第256話「ご自身の言葉で今回の経緯を述べたいとおっしゃった通り、 何回も練習して、物言いもばっちりだ」

この話を含め、ラスト2話となりました。

何卒宜しくお願い致します。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


俺はルクレツィア様をエスコートしつつ、前へ出た。


目の前には、アレクサンドル陛下、グレゴワール様、バシュラール将軍、ラグランジュ財務大臣等々、俺のシンパとなってくれた重鎮達が並んでいる。


俺とルクレツィア様は再び顔を見合わせた。


ルクレツィア様がぎゅ!と俺の手を握って来る。

かすかに彼女の手が震えていた。

だいぶ緊張しているようだ。


俺は「大丈夫ですよ!」と言うように、ルクレツィア様の手を優しく包み込むようにそっと握り返す。


「皆様、ルクレツィア・ファルコでございます」

「ロイク・アルシェでございます」


あいさつはごくごく簡単に、ここからはまず俺が話す事に。


「王宮より先週、公式発表があったと思いますが、私達はアレクサンドル・ファルコ陛下お立ち合いのもと、正式に婚約を致しました。そして慣例により、こちらの創世神教会大聖堂にて、皆様へご報告をさせて頂きます。


私ロイク・アルシェは、先日の伯爵爵位と勲章授与の際に、ルクレツィア・ファルコ様と知り合い、いろいろとお話をさせて頂き、徐々に心と心の距離が近しくなりました。その後、更に何度も、ルクレツィア様とお話をさせて頂き、短い期間ではありますが、互いに、なくてはならない人だという気持ちになり、結婚の決意へと至りました」


ここまで俺が話し、ルクレツィア様へバトンタッチ。


「……日頃から、兄アレクサンドル・ファルコ陛下を始めとして、私ルクレツィア・ファルコはたくさんの方々にご指導を頂いて参りましたが、このたびロイク・アルシェ伯爵様と、一生を共に歩んでいく覚悟が出来ましたのでご報告させて頂きます。


私も先日行われた爵位と勲章授与の際、ロイク様と初めて出会い、何度もお話しするうちに、お慕いするようになり、遂にはこの方しか私の結婚相手は居ない! と確信致しました!

ご相談した陛下からも、ロイク様は理想の相手だとおっしゃって頂きました!


私は、決意致しました。愛するロイク様と結ばれ、愛する故郷ファルコ王国で、花嫁となります!

ゆくゆくはロイク様と、共に暮らす事となりますが、現在は新生活に向けて準備を進めているところでございます。


……なお、挙式は、私が在籍中のロジエ女子学園を卒業した後となります。それまでに私は妻として、ロイク様を公私ともども支えられるよう一層努力し、いろいろ学んで行きたいと思います。


……挙式の折には、改めてご招待状をお送りさせて頂きますので、ぜひご列席賜りますようお願い申し上げます。今後とも、私達ふたりを温かく見守って頂きたく、どうぞ宜しくお願い致します」


スピーチの第一弾が終わった。

俺とルクレツィア様は手を取り合ったまま、アレクサンドル陛下達出席者へ礼をし、

振り返って、教皇様にも深く一礼した。


パチパチパチパチ、パチパチパチパチ、パチパチパチパチ……


大聖堂内に、出席者の拍手が鳴り響く。

背後からは教皇様の拍手。

本来ならここで終了。


しかし、まだまだ終わらない。


俺は声を張り上げる。


「皆様! お聞きください! 私達から! まだ! ご報告がございます!」


続いてルクレツィア様も、


「ロイク・アルシェ伯爵のおっしゃる通りです! 私達とともに人生を歩んで行く! 愛し愛される者達のご紹介をさせて頂きますっ!」


と叫んだ。


そして俺が「さっ」と空いている手を挙げると、隅っこの舞台袖のような場所から、

スタンバイしていたジョルジエット様達5人がしずしずと、準備万端、万全を期して、現れたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


