第5話:設定解説
再び寝台に戻り、ソルは腰掛けた。
「それで? 結局この世界というのは、どういう世界なんですの? 物語の世界を模したと言いましたけど」
「そうですね。世界観としては、ソル様が前世で生きていた世界に近いです。王侯貴族が各の領地を持って治め。平民は村で小麦や野菜を育て、畜産をし。街ではそれらの生産物を売り買いしたりするといった具合の」
ソルは小首を傾げた。
「他に、そうじゃない世界があるような言い方ですわね?」
「ええまあ。詳しく説明しても、混乱を招くだけだと思うので、控えますが。巨大な鉄の塊が空を飛ぶ世界だとか、人々が毛皮を着て半裸で生きる世界だとか、人が金属で出来ている世界だとか、想像つきます?」
「何を言っているのか、さっぱり分かりませんわ」
「そういうことです。取りあえず、神々は本当に多種多様な世界を創造しているということだけ、ご理解頂ければと思います」
「まあ、それは分かりましたわ」
改めて、彼女は自身の体を見下ろした。
「では、このソル=フランシアというのは、どういう娘なんですの? 見たところ、容姿はまあ、ちょっと趣は違うにしても、前世の私に勝るとも劣らない程度には整っているようですけれど」
胸がまだ理想レベルまで育っていないのは、少し不安材料ではあるが、それ以外は及第点を与えてもいい。
「現在の年齢は、16歳と少しです。王国の辺境にて統治を任された男爵の娘ですね。仲の良いご両親と、13歳の弟、そして10歳の妹がいます。領地は、外をご覧の通り、このソレイユ地方は、冬がとても厳しい地域です」
ソルは渋面を浮かべた。
「男爵の娘ですの? それも辺境の?」
部屋が質素な理由については、理解出来たが。
「ご不満ですか?」
「当たり前でしょう? 私は、元とは言え公爵令嬢ですのよ? 転生するにしても、どうせお遊戯の世界だというのなら、せめて公爵令嬢を主人公として模した遊戯を元にするのが筋というものではありませんこと?」
「それについては、自分は"裁定を下す者"からは特に説明は聞いていません。ただの思いつきなのか、それとも深謀遠慮の結果なのかも分かりかねます」
「ああ、もう」
溜息を吐く。苛立たしい。
「それで? まあ、この私に限ってまず無い話でしょうけれど、万一誰とも結ばれなかった場合は、どうなりますの? ただ、この世界に独身のまま生きるというだけですの? どうせ、神のやることなのだから、思い通りにならなかった場合はただで済ませるとは思っていないというだけですけれど」
リュンヌは肩を竦めた。
「そうですね、僕も考えたくはないですが。万一、そのようなことがあれば、相応の罰則はあるそうです。場合によって、対応は考えるそうですが。予想されるパターンとしては、やはり地獄送りではないでしょうか。これはある種の実験。のようなことを仰っていましたから」
「実験」という言葉には、確かここに送られる直前に聞いた気がする。つまりはあれか、自分は神々に実験動物扱いされているということか。どこまでも忌々しい。
「では、逆に誰かと結ばれた場合は? お遊戯の世界ということは、そこで結末を迎えるということなのでしょう?」
しかし、リュンヌは首を横に振った。
「その場合は、晴れてめでたしめでたしと、死が二人を分かつまで幸せな人生を歩んで頂くことになります。あくまでも、それからソル様が変な気を起こさなければ、ですけれどね」
「それはそれは、随分と慈悲深いこと」
その慈悲深さをソルは嘲笑した。
つまりは、こんな生温い世界に何十年と縛り付けられなければならないということ。地獄よりはマシだが、退屈極まりないことに違いない。それはそれで、気が狂いそうだ。
「他に何か、ご質問はございますか?」
「そうね? それじゃあ、どんな男が私の相手になる可能性があるのか、教えて貰う事は出来まして?」
「可能です。しかし、そんなにもこの境遇が我慢なりませんか?」
「当たり前でしょう。何が面白くて、こんな世界に付き合わされなければいけませんの? どうせなら、元の世界に生き返らせて、あのお方と結ばれるようにしなさいっての。その方が、よっぽど愛とやらが足りますわ。こんな見窄らしい生活も我慢なりませんし、どうせ相手の男というのも大して期待出来な――」
「ちなみに、ソル様の攻略対象となるイケメンはこんな感じです」
ソルの脳裏に、今度は様々なイケメンの顔が浮かんだ。ワイルド系、クール系、可愛い系、熱血系etc。
ソルは無言のまま、それらのイケメン達のイメージをじっくりと値踏みした。その中には、前世で恋した男によく似た男もいた。
ごくりと、思わず喉が鳴る。
十数秒が経過。
「――でも。し、ししし……仕方ありませんわね。どのみち、この世界で生きるしか無いんですのよね? い、いいですわよ? ソル=フランシアとして生きてあげてもよくってよ?」
無言で、生温い視線と笑顔を向けてくるリュンヌをソルは睨み付けた。
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