第239話「数多の魔物の気配と一緒に、 必死に戦うサブマスター、エヴラール・バシュレさんの気配がある!」

まだ王宮から戻らないグレゴワール様へ『伝言』を残し、

俺はトレゾール公地へ出発した。


先述したが、ファルコ王国所有の、トレゾール公地は、

王都ネシュラから北へ200kmにある。


時刻は、まもなく夜となる午後6時……

太陽は、西の地平線へ、完全に沈んでしまった。


まもなく夜になる。

夜間走行となるだろう。


月明かりがあるから、わずかだが、光源はある。


まあ、俺は獣のように夜目がきくから、問題ない。


北正門を出て、北へ向かう街道をゆっくりと歩く。


まずは魔獣ケルベロスを呼ぼう。


一旦立ち止まり、召喚魔法を行使する。


召喚サモン!』


すぐに光り輝く魔法陣が現れ、間を置かず、中から、ケルベロスが現れる。


『うむ、主。呼んだか?』


『ああ、呼んだ。ケルベロスに協力して欲しいんだ』


もしかしたら、異界で聞いていたかもしれない。


だが、今回の経緯を説明した方が良いだろう。


『人命救助だ! 頼むぞ! 経緯は走りながら説明する』


『うむ、分かった』


俺はケルベロスとともに、数分歩き、ウォーミングアップした後、

ゆっくりと走り出す。


たっ、たっ、たっ、たっ、たっ、たっ、たっ、たっ、たっ、たっ……


いつものように最初はジョギングレベル、

エンジン慣らしという感じで時速7km弱。


当然ケルベルスも余裕でついてくる。


俺はざっくりだが、事情を話す。


ケルベロスは、協力を了解し、


『ふん、主と張り合うなど、愚かな奴だ』


呆れて苦笑した。


そんなこんなで、ジョギングレベルの時速7kmでしばらく走り……

俺は徐々に速度をあげてゆく。


人影が少なくなった頃に、時速10km、20km、30km、40km、50km……どんどん速度を上げて行き……巡航速度時速70kmで走る。


昼間より、人数は少なくなったが、

馬並みの速度で走る俺に行きかう人は、俺とケルベロスを驚愕の目で俺を見る。


でもまだまだ、こんなものじゃない。


時速70㎞でしばし、走った後、俺は更に速度を上げる。


エヴラールさんの安否がかかっている。


この間にも魔物に攻められ、難儀しているかもしれない。


今、まさに殺されようとしているかもしれない。


急がなければ!


改めて実感する。

俺がアラン・モーリアでプレイし、引き継いだ能力は、

自分ひとりだけが、前世より1億倍幸せになる為だけではない。


難儀する人々を助ける為に活かされるのだと。


それが、魔獣ケルベロスがつぶやいた、この世界の、

ステディ・リインカネーションが具現化したリアル世界の大いなる意思!!


大破壊収束の際、習得したスキル『超人走行』が、存分に発揮される!!


人影が少なくなった街道……


80km、90km、100km……


例によって、闇に紛れ、街道わきに潜む、山賊、強盗、追はぎがちらほら。


しかし、今、お前らに構っている暇は全くない。


よって、完全に無視!

華麗にスルー。


110km、120km、130km、140km、150km!!!


おお、最高速度だ!!


まだまだ最高速度は更新出来そうだが、到着した時にダメージが出たらまずい。


走りながら……

俺は、ぱぱぱぱぱぱぱ!と考える。


トレゾール公地は、不可思議な魔境だ。


侵入者のレベルにより、出現する魔物のレベルと数が大幅に変化する。


到着し、起こっている状況に応じ、いろいろな対応をする必要がある。


俺は走りながら、いくつもシミュレーションをしておいた。


そんなこんなで、何と! 何と! 何と!!


俺は1時間30分かからずに、約200kmを走破!!


さすがに少し疲れは出た。


だが、トレゾール公地へ無事到着したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


……しばらくぶり。

という感じで見やれば、


トレゾール公地の周囲は、以前と全く同じ。

高さ約20mの、数kmにわたる高い岩壁が設けられている。


ここで俺は安堵する。


おおおおお!

感じるぞお!

よ、良かったあ!


数多の魔物の気配と一緒に、

必死に戦うサブマスター、エヴラール・バシュレさんの気配がある!


それも弱々しくない。

元気に戦っている気配……力強い波動を発している。


よし!

でも、体力が尽きたら危うい。

ぐずぐずしてはいられない!


俺には先ほど考えたシミュレーションの中から、対応可能な策がある。


まずは扉を開けて、中へ入らなければ。


普通、トレゾール公地の依頼は同時に別口へ発注はしない。


でも俺は特別に依頼を受けた形となっている。


さあ!

中へ入ろう!


俺は所属登録証を魔導感知器へかざし、正門を開けたのである。

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