第233話「好意の波動も強く感じる! これは大きなチャンスだ!」

俺のシンプルな挨拶を聞き、トリッシュさんのご両親は驚き、平身低頭で恐縮してしまった。


ステディ・リインカネーションの世界は中世西洋風。

身分の格差は大きく、上級貴族たる伯爵が平民にへりくだる事は絶対にないからだ。


しかし俺は笑顔で、父ロジェさん、母リディアーヌさんへ、


「いえいえ、じゃあ、お互い普通に話しましょう。俺、この前まで平民でしたし、16歳の小僧ですから」


すると、機を見るに敏のトリッシュさんが、ぱっと俺の右側にくっつき、


「うふふ♡ パパ、ママ、そうなのお♡ ウチの優しい旦那様はあ、貴族になっても全然変わりませんよお♡」


と甘えん坊モード全開を見せた。


続いて、シルヴェーヌさん、シャルロットさんも、左側で俺にくっつき、


「はい、ウチの旦那様は驕らず、誇らずですわ♡」

「ええ、控えめで、腰が低いんですよ♡ ウチの旦那様は♡」


柔らかい態度の俺と嫁ズの仲睦まじさ。

その中にしっかりと愛娘が入っている事に、トリッシュさんのご両親は安心したようだ。


「はははは、分かりました。厨房に料理の支度は出来ています。運びますから、早速食事と致しましょう」


「いろいろ用意をするから、トリッシュ、手伝ってくれるかしら」


「はいっ!」


元気よく返事をし、ぱっと俺から離れるトリッシュさん。


ここで俺は、


「では、全員でやりましょう。用意が早く済めば、その分、お話し出来ますから」


シルヴェーヌさん、シャルロットさんも、


「お手伝いしますわ」

「何でも申し付けてくださいね」


と笑顔で申し出た。


しかし、ここで滞りが。


「う、うむ……」

「でも……」


と躊躇するご両親。

招いたお客に手伝わせる事をよしとしない、抵抗があるようだ。


しかし、ここでもそんな空気を吹き飛ばしたのは、トリッシュさんである。


「パパ、ママ、私達は全員で家族になるのよ! ず~っと助け合って生きて行くの、今日は記念すべきスタートの日よ。みんなで支度しましょう」


まさに鶴の一声。


ここで締めるのは俺の役目だろう。


「トリッシュの言う通りだ。全員でやろう! お父さん、お母さん、ご指示をお願いします」


俺の言葉を聞き、父ロジェさん、母リディアーヌさんは笑顔で頷いた。


「分かりました! トリッシュの言う通り、今日は我々家族の記念すべき日だ! 手伝いをお願いします!」


「ええ! じゃあロイク様は、夫といっしょに厨房へ行って料理をどんどん運んで! 女子組は運んで来た料理の配置と飲み物の用意をしてね!」


遂にGOサインが出て、俺達は全員でランチの支度をしたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


父ロジェさん、俺の男子チーム。

母リディアーヌさん、トリッシュさん、シルヴェーヌさん、シャルロットさんの女子に分かれ、ランチの支度は極めてスムーズに行われた。


俺が気になったのは、トリッシュさんの様子。

嬉々として、活き活きと配膳等の作業をしていた。


両親が冒険者だっただけに、憧れたが、適性なく夢破れ、冒険者ギルド職員となったトリッシュさん。


でも冒険者だけでなく、飲食店の仕事も大好きだと分かる。


さてさて!


他には客の居ない、貸し切り状態な邂逅亭の店内。

4人掛けのテーブルをふたつくっつけ、計6人のランチが始まった。


新鮮な肉を使った串焼き肉、揚げ肉、ゆで肉、ミートパイ。

そして焼き魚に魚のフライ。

焼きたてのパン、フレッシュなサラダ、熱々のスープ等々、どれも凄く美味しい。


トリッシュさんから聞いてはいたが、想像以上だ。


先日、アメリー様のご実家サニエ子爵家へ訪問した際は、サニエ子爵ご夫妻の速射砲の如き口撃に圧倒されてしまった。


だが……トリッシュさんのご両親ラクルテルご夫妻は、普通に話題を振って来る。


トリッシュさんから聞いているらしいが、

話題はまず俺の生い立ち、そしてこれまでの経歴から。


「ほうほう、それはご苦労されましたなあ」

「大変でしたねえ……」


俺の生い立ちを聞き、同情してくれたラクルテルご夫妻は、

元冒険者、ランクBのランカーたる戦士と魔法使い。


父ロジェさんがしみじみ言う。


「俺とかみさんは、元々同じ冒険者クランのメンバーでしてね。5年付き合って結婚、まあ、否応なしに捕まっちまって、くされ縁って奴ですよ」


対して、聞き捨てならないという雰囲気で、母リディアーヌさんが柳眉を逆立てる。


「こら! 貴方! くされ縁って、どういう事! 否応なしに捕まったのはこっちよ!」


「そ、そうだっけ? リディアーヌ」


「そうよ! だって! そもそも交際のきっかけはね、ロジェ、貴方が、惚れた! 付き合ってくれ! って懇願するから仕方なくって感じだったわ」


「あはははは、もう! パパも、ママも、相変わらずなんだからあ!」


両親のやりとりを思い切り笑うトリッシュさん。


相変わらずって事は、いつもの事なんだろうか。


そんなこんなで、経歴の話から……

俺の果たした偉業、オーガ5千体の討伐、大破壊収束の話となり、

戦闘の話で、互いにリアルなやりとりとなる。


トリッシュさんのご両親ラクルテルご夫妻は、

先日の大破壊収束発表を見に行ってくれたと聞く。


であればと更に俺が、臨場感あふれるトークで討伐の様子を語れば、

ラクルテルご夫妻は目を輝かせ大興奮。


「ロイク様! 貴方は凄いですよ! いや、凄いなんてもんじゃない! 俺の経験上、オーガは、とんでもなく強い魔物で、そう簡単には勝てない。それをたったひとりで5千体討伐なんて、想像の域も超えてます!」


「ええ! ええ! 夫の言う通り! ロイク様は本当に凄い方ですわ! ……現役の頃、私と夫を含め、クラン全員5人がかりで、オーガ1体を何とか倒した事がありましたもの!」


おお、話が盛り上がって来た!


好意の波動も強く感じる!


これは大きなチャンスだ!


「お父さん、お母さん! いきなりですが、改めて言います! パトリシアさんを、絶対幸せにします! 僕にください!」


ここぞとばかり、俺はラクルテルご夫妻へ、

『決めゼリフ』を言い放っていたのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る