第24話 一緒に遊ぼう!
ムジナ会のサロンにて、レシチーが泣きながらリーナに懇願していた。
「頼むよぉー! 一緒に来てよぉー!」
「だからなんでお前の遊びに付き合わなきゃならねぇんだよ!」
初めてのお店に行きたいとのことだが、相変わらず始めの一歩を踏み出す勇気が出ないリーナが付き添いを頼んでいたのだ。
「しかもよりによって後ろで遊ぶ店とか……」
「ダメ?」
「見たくねぇに決まってるだろ!」
以前から後ろで遊ぶことに興味を持っていたレシチー。しかし自分一人での訓練に限界を感じたために、お手伝いしてくれるお店に行こうとしていた。だが結局今日まで勇気が出ず、この有様。
「
そう言いながら、セレンが彼女たちの隣の席に座った。
「セレンさん! 前の試合、見に来てくれたの?」
「えぇ、ジュニアとはいえ見ごたえのある試合だったわ。二回戦進出おめでとう。次は三日後だったかしら」
「なんだよ、来てたなら声かけてくれればよかったのに」
「公爵家ともなると会場側から特別な席が用意されるの。ところで親友の頼みくらい聞いてあげればいいのに」
セレンは簡単に言ってくれるが、いくら親友でも内容が内容である。
「じゃあお前が頼まれたら、一緒に店で遊んでやるのかよ?」
「別に構わないわ。むしろ代わりに私がエスコートしてあげる」
そう言ってセレンはレシチーに笑顔を向けた。彼女から発せられた意外な言葉に、二人の動きが一瞬ピタリと止まる。
「お前、そういう趣味だっけ?」
「残念ながら違うわ」
「いや別に残念じゃねぇけど」
冷静に返すリーナをよそに、セレンがレシチーの肩に手を乗せた。
「困っている会員を助けてあげるのがリーダーの務めでしょう」
そう言って笑いかけるセレンからは、下心は全く感じられなかった。純粋な親切心がここまで人を輝かせるものなのかと、リーナは感心する。やることが純粋かどうかはともかくとして。
「良かったなレシチー、セレンが付き合ってくれるってよ」
ようやく解放されると息をついたリーナだったが、レシチーは顔を赤くしながら視線を下に向けた。
「いやぁ、公爵家の娘さんに遊ぶとこ見られるのはちょっと……」
「ここに来て恥ずかしがるのかよ!?」
「そーだそーだ! セレン様のお気持ちを無下にする気か貴様はー!」
長椅子で漫画を読んでいたテフィルが、悪ノリしてレシチーを煽ってきた。自分の姉が『セレン様のお気持ち』の犠牲になったことへの意趣返しもあるだろうか。
「気にすることないわ、見られることに羞恥を感じるのは当然こと」
セレンは寛大な心でレシチーを許した。
「でもリーナに見られるのは平気なのね」
「だってお泊り会とかじゃ一緒にお風呂入る仲だし」
「自宅の風呂とお店の風呂じゃレベルが段違いだろうが」
具体的に何が違うのかは明確には言わなかったが、前の方ではすっかり遊び慣れたレシチーが理解してないわけがないだろう。
「ほぅほぅ、ということはもしかして――」
テフィルが漫画を長椅子に置き、意味深にうなずきながら三人の元へ近づいてきた。
「怖がってたのはリーナと一緒に遊びたいがための口実だったり?」
ニマァと笑いながらレシチーの顔をのぞきこむ。
「お前……そういう目であたしを見てたのか……?」
若干引き気味のリーナがレシチーに尋ねた。
「そ、そんなわけないでしょ! 店での遊びに限らず、昔からこういう性格だったじゃん!」
レシチーが否定しつつ、かわいげのある顔を更に赤らめながらリーナに同意を求めた。確かにそうだよなと、リーナも納得の表情を見せる。
「思惑は何であれ、二人で一人の男を相手に遊ぶのも悪くはないわよ」
「だからそんなのは無いって!」
否定を重ねるレシチーを横目に、セレンは一度立ち上がって本棚から分厚いファイルを取り出してきた。
「いきなり三人で後ろはレベルが高すぎるから、初心者向けに三人で遊べる店とかいいんじゃないかしら。こことか男の子が色々教えてくれるわよ」
「いやなんでレシチーと一緒に遊ぶ流れになってんのさ!?」
ファイル内の店舗案内を指さすセレンに、リーナが声を上げた。
「別に女同士で遊ぶ必要なんてないわよ。嫌だったら男にだけ集中すればいいの」
「何々リーナ? 君もレシチーみたいに度胸がないわけ?」
テフィルがリーナを標的にしてきたが、そもそも度胸云々の話ではないのでリーナは特に怒りを感じなかった。
「リーナが慣れてくれれば、レシチーも色んなお店に行けるようになるわよ」
「なるほど、それは魅力的かも!」
「新店行くたびに付き添いさせる気かよ!?」
こうしてリーナの思いとは裏腹に、あれよあれよという間に店の手配が進められていったのだった。
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「どうしてこんなことに……」
セレンが手配した店に二人で訪れたリーナとレシチー。待合室の椅子に隣同士で座っていたリーナが顔を覆った。
「まぁまぁ、あくまで遊び相手は男の子だし」
「……そうだな、セレンが太鼓判を押す男なら期待できるし」
気を取り直したリーナが壁に貼られているパネルを眺め、これから相手の男とやることへの妄想を膨らませる。
「初めての店だけど、大丈夫なのか?」
ふと思い出したリーナがレシチーに尋ねた。
「そりゃもちろん、緊張してるよ。お店もやることも初めてづくしだから、不安もあるし……」
うつむき加減に答えたレシチーだったが、右手でそっとリーナの手を握った。
「でもリーナが傍にいてくれるから……怖い気持ちも和らいでる気がするんだ」
少し頬を紅潮させながら、レシチーは親友の顔をまっすぐに見つめた。
リーナは自分が頼りにされていることを嬉しく思っていた。それどころかレシチーの心からの頼みを、ずっと断り続けていたことに後悔し始めていた。本当に困っている時に手を貸さずして、何が親友か。
「そっか。なら親友のためにも一肌脱いでやらねぇとな!」
「文字通り、ね」
笑いあう二人の元へ、準備ができたと店員が呼びかける声が聞こえてきた。
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ネオンの眩しさに月明かりが隠れる時刻、リーナとレシチーの二人は顔を真っ赤にして同時に店から出てきた。すぐ隣に並んでいるものの、なぜか互いに目を合わせようとはしない。
「はは……夢中で遊ぶと盛り上がっちゃうもんなんだね……」
「あぁ……」
レシチーがやっと絞り出した声に、リーナは一言だけ答えた。セレンの勧めで選んだ男の子が、妙に誘導が上手かったのは気のせいだろうか。
「なぁ、レシチー」
しばらく通りを二人で歩いた後、ようやくリーナがレシチーに声をかけた。
「あたしたち、これからも親友だよな?」
レシチーもリーナの顔を見る。しばらく赤面しているリーナの目を見た後、自らも赤く染め上げた顔を照れながらそらした。
「……親友だよ」
「目を見て言えよぉぉぉ!!」
歓楽街にリーナの叫びが虚しく響き渡った。
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