第246話「よし! 今度こそ、準備万端」

約30分後……金、宝石の採集を終わらせ、ひと段落。

俺とエヴラールさんは、ロッジへ戻り、俺が回復魔法を使い、疲れを癒やす事に。


結果、ふたりとも体調が万全に。


回復魔法行使の後、ロッジに置いてあるエヴラールさんの荷物を、

俺の収納の腕輪へ搬入しておく。


最高顧問に荷物を運ばせるなど、とんでもない!と、エヴラールさんは恐縮したが、

疲れるわけではないと、説得した。


これで、いつでも王都へ出発出来る態勢に。


先ほどは前回同様、拾い放題、取り放題という感じで、

金塊に宝石が大量に採集出来た。


本当に手間いらず。

王国に結構な手数料は取られるが、出現する魔物さえクリアすれば、

このトレゾール公地は、俺にとって、最高の領地といえよう。


王国から俺への割譲が本決定となるのが楽しみである。


やる事をやったので休憩に。


雑談をしながら……更に俺とエヴラールさんはロッジで30分待った。


様子見をする為だ。


外部に……魔物出現の気配は感じない。


このトレゾール公地は、「湧き出て来た魔物を全て倒す」と、


クリアー特典として、1時間、3時間、5時間、3パターンの『インターバル』が設けられている。


依頼受諾者は、その間に金塊や宝石を採集するのだ。


今回エヴラールさんは単独で依頼を受諾した。

魔物とガンガン戦い、経験値をゲットし、腕を上げる為だ。


腕を上げるのが主な目的なので、エヴラールさんは金塊や宝石の採集は二の次。

仮眠を取りながら、インターバルにのっとって魔物と戦っていた。

短い睡眠で蓄積された疲れは、俺の二度の回復魔法でだいぶ緩和されたけど。


まあ、今回は勉強となった。


俺が依頼受諾者として、トレゾール公地へ入った事が理由だと思われるが、

エヴラールさんがオーガを倒し、1時間かからずにドラゴン10体が出現したように、ロジックが崩れる場合がある。


これからも俺はトレゾール公地へは、頻繁に来るだろうから。


なので『インターバル』のイレギュラーについては、特に気にかけ、

魔物の出現が予想外になってしまわないよう、注意が必要だ。


金塊、宝石を採集中、いきなり魔物に襲われる事は避けたい。


まあ、ケルベロスが居れば、見張りと牽制役をやってくれるから、大丈夫なのだが、

油断は禁物。

過信は大敵だ。


という事で!

ドラゴンを倒し、金塊、宝石を採集し、計1時間経った。


それでも魔物が出ない。

なので、エヴラールさんも俺も3時間インターバルになったと思う、多分。


もしもセオリー通りならば、次の魔物が出るまで、

エヴラールさんは1時間、俺は2時間インターバルがある。


このような現状を踏まえた上でエヴラールさんと相談し、

もう一回、金と宝石を採集。


その後に、ふたりで王都へ戻る事を決めたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


さくさくと、2回目の金と宝石の採集が終わり……

ケルベロスに先導して貰い、俺とエヴラールさんは、トレゾール公地を出た。


まだ真夜中、日付は変わっていない。

空を見上げれば、降るような星空だ。


よし、これでもう大丈夫。


ここでケルベロスはお役御免。

いたわった上、異界へ帰還させた。


さてさて!


俺達は、ふたりともほくほく顔だ。

ドラゴンの死骸10体に金、宝石が大量。

死骸のうち、1体はエヴラールさんへ譲るつもり。


たくさん報奨金も出るし、万々歳。

聞けば、俺と同じく、

エヴラールさんもレベルが上がったみたい。


それ以上に、エヴラールさんを無事救助出来た!って事で、

秘書、クロエさんの依頼を完遂した!

達成感が、喜びが、大きく大きくこみ上げる!


エヴラールさんをこのまま王都へ連れ帰れば、クロエさんは勿論、

ギルドマスターのテオドールさんも大喜びするだろう。


再び聞けば、エヴラールさんは、最寄りの町か村で馬を購入し、

王都へ戻る予定……だという。


でも、エヴラールさんのペースで歩き、馬を買える町や村までは、1日ないし、2日かかってしまう。


そこから馬でも、王都までは200km近い。

相当日数がかかる。金もかかる。


俺ひとりであれば、最高時速150kmで、休憩を入れても約2時間で、

速攻帰れるんだけど、そうはいかない。


何?

良い考え、グッドアイディアがあるって?


お前の収納の腕輪へ、エヴラールさんを放り込んで、駆け足すれば良いだろうって?


確かにナイスアイディア。


俺が所持する収納の腕輪は、生物を放り込むと仮死状態となって、保存出来る。


後日お披露目イベントで使うオーガ約100体は、生け捕りにして放り込み、腕輪の中で、仮死状態となっているから。


あざっす!

いつかそれ、使わせて頂きます。


でも今回は、もっと良いアイディアを俺は思いついた。

あくまで、個人的な意見なのだが……


まず俺は自分の荷物をほとんど収納の腕輪へ入れた。

これでえらく身軽となった。


準備完了。


「エヴラールさん、どうぞ」


「は!? な、何です!?」


エヴラールさんの前に立ち、少しかがんで無防備な背中を向ける俺。


大きく目を見開き、ポカンと口を開けるエヴラールさん。


「ご遠慮なさらずどうぞ。俺がエヴラールさんを背負って走れば、超速攻で王都まで帰れます」


俺が言えば、エヴラールさんは、ハッとした。

やっと状況が飲み込めたようだ。


「そ、そんな!!?? 最高顧問におぶさるなんて!!??」


「いえいえ、俺は最高顧問ですが、16歳の小僧です。大事な先輩を背負うくらい、どうって事はないです」


「だ、だめですって!!」


という押し問答が何度かあり、結局エヴラールさんは折れた。


恐る恐る俺の背におぶさった。


念の為、落ちないよう頑丈でも柔らかい魔導ロープで、

エヴラールさんの身体をくくりつけた。


よし!

今度こそ、準備万端。


「行きますよお!」


「は、はい!」


さすがにいきなり最高速は出せない。

エヴラールさんを背負った俺はまず、ジョギングレベルで、

たっ!たっ!たっ!たっ!と、軽快に走り出したのである。

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