのだろう。後味もしつこくなく、コーヒーが嫌いと言っている人でも飲みやすいように作ってるのであろう。


   「完璧だ、文句のつけようがない」


   「だろう。私もここはお気に入りでね、先輩も来るなんてびっくりだよ」


内装からコーヒーの味まで、あぁ、他のメニューも是非食べたいと思ったが、そんなお腹の猶予はなく、これほどまでに自分の満腹中枢を恨んだことはない。


   「そうだ、意外だろう、俺もこういう所はたまには..........ってなんでお前がいるんだ」


そいつが平然と話してくるので、こっちも普通に返しそうになってしまった。


   「何を今更。先輩が、この店に入った時から、ずっといるんですけど」


ずっと内装やらメニューしか見ていなかったから気づかなかった。


   「そ、そうなのか、いやぁ~世界は小さいものだなぁ~ははは」


   「誤魔化しても無駄っすよ。先輩この店に入るなり、棒立ちになるからあまりにもおかしくて」


   「そうか、それは悪かったな」


コイツは1年3組の柊 稜楓(ひいらぎ りょうか)美術部に所属しており、俺からしたら後輩という立ち位置にあたる。性格は若干おかしくはあるが、美術部の中で一番風景画を描くのが上手く、柊の描く風景は妙に引き寄せられるというか吸い寄せられるというか、具体的には表せないが、それほど魅力があるため、性格との差し引きもかねてプラマイゼロになっている。



   「誰が若干おかしいだ!」


   「心の声が読まれただと....」


   「そんなもん先輩の顔を見れば一目で分かるっすよ」


   「はいはい、すみませんでした」


いつもは柊の方が俺をおちょくってくるのだが、今日はなんとも珍しく、俺がおちょくっている。


   「で、聞きたいんだけど、何でお前朝の早くからこんな所でコーヒー飲んでんだ?」


   「それは、こっちのセリフですけど...まぁ単純に調べものをしていて疲れたのでここで休憩していた所っす」


   「はぁ~みんな調べものばっかで勉強熱心だな。一体何を調べてるんだ?」


   「この街に起きた不可解な事みたいな...」


   「なんだそれ」


探偵家じゃあるまいし、よっぽどの物好きなのだろう。


   「先輩こそなんでこんな所で優雅にコーヒーすすってるんすか?」


   「まぁ、大体お前と同じ理由だ」


   「先輩も休憩に?」


   「あぁ」


   「朝の早くから暇人っすね」


   「お前が言うな」


やっぱりやり返されるのであった。


   「ていうか、お前意外にコーヒー飲むたちだったんだな」


   「意外とは失礼っすね、これでも私結構飲む方っすよ、その代わりおしっこは人一倍するっすけど」


コーヒーの利尿作用なのだろう。それよりも辛うじて女の子っていうカテゴリーに入ってるんだから、おしっこなんて下品な言葉は使わないでほしい。


   「それは、意外だった。お前いつもイチゴオレとかしか飲んでなかったからさ」


   「イチゴオレは、特別っすよ。あれほど美味しい飲み物があるなんて、高校に来て始めて感動したっす」


感動のハードル低っく


   「相変わらずお前の価値観は良く分からないな」


   「そうっすか、へへへ」


と言いながら少し照れた様子で自分の髪を掻いていた。その柊の仕草が意外に女の子らしかったので、つい、目をそらしてしまった。


   「全く、お前のペースにはついていけねぇよ」


   「もっと頑張ってついてきてくださいよ」


少しはペースを落とせと心の中で思った。


柊と話している間にコーヒーは全て飲み終わってしまった。


   「今度機会があったらまた行ってみたいな」


   「先輩は今日ここに来るの初めてなんすか?」


   「あぁ、初めてだよ。たまたま割引券持ってたから、どうせ捨てるなら、使ったほうがいいと思って」


   「割引券?」

   

   「ん?割引券がどうかしたのか?」


   「ちょっとその割引券確認してもいいっすか?」


   「別にいいけど」


財布から割引券を出し、柊に見せる。


   「先輩...」


   「どうした」


何やら神妙の面持ちでこちらを見てくるので、こっちも不安になってくる。


   「これ期限切れっすよ」


   「え?」


慌てて柊から割引券を返してもらい、日付の所を確認する。するとそこには、6月いっぱいまでと書いてあるのではないか。凛から貰ったのは、数週間前で、流石に大丈夫だと思って確認せずにいったらこれだ。


   「まじか....」


   「先輩って普段真面目オーラ出してるくせして、案外こういう所で天然な所あるんすね。なんすかギャップ萌え狙ってるんですか」


   「違う」


これは、俺の確認不足が引き起こした、災い。これは先輩のことは言えないな。


   「まっいっか、これは使えないけど、おかげでいい店を見つけられたし」


   「切り替えるのはや!ポジティブ思考過ぎっすよ先輩」


   「そうか」


そういえばここに来て、柊と喋りながらコーヒー飲んでたら、いつの間にかリフレッシュして前向きになっている。これも提案してくれた、明のおかげだな。後柊にも何か....


   「そうだ、さっきお前不可解な事について調べてるって言ったよな」


   「そうっすけど、それが何か?」


   「知ってるかもしれないけど、学校の近くの公園にクレーターが出来たんだ」


   「なんすかそれぇぇ!!!」


今までにないほどの食いつきぶり、まるで餌の前に群がる鯉のようだ。


   「知らないのか、お前なら誰よりも早く知って現地に行きそうだったのに」


   「いやぁ、最近ちょっと忙しくて」


なら、ここで休憩してる場合じゃないだろう。


   「それで、もっと詳しく」


   「詳しくって言ってもな、普通に公園の真ん中ら辺に直径2メートルのクレーターがあるだけだぞ」


   「それは、普通とは言わないんすよ先輩」


珍しく、まともなツッコミをしてきた柊。自分でもなぜ普通と言ったのかは分からない。


   「まぁ、確かに普通とは言い難いが、あるものはあるんだ」


   「そうなんすか、ちょっと気になるんで今から行ってきます」


そう言って立ち上がり素早くお会計を終わらして店から出ていこうとしていた。


   「じゃ先輩また明日の部活で」


   「あぁ、遅刻すんなよ~」


   「大丈夫っすよ~」


と言いながら颯爽と店から出ていき、クレーターのある公園へと向かっていった。


   「遅刻常習犯が何言ってんだか」


柊はいつも部活に遅刻し、遅れる度に毎度毎度言い訳をしている。逆に毎日遅刻していて言い訳のレパートリーに底がつかないのは純粋に凄いとは思った。


   「俺もここに残る理由もないし、十分にリフレッシュ出来たし帰るとするか」


家では、兄の帰宅を今か今と待ち続けてる妹がいるので、名残惜しいが今日はここでお暇することにした。


席から立ち上がり、使えないクーポンにお別れをしながらお会計を済ませ、店を後にした。

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