第218話「伯爵になる君とは末永く、友好を深めながら、互いに切磋琢磨していきたいものだ」

ルクレツィア様との結婚話はおさまりがつき……

そのルクレツィア様以下の女子達は、そのまま『王族控え室』にて、

出番待ちのアレクサンドル陛下と、歓談する事に。


グレゴワール様は、陛下へ確認をいくつかした後、

『王国宰相控室』へ戻り、文官と最終打合せ。


一方、俺は今、王立闘技場のフィールドに立っている。


目の前には、俺が収納の腕輪から搬出したオーガ3千体の死骸があり、

動員された兵士達が総出で、フィールドへ綺麗に並び直している。


傍らには現場部門の総指揮を行うバシュラール将軍が立っている。

先ほど、呆れたような表情で、苦笑していたが、今もあまり変わらない。


ただ俺に対して、嫌悪感は全くなく、好意的な波動を感じるのでひと安心だ。


「ははははは、ロイク・アルシェ君、君には本当に呆れ、驚いたよ。全てにおいて、とんでもなく規格外だな。君みたいな奴は見るどころか、聞いた事もないぞ」


「はあ、自分でもそう思います」


俺は当たり障りのない調子で言葉を戻した。


余計な事を言いそうなので、ここは聞き役に徹した方が良い。


饒舌となったバシュラール将軍は更に話を続ける。


「ふむ、ドラゴン10体の討伐、今回のオーガ5千体の討伐による大破壊の収束、そういった桁外れの武勇だけでなく、美しい女性達にもモテモテだとは。まさに英雄は色を好むだな」


「はあ……」


「ははははは! 先ほどはびっくりしたよ。いきなりアレクサンドル陛下が、君にルクレツィア様をお任せし、エスコートするよう命じたからな!」


「はあ、まあ……」


「最初から変だとは思ったさ。ルクレツィア様が、やけにロイク君を意識されていらっしゃった」


「はあ」


「グレゴワール閣下も、エスコートを命じられた陛下を全くお止めしないし、一体、陛下と閣下の意図はなんなのだと、私は首を傾げたよ」


バシュラール将軍はそう言うと、また苦笑したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「まあ、将軍がご心配されるのも分かりますよ」


「そうだろう、ロイク君。 ルクレツィア様と君が部屋を出て行ってから、唖然とする私へ、真剣なお顔をされた陛下からお話があった」


「ですか」


「うむ、このたびルクレツィアとロイク・アルシェを結婚させる事にしたとな。迷いのないお言葉できっぱりとおっしゃられた」


「はあ……」


「うむ、さすがにびっくりしたよ」


「ですよね」


「うむ、陛下はな、この件は、いろいろと考えるところもあり、グレゴワール閣下とふたりだけ内々、極秘事項の話だったと。今まで将軍たる君に伏せておいて、申し訳ないとおっしゃられたよ」


「はあ……」


「陛下からは、妹君ルクレツィア様のお幸せと、我が国の国益を熟考された結果、国外からいくつかあった縁談をきっぱりとお断りし、勇者たる君に嫁がせる事に決めたと聞かされたのさ」


「はい、自分も少し前に、そうお聞き致しました」


「ふむ……そうか。当事者の君でさえ、ぎりぎり知ったのか。陛下と閣下で何度も何度も討論されたのだろうな」


「はあ……多分そうだと自分も思います」


「そうか。まあ、陛下のお考えは理解出来る。確かに、他国の王族へ嫁がせるより、今回の大破壊収束で、王国民に人気の高い君へ嫁がせ、故国へお留めになった方が、ルクレツィア様はお幸せになるだろうからな」


「ですね」


「それに、ルクレツィア様を妻とする事で、勇者たる君は王家の端へ加わる。生涯、ファルコ王国から離れられなくなる。これは大きい。そういう計算もあるのだろう」


「はい、それは全く問題ありません。覚悟していますし、ファルコ王国は、ルクレツィア様同様、自分にとっても故国です。王国には誠心誠意尽くしていくつもりです」


「ふむ、良い心がけだ。その場でグレゴワール閣下からは、ジョルジエット殿、アメリー殿を、君が暴漢どもから助けたくだりもお聞きした。それが縁となり、ふたりが君と結婚するとな。ふたりが白馬の王子たる君をあれだけ慕うのは納得する」


「そうですか」


「うむ、しかしだ、ルクレツィア様は、陛下のご命令で仕方なく君に嫁ぐ。君とも今日が初対面だ。なのに何故、あんなに嬉しそうにお笑いになり、且つ君を深く信頼もされているのかね?」


将軍の質問に対し、正解に近い答えを戻す事は可能かもしれない。


ルクレツィア様、ジョルジエット様、アメリー様との心の交流。


ジョルジエット様、アメリー様の結婚相手という俺の存在へ、

ルクレツィア様がご興味を持たれた事。


王国の駒として、運命に流される事に悩み苦しんでいたルクレツィア様の心の葛藤。


対して、ジョルジエット様達が出した俺との結婚という提案。


そしてアレクサンドル陛下のご決定と合わさった運命の扉が開いた結末……


しかし、話が長くなるし、ここでぺらぺら言うべき事ではない。


「それは自分にも分かりません。ですが、ルクレツィア様とは、誠意をもって真剣に話し合い、求婚を受けて頂きました」


「ふむ、誠意をもって真剣に話し合い、ルクレツィア様に求婚を受けて頂いたのか」


「はい、ルクレツィア様には、ジョルジエット様達と結婚する事も、包み隠さずお伝えした上で、快くプロポーズをお受けして頂きました」


「ふうむ、君は、ルクレツィア様へ正直にお伝えしたのか」


「はい、お伝えしました」


「うむ、ルクレツィア様以外にジョルジエット殿以下、君と結婚する女子達も皆、君を心から信頼しているようだからな」


「ですか」


「ふむ、女子達のロイク君を見る表情で分かる。それにだ、君が驕らず、誇らず、誠実で裏表のない男なのは、私も身をもって知っている」


「ありがとうございます。お褒めに預かり光栄です」


「うむ、いろいろ尋ねてしまったが、許してくれ」


「そんな、将軍がいろいろご質問されるのはもっともですから」


「ははは、私の立場を分かってくれて嬉しいよ。本当に君は気配りが出来る。伯爵になる君とは末永く、友好を深めながら、互いに切磋琢磨していきたいものだ」


いろいろ聞かれてしまったが……好意的なのは変わらなかった。


バシュラール将軍は手を差し出し、俺と握手してくれたのである。

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