第223話「俺と接している時だけ、強気、饒舌となり、甘えん坊状態で弾けてしまう」

結局、サニエ子爵家邸へ到着するまで、アメリー様の教育的指導は続いた。


まあ、教育的指導とはいっても、厳しく叱責されるわけではない。


愛情があふれでる掛け合い漫才みたいなもの。


筆頭秘書のシルヴェーヌさんから基本は教わっていたが……

貴族の言葉遣い、作法など、更にアメリー様から俺は、楽しく、面白く教えて貰い、

却って心の距離が近づき、ふたりの仲が親密になったと感じる。


お陰で、リラックスし、緊張もだいぶ解けた。


そんなこんなで、サニエ子爵家邸へ到着。


俺とアメリー様が乗った馬車は主屋の本館玄関前につけられる。


どのような雰囲気なのかと馬車の車窓から見れば……

そこそこ広いという敷地に、

主屋がひとつに別棟がひとつ、後は倉庫がひとつ。


1000年の歴史を誇り、とんでもなく広いリヴァロル公爵家邸に比べれば、

さすがにこじんまりしている。


しかし、300年の渋みというか、前世風で言えばわびさびがあって渋い城館。


表向き堂々と言えないが、俺は結構好きだ。


さてさて!


馬車からは俺が先に降り、アメリー様の手を引き、ゆっくりとおろした。


アメリー様は馬車から降りると、すぐ俺にぴたっとくっついた。


目の前にはサニエ子爵家の使用人達が勢ぞろいし、並んでいた。


サニエ子爵家の使用人達へは、


「ジョルジエット様、アメリー様は、街中で暴漢から助けた俺ロイク・アルシェとは仲が凄く良い」


とだけ伝えてある……みたい。


だから俺がアメリー様から凄く慕われているという光景でも、非難されない。

そう、アメリー様からは、聞いていた。


ちなみにサニエ子爵夫妻に出迎えて貰わないのは作戦である。

爵位が上の俺が礼を尽くし、伺ったという形にしようと、

グレゴワール様、サニエ子爵夫妻、俺、アメリー様で取り決めをしたのだ。


アメリー様が声を張り上げる。


「ただいま、戻りましたあ! ロイク・アルシェ伯爵様もご一緒で~す♡」


アメリー様はますます甘えん坊且つ大胆になり、俺と腕を組み、

身体を密着させている……って、いつもの事か。


そんなアメリー様を見て、使用人達はびっくり。

目を見開き、口を「ぽかん」と開けていた。


話は聞いていても、男子へ思いっきり甘えるお嬢様の、

リアルな姿が「信じられな~い」という面持ちだ。


やはりルクレツィア様がおっしゃった、

「ジョルジエット様、アメリー様が男子は苦手だった」

という過去は本当らしい。


そして、サニエ子爵家の家令は女性である。


……アメリー様から聞いた話では、ラシェルさんという方。

落ち着いた物腰のベテラン才女という雰囲気だという。

年齢は50歳過ぎだと、アメリー様からは聞いていた。


俺がチラ見し、容姿からすると、使用人達の真ん中に立っている瘦身の女性が、

ラシェルさんであろう。


そのラシェルさん、一歩、二歩と前へ出た。


アメリー様は俺にくっついたままだ。


ラシェルさん、深々と一礼。


身体を起こすと、はきはきとあいさつする。


「いらっしゃいませ、ロイク・アルシェ伯爵閣下。お帰りなさいませ、アメリーお嬢様」


「初めまして、ロイク・アルシェです」


「はあい、ラシェルう。今、帰りましたわあ」


俺にくっつくアメリー様の言葉を聞き、様子を見て……

ラシェルさんの表情がわずかに曇る。


「……お嬢様、いくらロイク様とはいえ、使用人達の前でございますよ」


公衆の面前で男子にくっつき、べたべたするなど、

貴族令嬢として、いかがなものか、はしたない、おやめくださいという、

たしなめであろう。


しかし!

アメリー様は華麗にスル―。


「うふふ、お父様から許可は得ていまあす。それにホームグラウンドの我が家くらいしか、こうやって、ふたりきりで甘えられませんからあ」


アメリー様は甘い声でそう言うと、更に「ぴたっ」と俺に密着したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


俺に密着したまま……

アメリー様は改めて、使用人達へ簡単に俺を紹介。


そのままラシェルさんの先導で、特別客室へ向かう。


ここで擁護しておくと、普段のアメリー様は、超がつくまじめっ子。

ロジエ女子学園ではまさに淑女、

丁寧な言葉遣い、礼儀正しく控えめ、無口で静かだという。


しかし、俺と接している時だけ、強気、饒舌となり、甘えん坊状態で弾けてしまう。


このような場合も……ヤンデレというのだろうか。


そんな事を考えているうちに、本館2階奥、特別客室へ着いた。


とん! とん! とん! とん!


ラシェルさんが扉をノックする。

そして、


「御当主様、奥様。ロイク・アルシェ伯爵閣下、そして、アメリーお嬢様をお連れ致しました」


対して!

サニエ子爵の声が大きく返って来る。


「おお、よくぞ、いらしてくれた! さあさあ! ラシェル! 早く中へ通してさしあげなさい!」


「かしこまりました!」


ラシェルさんは大きな声で返事をすると、

ゆっくりと特別客室の扉を開けたのである。

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