第236話「対戦相手からは降参申し入れが続出し、試合の前に不戦勝の連続になるやもしれませんね」

新設の最高顧問室に付属した応接室において、俺達は打合せをしていた。


午後2時のアポイントで来てくれたのは、王立闘技場のトーナメント、ファルコ王国王家主催武術大会、運営責任者の業務部イベント課のエリク・ベイロン課長だ。


まず最初に、王道的なあいさつ。


年齢は俺の方が全然下だが、上級貴族の伯爵かつ役職も遥かに上なので、

ベイロン課長は緊張気味且つ丁寧にあいさつして来た。


俺と秘書達も、偉そうにせず丁寧にあいさつ。


トリッシュさんは、現在の肩書を名乗った後、


「こんにちはあ! 課長! お久しぶりぃ!」


とか、笑顔で手を振った。


対して、ベイロン課長は苦笑気味だが、凄く嬉しそう。


ちなみに俺はベイロン課長とは初対面である。


まあ、俺はフリーダムな名誉職だし、直接の接点はないからなあ。


同じ業務部に所属して、元部下のトリッシュさんを猫可愛がりしたという、

元上司のベイロン課長。

良きにしろ悪きにしろ、いろいろな想像をし、どんな人だろうかと、俺は気になっていた。


しかし、実際に会ってみると、面倒見が良い! 

というトリッシュさんの言葉を裏付けるような、

人のよい30代後半のおじさんだった。


冒険者ギルドの業務部イベント課の課長であれば、部下で近いし立ち位置といえるが、トリッシュさん含め、結婚云々を言うわけにいかない。


なので俺は、無難な物言いをする。


「ベイロン課長、ウチの秘書がとてもお世話になりまして……」


「いえ! ロイク最高顧問! 私こそ! トリッシュさんにはいろいろ助けて貰いましたから!」


ここでベイロン課長がカミングアウト。


「実は……自分が少年の頃、死に別れた妹に、トリッシュさんが似ていたので」


成る程!

そういう事か……


課長いはく、


……とても可愛がった妹がはやり病にかかり、亡くなった。


冒険者ギルドでトリッシュさんと初めて会った時、面影おもかげを重ねてしまったという。


ベイロン課長は身を乗り出し、


「ロイク最高顧問! 私から申し上げるのもなんですが、トリッシュさんはとても有能で良い子です! 何卒宜しくお願い致します!」


と熱く語る。


対して俺も、実感を込めて言う。


「はい、ベイロン課長のおっしゃる通り、トリッシュさんはとても有能だし、明るく、気遣いが出来る素敵な女性です。そして我々チームのムードメーカーです! 必ず大切にしますよ!」


すると、シルヴェーヌさん、シャルロットさんも。


「ベイロン課長様! 私達も、トリッシュさんの事、実の妹みたいに思っていますわ!」

「はいっ! トリッシュさんは、とっても! とっても! 頼りになる妹ですわ! 話していると凄く元気が出ますの!」


『姉達』の言葉を聞き、トリッシュさんは涙ぐむ。


そしてベイロン課長も嬉しそうに破顔していたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 


打合せの時間はたっぷりあったので、最初はしばし5人で雑談。


ベイロン課長は、トリッシュさんを含めた秘書3人が仲が良いので、

先ほどの言葉通りだと、更に安心したようだ。


話題はやはり『大破壊収束』について、

そして秘書と情報共有をしているとベイロン課長へ告げ、俺が許可もしたので、

ギルド内でかん口令が敷かれている『ドラゴン10体討伐』にも及ぶ。


そんな話をしてから本題へ。


王立闘技場のトーナメント、ファルコ王国王家主催武術大会へ、俺がエントリーする件である。


まず、武術大会の概要から簡単に。


分かりやすく、5W1Hでいえば、


Who(だれが)……王国執行官ロイク・アルシェとして、俺が参加。


When(いつ)……約8か月後。

1か月後から募集開始。3か月後にエントリー終了。半年後に出場選手決定。


Where(どこで)……王立闘技場フィールド。※魔法障壁設置。


What(なにを)……大会の内容。

国内外から募集した者に競わせるポイント先取制の武術試合。

武器※指定。

魔法※魔法は回数制限付きを使った勝ち抜き戦。

呪い、死の魔法など使用禁止の魔法あり。降参申し入れあり。


Why(なぜ)……参加の目的。

勇者級の能力を持つ俺のデモンストレーション。はっきりと王国民に認識して貰う。


How(どのように)……優勝あるのみ。相手がある事だが、出来れば圧倒的に勝つ!


ベイロン課長が、補足説明をする。


「……試合は5分のポイント先取制です。使用する武器は、死に至らないレベルの、雷撃属性を付呪エンチャントした武器です。ただし、ヒットした回数ではなく、専用魔導機械が感知したダメージで判断します。また致命傷を与えて、相手を殺してはいけません、即座に失格となります。もしも相手に敵わずと思ったら、降参も可能です。その場合、武器を地面に置いて放棄し、30秒以上を目安に両手を挙げて貰います」


そう、俺はアラン・モーリアでプレイしたから知っている。


武術大会はあくまで試合。


殺すのは絶対にNG。


相手を殺さず無力化させるのがベスト。


魔法使いも、上位魔法等の使用制限、回数制限、

悪しき魔法の使用厳禁という縛りもある。


それ以外に、いくつもルールがあるのだ。


補足説明の後、俺と秘書達から質問が。


何回もやりとりが交わされ、現状での疑問点は解決した。


こちらからも、エントリーの目的を告げる。

勇者級の能力を持つ俺のデモンストレーション。

はっきりと王国民に認識して貰うと。


すると、苦笑したベイロン課長から懸念が。


「もしもロイク最高顧問がご参加されるとなれば、お客様は満員となるでしょうが、対戦相手からは降参申し入れが続出し、試合の前に不戦勝の連続になるやもしれませんね」


降参申し入れが続出し、試合の前に不戦勝の連続……


そうなったら、仕方ない。

生け捕りにしたオーガと、格闘エキシビションマッチでもやるかあ。


「ははははは、まあご参加されれば、必ず盛り上がりますし、ロイク最高顧問が第一シードとなるのは、間違いないと思いますよ」


ベイロン課長はそう言うと、今度は嬉しそうに笑ったのである。

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