二章 二節 授業にて
時間は変わって二時間目の数学の授業中。簡単すぎてつまらない問題と、先生のつまらない解説……正直、私が一番苦手な授業であった。
気が付いたら、先生と馬鹿五人衆の会話で授業が終わっている事がある。馬鹿五人衆による授業妨害のせいだ。止められない先生も先生だし、そもそも妨害をする馬鹿どもも馬鹿どもだと思う。
「これあっちから天音ちゃんに」
「え……? あ、ありがとう……ね」
私の一つ前の席に座っているいつも二つ結びの女の子が、折りたたまれたノートの切れ端を渡してきた。因みに、この学校において二つ結びというものはかなり珍しい。なぜか、二つ結びをしていると多方面から叩かれるからだ。クラスの男子が
「二つ結びってきもいよな!!」
と豪語していたことをふいに思い出した。二つ結び、まとめやすくて便利なのに。
それはそうとして、渡されたノートの切れ端を確認してみた。大学ノートを横に綺麗に半分に切ったもので、切れ目的に多分定規で切られている。中を開いてみると、花の絵……カスミソウだろうか? 一つの茎から無数の白い花が生えている絵と、女の子っぽい字でこんなことが書かれていた。
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天音さんへ
今日の放課後ってどうせ予定ないですよね? 今日僕の家も親がいないんで一緒に適当なところでご飯食べに行きませんか? あ、予算は1000円以内でお願いしますね。
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私のことを[天音さん]と呼ぶこと、そして一言目から的確で言い返せない一番むかつくタイプの煽りを入れてくるあたり、書いたのはどうせ氷斗さんだろう。机の上から視線をはずして、氷斗さんのいる辺りを一瞬だけ確認してみた。
真面目に机に向かって板書をしているであろう姿が見えた。短く切りそろえられた髪と、同年代と比べれば少しやせている姿。顔だってそんなに悪いわけじゃないからちゃんとしてればモテるだろうに、もったいないと少しだけ思う。
「この問題、解き終わった人は黒板に答えを書いてくれない?」
どうでもいいことを考えていたら、先生に媚を売るチャンスこと発表の時間がやってきた。毎回私はテストでいい点数が取れないから、こういった時間を使って先生からの評価を稼ぐことにしている。ということで、私はまっすぐに手を挙げた。
このクラスは、わりと発表が活発に行われるクラスだ。いつもクラスの半数程度が手を挙げている。といっても、一割は適当な答えを言って授業を妨害したい奴らなのだけども。
「それじゃあ……天音が大問一、氷斗が大問二で……お願い」
はい、と短く返事をして席を立ち、黒板に向かう。手元にはノートではなく、問題が書いてある教科書のほうをいつも持っていくようにしている。もう一度先入観を捨てて解きなおすことで、失敗を減らすための工夫だ。
黒板に白いチョークで、答えを書いていく。この辺の問題は塾で一度予習をしているため、難なくすらすらと解けるはずだ。
「……天音さん、そこ答え違くないですか?」
「え、あ……本当だ。ありがとうございます」
氷斗さんが小声で指摘してくれた場所を確認してみると、確かに答えを一か所書き間違えていた。
「ということは、ここから全部書き直しかぁ……」
黒板消しを使って、式の半分を消した。つまらないミスをよくしてしまうのは、私の良くない癖だ。
「そうそう、それであってる」
「ありがとうございます」
ちょうど同じタイミングで問題を書き終わった私と氷斗さん。チョークを黒板において、席に戻っていく。手はチョークの粉で真っ白だ。
と、こんな感じでいつも通りのやっぱりつまらない数学の授業は進んでいった。手紙の件に関して、あとで回していたのがばれて先生に怒られたのは言うまでもない。
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