第237話「ああ、いつも明るく陽気なトリッシュさんが、深刻そうなマジ顔だ」
王立闘技場のトーナメント、ファルコ王国王家主催武術大会、
運営責任者の業務部イベント課のエリク・ベイロン課長との打合せが終わった。
結果から先に言えば………
質疑応答が行われ、俺と嫁ズの疑問点はほぼ解消出来た。
更に、忌憚のない意見とアイディアを! とベイロン課長から言われたので、
丁寧に言葉を選びつつ、いろいろと提案をさせて貰った。
それは良いですね!
ふうむ、まあまあ。
却下です! など……ベイロン課長の反応は様々。
提案内容のピンキリというのは、
ベイロン課長が発した反応の言葉を聞けば推して知るべし。
万が一?対戦相手が激減した場合のプランとして、
生け捕りにしたオーガと俺の、格闘エキシビションマッチなんか、どうですか?
と振ったら、ベイロン課長は喰いついて来た。
「ほう! ロイク最高顧問! それは面白そうですね!」
一瞬で燃え尽きる火炎を吐くとか、死に至る猛毒を吐くとか、呪いをかけるとか、
そういうヤバイ魔物は、対戦相手としては最初から除外する。
なので、人間と対戦させるのはパワーのみの脳キン魔物が多い。
オーガ、オークなどはその代表格だ。
しかしそれでも、彼らの膂力は人間をはるかにしのぐ。
噛み、裂きが出来る、牙、爪も相当な武器だ。
それゆえ闘技場で、人間と魔物が戦う場合、人間が死んだり、大けがをするリスクを減らす為、通常は魔物にハンデをつける。
おもりをつける。
口輪をつける。
爪や牙を抜く。
身体能力低下の魔法をかける、などなど。
このようなハンデを魔物につけ、『良い勝負』へ持ち込むのだ。
「念の為、お聞き致しますが……ロイク最高顧問は、オーガとの戦いにハンデをつけますか?」
「いえ、つけませんね。国境付近で、実際に5千体のオーガとは戦いましたし、ハンデなしで大丈夫です。油断はしませんが、負ける気はしません」
「ははははは、論より証拠ですな! 大破壊収束の再現を目の当たりに出来るとあれば、当日入場されたお客様は本当に盛り上がるでしょう。悪乗りするようですが、ロイク最高顧問対オーガ2体とか、3体とか、10体とか……わくわくしますよ!」
目をキラキラさせながら、熱く語るベイロン課長。
生け捕りにしたオーガと俺の、格闘エキシビションマッチ企画は、仮採用という事になった。
ここでトリッシュさんがひと言。
「ベイロン課長は、超が付く格闘技マニアですものねえ!」
対して、
「ええ! トリッシュさんの言う通りですね。ファルコ王国王家主催武術大会に関わる事となって、本当に嬉しいです。自分の天職だと思っていますよ」
ベイロン課長は、満面の笑みでそう言い切ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……午後4時。
ベイロン課長との打合せが終わった俺と嫁ズ、否、秘書達は、
午後5時の退勤を控え、業務のまとめ作業に入った。
……本日は、充実した良い1日だったと思う。
午前中は、アレクサンドル陛下、グレゴワール様、俺の3人で、
創世神大聖堂における、ルクレツィア様との婚約、結婚確定の発表の仕様、スケジュールの変更。
嫁ズ全員で同時に婚約、結婚確定の発表をするから、
改善と言って良いかもしれない。
陛下からは、伯爵として、領地の割譲という話も頂けた。
そしてお昼は、トリッシュさんの実家、
最後は、業務部イベント課のエリク・ベイロン課長と前向きな打合せが出来た。
ファルコ王国王家主催武術大会では、王国執行官として、
改めて良いお披露目が出来ると思う。
エントリーもしておいたから、後は各所と調整し、細部を詰めて行くだけだ。
そんなこんなで、午後4時30分を過ぎた。
俺と嫁ズは、執務室の整理と掃除をし、退勤の準備をする。
とその時!
るるるる、るるるる……
魔導通信機の呼び出し音が鳴った。
何だ、誰かの訪問か、連絡?
一体、何だろう?
トリッシュさんが、受話器を取り、話す。
彼女の顔が曇った。
おいおい、どうした?
俺、シルヴェーヌさん、シャルロットさんの視線を浴びる中……
「ロイク最高顧問! 内線です! サブマスター、エヴラール・バシュレさんの秘書、クロエ・オリオルさんですよ! 今、最高顧問室の受付だそうです! 大至急! ご相談をしたいそうです!」
ただならぬ気配をまとい、トリッシュさんが、告げた。
ああ、いつも明るく陽気なトリッシュさんが、深刻そうなマジ顔だ。
え?
クロエさんが?
大至急の相談?
「分かった! とりあえず、応接室へ通そう。そしてクロエさんから話を聞こう!」
指示を出した俺は、ぎゅと唇を噛み締めたのである。
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