第27話
うちの学校、私立清水学園の夏休みの宿題は少ない。
どの教科も宿題のペーパーがせいぜい5枚くらいで、多くても10枚程度。
生徒の自主性を重んじると言えば聞こえはいいけれど、要するに宿題が少ないからって勉強しないなんてことはしないよな? って言う無言の圧力みたいなものだと思う。
なので宿題そのものは夏祭りまでに終わらせて、残りの期間は2学期が始まってすぐ行われる実力テストの勉強に充てることになる。
朝ご飯のときにちょっと聞いてみたら翔子、友喜音さんは当たり前のように宿題はもう終わらせていた。
意外だったのが静音さんで、静音さんももう宿題を終えて残りの期間はゆっくりすると言うことだった。
そして夏輝さんと舞子さんは当然のようにしていなかった。
ふたりとも夏休み終了間際になってやったってたかが知れてる量だからとのこと。
夏輝さんはともかく、舞子さんはもうちょっと真面目に勉強したほうがいいと思うのだけど、夏の暑さでへばっている舞子さんは彩也子さんの部屋から出てくることが少なく、寝るときも暑い間は彩也子さんの部屋で寝ているそうだ。
静音さんは、舞子さんが受験のとき軟禁されて勉強させられてたって言ってたけど、一夜漬けで合格できるほどうちの学校のレベルは甘くない。
それを突破してきたのだから真面目に勉強すれば舞子さんだってそこそこいい点を取れると思うのだけど、本人にやる気がまったくないのであたしが口を挟むことじゃない。
だいたいあたしはあたしで勉強しないと成績だって上がらないわけで、宿題が少ないからと言って遊んでいられるほど暇じゃない。
それでもお昼を過ぎると暑くて集中できないので午前中に集中して勉強して、お昼からは扇風機の前でだらーっとしているなんて生活をしていた。
そういえば友喜音さんや翔子はどうやって勉強してるんだろう?
この前海に行ったときに友喜音さんは2年以上もこの寮に住んでるんだから暑いのには慣れてるだろうと思ったけど翔子はまだ1年と数か月だ。
彩也子さんの部屋にお邪魔してるって話も聞かないし、やっぱりあたしと同じように涼しい時間帯で集中してやってるんだろうか。
そう思って翔子の部屋である103号室を訪れてみたら翔子の姿がない。
不躾だとは思ったけど、勉強机の上を眺めてみると教科書や辞書の類が抜けているところがあった。
もしかして友喜音さんのとこかな? と思って今度は201号室に行くと今度は友喜音さんもいない。
ふたりともいったいどこに出掛けてるんだろう? と思ってるとちょうど202号室から夏輝さんが下着姿のまま出てきたところだった。
「あ、夏輝さん」
「千鶴か! 今日も暑いな!」
「そうですね。って夏輝さん、すごい汗じゃないですか」
「暇だからちょっとランニングしてきたからな! 今からシャワー浴びるところだ!」
この暑いのにランニングとは本当に身体を動かすのが好きなんだなぁと思いつつ、汗で透けて見えるつるぺたな胸とかから目を逸らす。
「そういう千鶴も汗で服がくっついてるじゃないか! なんなら一緒にシャワー浴びるか!? 水風呂は気持ちいいぞ!」
「そうですねぇ。夏輝さんのあとにシャワー浴びさせてもらおうかな」
「何を言う! 一緒のほうが楽しいぞ!」
「それは遠慮させてください」
いつぞやの『裸の付き合い』のことを思うと夏輝さんと一緒にと言うのは丁重にお断りしたい。
「遠慮するな! あたいと千鶴の仲じゃないか!」
遠慮したいです。
でも夏輝さんはあたしの内心の言葉なんか知る由もなく、手を掴むと引っ張っていこうとする。
「だから夏輝さんのあとで入りますって!」
「遠慮しぃだな! 同じ女同士! 裸を見られるくらいで何を恥ずかしがっている!」
「そういう問題じゃありません」
「何が問題なんだ!?」
「それはぁ……」
以前のこともあるし、1学期で知った夏輝さんファンのこともある。