おおおお!!!???という、驚きのどよめき。


一体どうい事だ!!??という、大勢の視線を浴びる中、

すすすすすっと、ジョルジエット様達は素早く、

俺とは逆側の、ルクレツィア様の隣に並んだ。


嫁6人に俺、この7人が、新たな人生を歩んで行く、心の絆を結んだファミリーだ。


ルクレツィア様が声を張り上げる。


「女子の皆様! 自己紹介してくださいませ!」


促された女子達は、


「リヴァロル公爵家息女、ジョルジエット・リヴァロルでございます! ロイク様には以前、王都の街中で、暴漢から救って頂きましたっ!」


「サニエ子爵家息女、アメリー・サニエでございます! ジョルジエット様と同じく! ロイク様には王都の街中で、暴漢から救って頂きましたっ!」


「オーリク騎士爵家息女、シルヴェーヌ・オーリクでございます! 縁あって! ロイク・アルシェ伯爵様の筆頭秘書、王国執行官秘書を務めさせて頂いておりますっ!」


「ルナール商会会頭の孫娘、シャルロット・ルナールでございます! 縁あって! ロイク・アルシェ伯爵様の、ルナール商会最高顧問秘書を務めさせて頂いておりますっ!」


「冒険者ギルド職員、パトリシア・ラクルテルでございます! 縁あって! ロイク・アルシェ伯爵様の、冒険者ギルド最高顧問秘書を務めさせて頂いておりますっ!」


5人の女子が自己紹介したところで、再びルクレツィア様が声を張り上げる。


「私は! ロイク様とお会いする前から、ロジエ女子学園にて! 親友のジョルジエット、後輩のアメリーから、ふたりの救出事件の経緯、顛末を聞いておりましたっ! そして! お会いする前から! ひそかにロイク様に憧れておりました!


大破壊収束後、ロイク様と知り合い、心が近しくなり、お慕いするようになった後、

私は! 再びジョルジエット、アメリーと話し合いました!


話を聞き、私には分かっておりました! ……ふたりとも! かつて暴漢から救ってくださったロイク様を! 心から愛し! お慕いしていたのです!


でも! 私も芽生えた気持ちを、想いを無理やり消す事は出来ませんでした。


それゆえ! ロイク様に関して、3人で本音を言い合い、いろいろな考え、意見を交わした上で結論を出しましたっ! もしもロイク様のお気持ちが折り合えば! 3人全員で、ロイク様の花嫁になりましょう! 一緒に幸せになりましょうと!」


大聖堂内は、誰も言葉を発さず、しん……となっていた。


はきはきと、ルクレツィア様の話す声だけが響いている。


ここで、ルクレツィア様は軽く息を吐き、話を続けた。


「3人で花嫁に! という意見で一致した直後、ジョルジエット、アメリーから更に! お話がありました! 王国執行官に、そしてルナール商会と冒険者ギルドの最高顧問もお務めになるご多忙なロイク様を陰に日向に! 支える秘書の方々も! ロイク様を本気で! 心から愛していらっしゃると! 今回、大破壊が収束出来たのも! 秘書の方々の献身的な! フォローあっての事でございましたっ!


となれば! 新たなる結論は出ましたっ! 私達は! 6人で! ロイク・アルシェ伯爵の花嫁になります! ロイク様と愛し愛され、支え合っていきますっ! アレクサンドル陛下へご許可を頂き! ロイク様へは、私が代表して女子6人の気持ちを伝えました! ロイク様はたいそう驚かれましたが、熟考された結果、全員との結婚を快諾して頂きましたっ!」


熱く語るルクレツィア様。

偽りのない満面の笑みを浮かべている。


ご自身の言葉で今回の経緯を述べたいとおっしゃった通り、

何回も練習して、物言いもばっちりだ。


そう……国民の誰もが、ルクレツィア様の運命を危惧していた。

ファルコ王国の国益の為、望まぬ他国へ、望まぬ相手へ、

不幸にも嫁いで行かざるを得ないのではと。


だが!

誰もが予想しない展開となった。


正直、高貴な王女がこのような結婚をするのは、

異例の事だと誰もが考えているに違いない。


しかしルクレツィア様自身が英雄たる俺との結婚を望み、

他の花嫁とともに幸せになりたいとも望んだ。

それを兄である国王アレクサンドル陛下が許したという厳然たる事実がある。


ここで俺が深く一礼し、顔を上げ、


「ただいま! ルクレツィア様からお話があった通りです! 私ロイク・アルシェは、愛し支えてくれる6人の女子達と結ばれ! 新たな人生に向け、力強く! 踏み出して行きたいと思います! 皆様! 何卒宜しくお願い致します!」


ここで周囲が驚く事に、いの一番に立ち上がったのは、何と! 

アレクサンドル陛下であった。


立ち上がったアレクサンドル陛下は優しく微笑むと、パチパチパチパチ、と拍手。


続いて、宰相のグレゴワール様も立ち上がって拍手。


更にバシュラール将軍、ラグランジュ財務大臣が立ち上がり拍手。

すると、次々に王国貴族達が立ち上がり、

最終的には全員が大きな拍手をしてくれた。


そして大聖堂の外からは、王国民達の喜びに満ちた大歓声が上がったのである。

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