拘束プレイとやっぱり
さて、私たちは今、西の鉱山へ来ている。
ここに登場するフィールドボスはでっかいゴーレム。攻撃力と防御力が化け物じみているらしい。
「どうやって遊ぼっかなー」
「ゲームという遊びの中でのその言葉はちょっと変だよね」
「だって、普通に戦っても面白くないし」
「そう?」
「戦うってか、作業じゃん」
「まぁ、確かに」
んー。どうしよっかなぁ。
そう考える私に、アカが提案した。
「ロールプレイしてみたら?」
「ロールプレイ?回るの?もう回るのはこりごりなんだけど」
「違うよ。役になりきってゲームするの。魔王とか勇者とか。ロボット、お姫様、なんでもいいけど。その役になりきるの」
なるほど。それは面白そうだ。
「どうせならまた配信してみる?」
「えー。配信すると変な二つ名つくじゃん」
「逆に考えようよ」
「逆?」
「変なことしたらそりゃ変な二つ名つくけど。かっこいいことしたらかっこいい二つ名つくんだよ」
「確かに!あたまいい!」
えっと。それじゃあ。
「私、白い死神って二つ名定着させたい」
「いいね」
「おっきい鎌とか持てばいいかな?」
ホワイトなら鎌にだってなれると思うし。
「いや。たぶんね。白い死神ってプリンの想像してる死神とは違う」
「?どゆこと」
「白い死神って多分。シモ・ヘイヘのことだと思う」
「シモ・ヘイヘ?」
何それ?
「んっと。あんまり私も詳しくないけど、簡単に言うとすっごいスナイパー」
「あぁ、じゃあ、私が長銃もってるからつけられたのかな」
「まぁ、あとは全身真っ白だからとか、氷系統のスキルたくさん使うからとかじゃない?」
「じゃあ、その、シモ・ヘイヘにちなんだ感じのロールプレイをすればいいのかな」
「あとは拘束禁止ね」
くっ。未だにあの顔エロいとかよく分からん。
「さて、それじゃ、どういう設定でロールプレイしようか」
「寡黙は外せないでしょ」
「そだね。スナイパーっぽいもんね」
「あとは……ないな。とりあえず遠距離からヘッドショット決めてればそれっぽいよね」
よし。役に成り切ればいいんだよね。ってか、普通に喋んなきゃいいだけだよね。
「あ、そうだ。プリン。寝起きの時になり切ってよ。一番スナイパーっぽいから」
「んー?ねおきー?」
「そう」
寝ないで寝起きを再現するの?できるかな。
とりあえず、部屋のベットから起きた時を想像しながら、ボケーッとしてみた。
「あっ。ぽいぽい。それで行こう」
「……ん」
このまま、寝ないかだけが少し心配。
それから、アカが何か操作をすると、以前と同じように浮遊するスライムさんが現れた。
私はそっとそのスライムさんを一撫ですると、少し微笑んでまた無表情に戻った。
いつもみたいに抱きついてはいけないのだ。ろーるぷれい中なので。
[待ってました配信!]
[ぐぅかわいい]
[あれ?なんか今日プリンちゃん雰囲気違くない?]
[今日は何するのー?]
[なんか元気ない?]
[寝起き?]
寡黙に徹する私の代わりにアカが視聴者に答えた。
「今日は西と南のフィールドボス倒そうと思ってます」
「おー。がんばれー」
[アカ様!かばって!]
[第2の街の解放かな?]
[今日も無双か]
[二人一緒だとどんな化学反応起こるんだろ?]
[アカさんお姉さんみたい]
[どうしてプリンちゃん元気ないの?]
「プリン。今回寝起きの参加なので、喋らないと思います。ね?」
「……(こくり)」
[あ、そゆこと]
[元気無いわけじゃないのか、良かった]
[寝起きのプリンちゃんかわいい]
[寝起きでも強いのかな?]
[フィールドボス可哀想だな。蹴散らされる運命か]
「今回は私が陽動、プリンが攻撃で戦います。楽しんでくださいね」
[おー。プリンちゃんの攻撃か、あの火力お化けの]
[アカさんが陽動とか意外]
[アカさん欲求不満ならない?]
