第248話「まだ夜は明けない…… しかし、歩くうちに東の空が明るくなって来た」

※時間設定に誤りがありました。

以前のエピソードから修正を入れております。

夜半にドラゴンを討伐し、夜通し駆けて、戻って来た設定になっています。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「今回の件で心底、感服致しました! マスターの命令がなくとも、最高顧問にお仕えするつもりでした! どうか自分を直属の部下にしてくださいっ!」


エヴラールさんは、声を張り上げ、深々と頭を下げた。


うん!

俺は素直に嬉しい!

というか、大いに超嬉しい!


皆さんはおぼえているだろうか?


この前、これから必要なのは、金、人、情報と言った通り。


中でも有能で忠実な人材は何物にも代えがたい。


武田信玄いはく、人は石垣、人は城とも言う。


こうやって熱く負けず嫌いになる事はあるけれど……

基本的に性格は誠実で冷静沈着。

加えて、剣聖とうたわれる凄腕のエヴラールさんが加わり、

俺と家族を支えてくれれば、ありがたい。


そもそも、俺が前世のケン・アキヤマとして、

ステディ・リインカネーションをプレイしていた際、

アバターのアラン・モーリアとエヴラールさんは、親友且つ戦友だった。

気が合わないわけがないのだ。


但し、ロイク・アルシェとして知らないはずの事を言えば、

エヴラールさんが驚き、違和感を覚えてしまう。

しばらく言葉や態度には充分気を付けないといけない。


という事で、俺とエヴラールさんは王都への街道を話しながら歩いて行く。


話題はいくらでもあった。


たった今、トレゾール公地で共闘したドラゴン討伐でまず盛り上がる。


そうだ!

と俺は告げておくべき事を思い出し、言う。


「少ないけど、ドラゴンの死骸を1体まるごとエヴラールさんへお渡しします」


「えええ!!!?? そ、そんな! 頂く権利などありません! 私はドラゴンへ少しダメージを与えただけで、1体も倒してませんから!」


エヴラールさんが驚くのも無理はない。

ドラゴンの死骸1体は、上代金貨10万枚……10億円にもなるから。


そして!

採集した宝石は価値金額の30%が依頼受諾者の取り分だが、倒した魔物の死骸は、全て受け取り可能なのだ。


前回はグレゴワール様が調整する為にドラゴンの死骸処理をお任せしたが、

本来は全て討伐者、つまり俺のものなのである。


「エヴラールさんが倒したオーガ数十は、ドラゴンに喰われてしまいましたし、エヴラールさんもドラゴン討伐に加わりましたし」


「で、ですが!」


「エヴラールさん」


「は、はい!」


「このたび、俺が伯爵位を授与されたのはご存じですよね?」


「は、はい! 存じ上げております!」


「今後、エヴラールさんが俺に仕えてくれるにあたり、俺は冒険者ギルド以外にも、かかわって欲しいと思っています」


「最高顧問は、冒険者ギルド以外にも……かかわって欲しいと……私に……」


「はい、つまり俺ロイク・アルシェ伯爵の直臣じきしんとして仕えて頂き、今後エヴラールさんには、いろいろ助けて貰い、支えて欲しい。差し上げるドラゴンの死骸は、その契約金です」


「ロイク・アルシェ伯爵……閣下の直臣としてお仕えし支える……頂くドラゴンの死骸は、その契約金……」


「はい! エヴラール・バシュレさん! ぜひ! 我がアルシェ伯爵家の直臣となってください!」


俺はエヴラールさんを見据え、はっきりと言い放ったのである。 


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


エヴラールさんは即答する。


「は、はいっ! 喜んでっ! 私はアルシェ伯爵家の直臣とならせて頂きます!」


快諾だった。


「……正直、私がドラゴンの死骸を頂くのは筋が違うと思います。1体も倒してもいないのに、全く理屈に合わない。 本当は受け取りたくありません!」


うわ!

まじめだ!

本当に超が付くくらいまじめだ!


「エヴラールさん」


「しかし、最高顧問……いえ! ロイク・アルシェ伯爵閣下が、この私エヴラール・バシュレを召し抱える為、契約金を、金貨10万枚をポンと出すほど価値があるのだ! と評価して頂いた事を素直に喜びたいと思います」


「じゃあ、契約成立ですね!」


「はい! こちらから仕官をお願いしたいくらいです! 未熟者ですが、今後とも宜しくお願い致します!」


よし!

という事で、いくつか告げる事がある。


「エヴラールさん」


「冒険者ギルドでもそうですが、王国にかかわる案件など、これまで以上に秘密保持に関して厳しくなります。十分にご注意ください」


「は! かしこまりました!」


という事で、言葉遣いが完全に主君、家臣となったが……

気の合う俺達は、更に話が盛り上がる。


「ええっと、俺のプライベートでも、後日、いろいろ発表があるので。落ち着いて話せる状況になったら教えます」


「そ、そうですか! 伯爵閣下のプライベート。そういう事も極秘事項があるのですね。了解です!」


「はい、お願いします。それと、冒険者ギルドのエリク・ベイロン課長と打ち合わせをし、ファルコ王国王家主催武術大会に出場すべくエントリーしました。俺、剣は我流なので、色々教えてください」


「はい! 伯爵閣下! 分かりました。ぜひ! 私も王国王家主催武術大会に出場しますし、良い修行となりますから」


他にもいろいろ話すが……

エヴラールさんの表情が暗くなる。


「ううう……王都へ戻ってギルドへ報告へ行ったら、ギルドマスターからは、こっぴどく叱られそうです……」


「まあ、まあ、俺からもとりなしますよ」


まだ夜は明けない……

しかし、歩くうちに東の空が明るくなって来た。


俺は主従関係を結んで、ともに人生を歩む事となったエヴラールさんと並び、街道を王都へ向け歩いて行ったのである。

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