第247話「お願いですから、つつみ隠さず正直におっしゃってください」
エヴラールさんを背負った俺はまず、ジョギングレベルで、
たっ!たっ!たっ!たっ!と、軽快に走り出した。
「ほ、本当に、申し訳ないですね、最高顧問」
恐縮顔であろう、エヴラールさん。
畏れ多いという波動が伝わって来た。
王都へ上る南への街道。
雲に隠れていた月も出て、月明かりが街道を照らす。
魔導灯の明かりと合わせれば、俺の夜目なら十分な光源だ。
ジョギングレベルの時速7kmでしばらく走り……
俺は徐々に速度をあげてゆく。
時速10km、20km、30km、40km、50km……
どんどん速度を上げて行き……
背へおぶさるエヴラールさんから、「おお!」という感嘆の声が漏れる。
時速60km、そして、巡航速度時速70kmで走る。
しゅうううううう!
風を切る音が鋭くなって行く……
「う、うおおおお!! は、は、速~~いいっっ!!」
人間がこんなに速く走れるのか!!??
余裕が消えたエヴラールさんが、叫ぶ。
笑顔も消えているに違いない。
付け加えれば、時速70kmは、
ステディ・リインカネーションの馬の最高時速より速い、前世のサラブレッドの最高時速並み。
それもず~っと長く走れる速度ではない。
冒険者ギルドでも、乗馬が得意なエヴラールさんが驚くのも理解出来る。
俺の背におぶさっているから、馬よりも地面と近い分、
体感速度も違うかもしれないし。
しかし!
こんなものじゃない!
エヴラールさん、驚くのは、まだまだ早いよ。
巡航速度の時速70㎞でしばし、走った後、俺は更に速度を上げる。
時速80km、90km……
「う、うわあああああああああああっっっ!!!!」
まるで絶叫マシーンに乗った、遊園地の客のように、エヴラールさんが絶叫する。
でも!
まだ、まだ、まだ、まだあ!!
俺は更に速度を上げる。
時速100km、110km、120km……
「うっひいいいいいいい!!!!」
……エヴラールさんの悲鳴がヤバくなっている。
現在の時刻はご前1時少し前。
行きと同じく!
闇に紛れ、街道わきに潜む、山賊、強盗、追はぎがちらほら。
でも行きと同じく、今、お前らに構っている暇は全くない。
よって、完全に無視! 華麗にスルー。
山賊、強盗、追はぎは激怒して、叫んで追いかけてくるが、無駄、無駄、無駄あ!
俺は更に更に速度を上げる。
奴らはすぐ後方へ置き去りにされる。
時速130km、140km、150km、200km!!! 最高速!!!
「ぎゃあああああああああああ~~~っっっっ!!!!!!!!!!」
あらららら!
エヴラールさんは超が付く大絶叫!!!
ぎゅ!っと、つかまる俺の肩を「死んでも離さないぞ!」という、
必死の波動が伝わって来た。
対して、
俺は「申し訳ない」と心の中で呟きながら、街道を突き進んでいたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
王都までは約200㎞。
最高時速なら、休憩を入れ、2時間かからずに戻る事が出来る。
そんなこんなで順調に走るうち、最初は悲鳴をあげていたエヴラールさんも、
次第に慣れ……
しかし、俺へ必死にはしがみついていた。
約2時間後の午前3時過ぎ……
途中で、段々とペースダウンし、
王都まで約5kmの地点まで到達した俺とエヴラールさん。
ここでエヴラールさんには背から降りて貰い、歩く事に。
王都まではもう少し、俺とエヴラールさんは、のんびり歩く。
ふう!と、大きく息を吐いたエヴラールさんは、立ち止まる。
「さ、最高顧問! あ、ありがとうございました! と、とんでもなく楽をさせて頂きました!」
俺に向かって、エヴラールさんはやはりというか大が付く恐縮をして、平身低頭。
「いえいえ、少しでも早く王都へ戻って、クロエさん、そしてギルドマスターのテオドールさんを安心させてあげたいですから」
手を横に振り、俺が言えば、エヴラールさんはしみじみして、
「そうですか……クロエが、そんなにも私を心配して……」
と言いかけ、ハッとした。
「う! ギルドマスターの耳にも今回の件が?」
「はい、本来なら自分が行くべきなのに申し訳ないとおっしゃられました」
「あっちゃあ! あ、あの……ギルドマスターは何かおっしゃっていませんでした? お願いですから、つつみ隠さず正直におっしゃってください」
ああ、そうだ。
言いにくいから、エヴラールさんへ伝えるのを忘れていた。
仕方がない。
事前に伝えておいた方が良いだろう。
「エヴラールがロイク最高顧問に対抗心を燃やしている事は知っておりました。今回奴を連れ戻しましたら、マスター命令で、最高顧問直属の部下と致します。もし嫌だなどと言ったら、ギルドを永久追放にしてやります」
「………………………………」
俺がテオドールさんの言葉を伝えると、黙って聞いていたエヴラールさんは、
真剣な表情となり、
「今回の件で心底、感服致しました! マスターの命令がなくとも、最高顧問にお仕えするつもりでした! どうか自分を直属の部下にしてくださいっ!」
声を張り上げ、深々と頭を下げたのである。
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