第234話「極秘情報の取り扱いとは、大変で気を遣うものだ」

「お父さん、お母さん! いきなりですが、改めて言います! パトリシアさんを、絶対幸せにします! 僕にください!」


ここぞとばかり、俺はラクルテルご夫妻へ、

『決めゼリフ』を言い放っていた。


すると、父ロジェさん、母リディアーヌさんは「はあ!?」という感じ。


え!?

何その反応?


まさかNO!とかと焦った俺であったが、心配は杞憂であった。


「おいおい、ロイク様、何言ってんだ、今更!」

「ええ、そうですよ!」


「え? じゃあ!」


「ああ! ロイク様みたいな最高の婿殿はどこ探しても見つからねえ! トリッシュもぞっこんだしな!」


「ええ! ええ! ロイク様もウチの子を可愛がってくれてるのは一目瞭然ですし!」


ここで、トリッシュさんも会話に混ざり、


「パパ! ママ! 私だけじゃなく! お嫁さん全員が旦那様と相思相愛なのよお♡ ねえ、そうですよねえ?」


同意を求められたシルヴェーヌさん、シャルロットさんもにっこにこ。


「ええ! 全員、旦那様と相思相愛ですわ♡」

「そして! 妻全員、仲良しさんですわ♡」


そんな俺達の様子を見て、ラクルテルご夫妻は嬉しそうである。

更に話が弾む、弾む。


「パパ、ママ、私、先の事もちゃ~んと考えてるんだ」


「先の事?」

「どういう意味?」


「うん! 私、冒険者ギルドで定年まで勤める気はない。頃合いを見てやめて、いずれこのお店を継ぎたいの!」


ああ、そういえば、トリッシュさんからは、何回か聞いていた。

子供の頃からのもうひとつの夢……

ある程度勤めて、ギルド職員を退職し、両親の店を継ぎたいって。


出来れば店をもっと大きくして大勢の人に美味しい料理を食べて貰いたい。

支店も出したいとか……大きな夢も持っているようだ。


そして商売の話ならと、シャルロットさんと熱心に話していたっけ。


最初にお互い自己紹介した時、プロフを告げたので、

ラクルテルご夫妻は、俺だけでなく、シルヴェーヌさん、シャルロットさんの出自も認識している。


そのシャルロットさんが、きっぱりと言う。


「ウチのルナール商会も、全面的にトリッシュをバックアップして行きますわ。資金も人も資材もです」


当然、俺とシルヴェーヌさんも。


「お父さん、お母さん、シャルロットだけではなく、俺達家族全員で、トリッシュをバックアップして行きますよ」


「はい! 私達家族が持つお金、人脈、情報等々、持てる力全てでフォローします。それが家族全員の幸せにも、つながりますし」


再びトリッシュさんが、


「……という事で、パパ、ママ、このお店を継ぐから! もしダメって言われたら、旦那様達と力を合わせて自分で新しいお店をオープンさせちゃう!」


夢と決意を語る愛娘。

愛娘を支える新たな家族。


ラクルテルご夫妻は、嬉しそうに微笑みながら、「うんうん」と頷いていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


午前11時から約2時間。

……午後1時少し前。


楽しく、にぎやかにランチ会食は終わった。


結局、トリッシュさんの「跡を継ぐ」という希望は基本的に通った。

基本的にとは、トリッシュさんが見習い経営者として修行し、適性があれば、

邂逅亭を譲るという条件がラクルテルご夫妻からついた事。


中々厳しいご両親かもしれない。


この話の後、結婚式はいつという話となった。


とりあえず、もう少し先ですと伝えておく。


王女ルクレツィア様との結婚の件は、

かん口令が敷かれている為、厳秘であり、伝えられない。


またジョルジエット様、アメリー様の事はラクルテルご夫妻には伝えたけど、

嫁ズ全員参加の公式発表までは、まだ口外厳禁。


義両親とはいえ、徹底しておく。

伝え方は優しくへりくだっているけど。


極秘情報の取り扱いとは、大変で気を遣うものだ。


さあ……次は冒険者ギルドへ行かねばならない。


午後2時のアポイントで、運営責任者の業務部イベント課のエリク・ベイロン課長に会い、打ち合せをする予定だ。


「結婚式の予定が見えて来たら、改めてご相談しましょう!」

「とても楽しみにしておりますわ!」


などと、ラクルテルご夫妻、笑顔の父ロジェさん、母リディアーヌさんに見送られ……


俺とトリッシュさん。シルヴェーヌさん、シャルロットさんが表に出ると、

頼んだ通り、リヴァロル公爵家の専用馬車が止まっていた。


御者は、先ほど俺達を邂逅亭へ送ってくれたのと同じ人。

彼も休憩をとったのだろう。

やはり、にこにこしていた。


「では! 失礼致します!」

「「「失礼致します!」」」


俺達は改めて辞去のあいさつをし、馬車へ乗り込んだ。


そして、冒険者ギルドへと向かったのである。

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