[がんばー]
[もはやゴーレムが可哀想まである]
あー。ガチで眠くなってきたかも。
「……ふぁ」
あくび気持ちい。ねむた。
そんな私にアカが耳打ちする。
「寝ないでよ?」
「……ん」
だいじょうぶ。寝ないよ。ただ、スライムさん枕にしたら気持ちよさそうと思ってるだけだよ。
それから、西の鉱山の坑道を歩く。
ここに出現するのは蜘蛛型のゴーレム。一メートルくらいの大きさで、デフォルメされてても苦手な人はきっといるだろう見た目。
私は問題ない。虫平気なので。
ただ。
「たのんだよ?ここでの私の命はプリンに掛かってるから」
アカがとてつもなく苦手である。虫系統全般。
「アカ、私思うんだ」
「な、なに?」
「怯えるアカって可愛いよね」
「ひっ」
アカは私の腕を掴んで離さない。例え私が怖くても。離せない。
逃げられないのだ。私から何をされても。
「なーに、しよっかなぁー」
「おねがいしますプリンさまぁ。ご慈悲を」
まぁ、何もしないけどね。
可哀想だし。見て楽しむだけしかしないよ。
そう思って、ニコリと微笑んだ。
「ひっ」
[意外な弱点]
[これ、虫集めたら勝てるんじゃね]
[プリンちゃん。楽しんでるなぁ]
[あー。プリンちゃんに場所変わって欲しい]
[お前な!百合がいいんだろ!男は邪魔なんだよ!]
[虫よ、どうか服の中に入ってくれ]
1メートルの蜘蛛に無茶振りしてる奴いるなぁ。
「ま、出てきたのは私が倒しとくよー」
「ありがとっ」
アカが抱きつくと、私の体にそれなりに大きな胸が当たる。
「……やっぱ辞めようかな」
「なんで!?」
くっ。私だって大きくなるもんね。
憂さ晴らしに蜘蛛を撃ち倒した。
それから、しばらく歩くと、一際大きな開けた場所に出た。
「戦闘準備。ボスくるよ」
「ん」
私たちの目の前には一体のどでかいゴーレムが鎮座していた。
そのゴーレムは私たちを見るなり立ち上がり、地面を思い切り叩いた。
ぐらぐらと地面が揺れる。
あー。立っとくのだるい。座ろうかな。
私はその場に座ると長銃を構えた。
「ほわいと」
そう呟くと、私の周りにスライムシールドが貼られた。
ん。さすが、よく分かってる。
[ボスを前に座るやつ初めて見た]
[さすがっす]
[だらけてるなー]
[すげー眠そう]
[てか、今平日夕方ぞ?いつ寝たんだよ]
[なんかスナイパーっぽい]
さてと、拘束なしだからー。
「【霰雲】」
だけにしとこ。
「今回は陽動だからー。んー。【魔剣生成】【挑発】」
アカの鞘からは黒い等身が現れ、ゴーレムの注意はアカに向いた。
【挑発】
その場のモンスターの注意を引く。
私は銃口をゴーレムの頭に向けて呟く。
「【氷雪装填】」
10にしとこう。
「【天回】」
あとは、狙いを定めて引き金を引くだけ。
ここで外すとかっこ悪いからなぁ。気をつけないと。
まぁ、でも、射撃系のゲームは得意だし、ゴーレム遅いし、外さないでしょ。
ゆっくりと照準を合わせると、引き金を引いた。
パァァァン。
かわいた音と共に発射された弾丸は、寸分違わずゴーレムの脳天へ直撃した。
そして、ゴーレムのHPを削る。
ん。つぎ。
「【氷雪装填】」
命中。
「【氷雪装填】」
命中。
「【氷雪装填】」
命中。
と、ここで、私に注意が向いた。
ゴーレムはスライムシールドに攻撃をするが、破れない。
このスライムシールド。打撃にはめっぽう強いのだ。
ん?よく考えたら、私打撃効かないな。ま、いっか。
「【氷雪装填】」
[え、すごくね]
[まってくれ。デバフ対策してたのにデバフなくても強いとかありかよ]
[さっきから同じとこずっと当ててね?どんな命中率だよ]
[すご]
[神なのか?やはりプリンちゃんは神なのか]
[ゴーレムのあたま氷まみれじゃん]
[勘弁してやれよ]
「うへぇ、プリンすげぇ」
そんなことを言うアカにピースだけしといた。いぇい。
それから、ゴーレムに攻撃し続けて、氷でガチガチに固められ、もはや動けなくなった頃合に。
ふと、思った。
もうちょっと死神要素追加しようと。
「大鎌」
そう呟くと、ホワイトは私の意を組んで、大鎌に変形した。
誰にでも、分かりやすく死神っぽく、最後は倒そう。
私はゴーレムの近くまで歩いていくと、その首に刃を突き立てた。
「ばいび」
そして思いっきり振り下ろした。
もともとほとんど残っていなかったゴーレムのHPは全てを消滅させた。
私は浮遊するスライムさんをじっと眺めると、にこりと笑った。
死神っぽかった?
[なんかエロいな]
[怖えろい]
[かわいいけど、なんでこうも嗜虐的なのか]
[やっぱSなのか?]
[えr]
「プリン、やっぱエロいわ」
なんでやねん。
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