第250話「ばっかもおおおおおんんんん!!!!!!!!」

来訪者とトリッシュさんの、魔導通信機での会話が終わった瞬間。


ばんっっ!!

とノックもなく、乱暴に執務室の扉が勢いよく開いた。


そして!

現れた人は予想通りというか、最初から100%確定!


「エヴったら!! 本当に私を心配させて!! ばかばかばかあ!! ばかばかばかばかばかああああ!!!」 


執務室へ飛び込んで来て、エヴラールさんへひし!としがみついたのは、

20代前半、紺色のスーツっぽい仕事着に、かっちりと身をかため、すらっとした金髪碧眼の美女、秘書のクロエ・オリオルさんだ!


俺は出勤してすぐ、秘書室へ一報を入れておいた。

その時、クロエさんはまだ出勤していなかった。


さすがにギルドで、エヴラールさんの帰還を待つ徹夜はしなかっただろう。

だが、クロエさんは、ろくに眠れず、いつもの朝より遥かに早く出勤、

朗報を聞き、最高顧問室へ、すっ飛んで来たに違いない。


「ク、クロエええ……」


「よ、よ、良かったあああああ!!! わあああああああああんんんん!!!!!」


最高顧問執務室。

俺、シルヴェーヌさん、シャルロットさん、トリッシュさん、の目の前で、

エヴラールさんに抱きつき、人目もはばからずに、号泣するクロエさん。


いつもの大人なお姉さん。

クールビューティーさは全くない。


ここで俺は筆頭秘書のシルヴェーヌさんを見る。

目に大粒の涙がたまっている。


ああ、涙ぐんでる。

これは嬉し泣き、貰い泣きだろう。


どうやら、クロエさんの様子にシンパシーを感じているようだ。


……俺は先日、シャルロットさん、トリッシュさんから聞いた。

大破壊収束に向かった俺を心配し、シルヴェーヌさんが凄く心配していた事を。


「私とトリッシュさんも、凄く心配していましたけど、ロイク様が国境へ向け、オーガ退治に出撃した後、シルヴェーヌさんは私達の中で、一番心配していたんですよ」


「そうでっす! シルヴェーヌさんは、ロイク様、大丈夫かしら! 大丈夫かしらあって! 大泣きしそうになっておろおろして、いつものクールビューティーさが全くなかったでっす」


そんなシルヴェーヌさんと、

俺達の目の前で、エヴラールさんに抱きつき、

人目もはばからずに、号泣するクロエさんがダブる。


仕事だから、仕方ないかもしれないが……

愛する女子を必要以上に心配させちゃ、いけないよな……


そんな思いで、俺がシルヴェーヌさんを見つめていたら、

視線を感じたのか、シルヴェーヌさんと俺の目が合った。


涙ぐみながら、優しく俺へ微笑みかけるシルヴェーヌさんは、

大きく頷いたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


……それから、約1時間後。

午前9時30分少し前に、ギルドマスターのテオドールさんが出勤した。


こちらも既に秘書室へ連絡を入れてあった。

トレゾール公地で俺とエヴラールさんが共闘し、ドラゴンを10体倒した事も伝わっている。


エヴラールさんだけでなく、ギルドへ、ドラゴンの死骸1体を進呈する事も。

「こちらから、エヴラールさんのポジションの件でお願いがある」という含みも併せて伝えてあった。


という事で、秘書経由でエヴラールさんが無事な事を知ったテオドールさんだが、

俺に気を遣い、最初は最高顧問室へ伺うというのを、押しとどめた。


という事で、俺、秘書、エヴラールさん、クロエさん、

全員そろって、ギルドマスター専用の応接室へ伺う事に。


秘書に案内され……

待っていたテオドールさんは、まず俺をねぎらい、

エヴラールさんを無事に連れ戻した事に、厚くお礼を言ってくれた。


そして、エヴラールさんが呼ばれ……

腕組みをして仁王立ちするテオドールさんの正面に。


一気にテオドールさんの放つ波動が沸騰?

強力な怒りの熱波となった。


灼熱というレベルだ。


「うわあ!」


思わず熱波にあてられ、後ずさりするエヴラールさん。


更にテオドールさんの咆哮が、エヴラールさんを飲み込む。


カミナリオヤジ……死語? の落とす雷と言って良い。


「ばっかもおおおおおんんんん!!!!!!!!」


「ひえええええっっっ!!!!!」


「一体お前は何を考えておるっ!!! 最高顧問に多大なるご迷惑をかけ、何度もスケジュールを守らずに、秘書のクロエをここまで心配させおってえ!!!」


そう、話を聞けば……エヴラールさんは、

トレゾール公地の前の修行も、帰還予定日を10日も過ぎてから、戻ったという。


今回は単身トレゾール公地へ乗り込み、帰還予定日を過ぎたから、クロエさんが凄く心配したという次第。


「は、は、反省しておりますっ!!」


「当然だ!! 深く深く大反省し!! 己を鑑みよっっ!! 今後!! 勝手な真似は許さんっ!! 本来なら降格だが!! 最高顧問の直属の部下となる事で、許してやるわあっっ!!!」


「は、は、はい~っ!!」


ここで、俺が一歩、二歩出る。


「ギルドマスター」


「何でしょう? 最高顧問」


「本人の申し出もあり、ギルドマスターのおっしゃる通り、エヴラール・バシュレ、サブマスターを私ロイク・アルシェの直属とさせて頂きます」


「ふむ、構わないです。本来ならこちらで教育し直すべきなのですが、エヴラールを存分に鍛え、使いまわしてやってください!」


「はい! ありがとうございます! つきましては! こちらからお願いです!」


「ほう、お願いとは何でしょう?」


「はい、冒険者ギルド以外に、王国、ルナール商会の業務等もバシュレ、サブマスターにやらせてみたいという俺の希望もあり、彼をロイク・アルシェ伯爵家の直臣とさせて頂きたい!」


俺のお願いを聞いても、テオドールさんは驚かない。

うすうす、『お願い』の内容を見抜いていたようである。


「ふむ、エヴラールを最高顧問の……いえ、ロイク・アルシェ伯爵家の直臣にですか。成る程、お願いしたいというエヴラールのポジションの件、理解致しましたぞ。先ほど当ギルドへお贈り頂いたドラゴンの死骸1体は、そのトレード料というわけですな」


「はい、そんなものです。いきなりですが、何とかご了解ください」


俺は深く頭を下げた。


ここでエヴラールさんが声を張り上げる。

身も乗り出す。


表情は真剣そのものだ。


「ギルドマスター! 私は最高顧問へ! いえ、ロイク・アルシェ伯爵閣下へ、冒険者ギルドを辞し、直臣として! 忠実にお仕えしたいと切に願います!」


そんなエヴラールさんを見たテオドールさんは、満足そうに頷き、


「分かった! 特例という事で認める! 但し、当冒険者ギルドを辞す事はない! エヴラール・バシュレが、いち冒険者として、ギルドに籍を置きつつ、ロイク・アルシェ伯爵閣下の直臣となる事を許そう!」


笑顔できっぱりと言い放ったのである。

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