仲良く水風呂に入ってじゃれてましたなんて噂でも立ったら学校での立場も悪くなりかねない。
「煮え切らないヤツだな! そんなにあたいと入るのがイヤなのか!?」
「そういうわけじゃないですけど……。夏輝さん、何もしませんよね?」
「何をだ!?」
「何って、その……いろいろ……」
「いろいろじゃわからん!」
「だからぁ、この前みたいに身体触らせたり、その、いろいろですよ!」
「なんだ!? 触るのがイヤなのか!? なら触ってやろう!」
「何でそういう話になるんですか!」
「舞子や静音なら何も言わずに触らせてくれるぞ!」
「あのふたりと一緒にしないでください!」
だいたい舞子さんは楽しんで触らせそうだし、静音さんはある種の諦観があるから好きにさせているだけだと思う。
「だいたい友喜音さんや翔子は触らせてくれないでしょうに」
「触らせてくれるぞ!?」
「え? マジで?」
「マジだ! 翔子はあたいが触ると発育がよくなると言う話を聞いてから何回も胸を揉んでやったぞ!」
「……」
翔子……。
常識人のはずの翔子までもが夏輝さんの毒牙にかかったのかと思うとがっくり来る。
でも夏輝さんの次の言葉であたしの心は揺らいだ。
「あたいにその自覚はないんだが、あたいが触るとホントに発育はよくなるらしいな! 翔子も1年のときより胸がでかくなったらしいしな!」
「ホントに!?」
「静音がそう言ってたな! 身体測定のときにガッツポーズしてたから何かと思ったら胸がでかくなってたらしい! これもあたいのおかげだと笑っていたそうだ!」
胡散臭い。
まだまだ成長期だから1年でバストアップはする可能性だってあると思う。羽衣ちゃんだってあたしのことを裏切ってDカップになったんだし。
さりとていつかの登校時の言葉もある。
確かあのときは舞子さんが4センチ、静音さんが3センチ育ったと言う話だったはずだ。
1、2センチくらいなら成長期ですませられるとは思うものの、舞子さんの4センチと言うのはちょっと育ちすぎのような気もする。
ただでさえ大きいのに、夏輝さんに揉んでもらってさらに大きくなったとすれば夏輝さんに揉んでもらうと大きくなる、と言うのに信憑性が出てくる。
今のあたしのバストが82だからホントに揉んでもらって大きくなるのなら……。
って何考えてんだ、あたし!
危うく夏輝さんの口車に乗せられるところだった。
確かにもう少し育ってほしい気持ちはあるけれど、だからってホントかどうかも怪しい話に乗せられるわけにはいかない。
それに夏輝さんのことだ。
胸を揉むだけですむとは到底思えない。
「やっぱりあたしは遠慮……」
「そんなにあたいと一緒がイヤか……?」
しますと言おうとしたところで夏輝さんが捨てられた子犬のようにしゅんとなった。
うぅ……、ずるい……。
相手は先輩だし、ファンのこともあるし、何よりこの小さな身体でこんなふうに落ち込まれたらあたしのほうが悪者になったような気になってしまう。
頭をかきむしりたくなるのをぐっと我慢してあたしは叫んだ。
「あー! もうっ、わかりましたから! 一緒に入ります!」
「そうか!? やっぱり千鶴はいいヤツだな!」
あたしの言葉にすぐ立ち直ったらしい夏輝さんは表情を明るくさせてあたしの手を引っ張った。
「でも変なことしないでくださいよ」
「変!? 何をすれば変なんだ!?」
「もういいです……」
悪意とか、下心とか、そういうのが夏輝さんにあるわけがない。
もうどうにでもなれと言う気持ちであたしは手を引かれるまま、お風呂場に向かった。
当然と言うか何と言うか……。
さんざん胸は揉まれたし、お尻も撫でられたし、脇腹もわきわきされたしでさんざんだった。
でもこれで発育がよくなるのならばと我慢できたし、夏輝さんは裸の付き合いがまたできて嬉しそうだったのでしょうがないかと諦めがついた。
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