第219話「私は根本から考え直し、きっぱりと決断したのだよ」
「開門!」
「かいも~ん!」
「開門するぞお!」
大きく張り上げる警護騎士達の声。
午前10時30分となり、王立闘技場の正門他いくつかの門が開けられた。
その瞬間!
ドドドドドドドドドっという地響きと、
「「わあああああああああ!!!!!」」
「「おおおおおおおおおお!!!!!」」
という叫び声が入り乱れ、大勢の人々が押し寄せたのが、音と気配でも分かった。
「危ないぞお! 押さないで! そこ! ちゃんと! 一列に並べえ!」
「ほらほらあ! 前の者と一定の間隔を取り、ゆっくりと進めえ!」
「ごらあ! 慌てるなあ!」
再び飛び交う、怒号に近い警護騎士達の注意と指示の声。
まあ、俺が来た時から……
王立闘技場の周囲は、進路を示すロープが幾重にも張られ、
老若男女身分を問わず、開場を待ちわびる数多の王国民が居た。
彼ら彼女達は、衛兵、兵士に交通整理され、マナーを守り、順序良く並んでいたのだ。
え?
俺が彼ら彼女達のそばを通っても、大丈夫だったかだって?
ノープロブレム!
問題なし!
成し遂げた事は国内中に有名となったが、
ど平民の俺の顔は、知られていない事が幸いした。
傍らを通り抜けても、「あいつだあ!」などと騒ぎ立てる者は居なかったのである。
……開門し、王立闘技場の中に入った王国民はどう誘導されたかといえば、
観客席でなく、緑の芝生鮮やかなフィールドへ。
ロープ越しで、フィールドに並べられたオーガ3千体を間近で見物。
ひとまわりして、観客席に入るという段取り。
そして、ボドワン・ブルデュー辺境伯と避難した領民達へ義援金を募るという趣旨で、頑丈な鋼鉄製の大型募金箱がフィールド通路の最後に設置されていた。
この募金箱は、闘技場内、何か所にも設置されているとの事だ。
やがて、フィールド内は、俺に討伐された3千体のオーガを眺める王国民で、
いっぱいとなった。
おびただしいオーガの死骸を眺める王国民は皆、安堵し、嬉しそうな表情だ。
……俺はといえば、関係者出入り口の陰から目立たないよう、
その様子をじっと見守っていた。
と、その時。
!!!
知った気配が、俺の背後へそっと近付く。
気配の主は、ぽん!と軽く俺の肩を叩いた。
普通はグレゴワール様、もしくは先ほど握手をしたバシュラール将軍だと思うでしょ?
しかし、違った!
肩を叩いたのは何と!
ファルコ王国の長、ルクレツィア様の兄君、
国王アレクサンドル陛下だったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
まあ、アレクサンドル陛下から肩叩きされたといっても、
王国執行官を、解雇されるという意味ではない。
アレクサンドル陛下は主君であり、直属の上司でもあり、
そして義理の兄にもなる方。
俺の肩に置いた、アレクサンドル陛下の手は温かい。
親愛の情が伝わって来る。
「見よ、ロイク。大破壊が収束し、王国民達の安堵した嬉しそうな表情を」
「はい、良かったです」
「うむ、ロイク。お前が頑張ったお陰だ」
「いえ、ボドワン・ブルデュー辺境伯閣下が身を挺して盾となって頂き、加えてバシュラール将軍閣下の心強い後詰めがあったからこそ、自分は心置きなく単身でオーガどもと戦う事が出来ました」
「ふむ、相変わらず、奥ゆかしいな」
「いえ、事実ですから」
「うむ、グレゴワールより普段からお前の話は良く聞かされていた。お前と出会い、やりとりする事により、自分の偏見、狭量さを思い知らされたとな」
「グレゴワール閣下が、ご自身の偏見、狭量さを思い知らされたのですか?」
「そうだ。グレゴワールは元々、お前のような冒険者に偏見を持ち、毛嫌いしておった。下品で、金に意地汚い者どもだとな。初めて会った時の、あ奴の対応を思い出したら、分かるはずだ」
まあ、確かに……最初グレゴワール様には『塩対応』された。
ジョルジエット様、アメリー様をお助けした俺に、グレゴワール様は、
金を渡してバイバイしようとしたから。
それも直接会おうとせず、家令のセバスチャンさん経由だもの。
でも、そこまでアレクサンドル陛下へ本音で話すなんて、
陛下とグレゴワール様は、信頼し合っているんだなあ。
納得する俺に対し、アレクサンドル陛下の話は続く。
ここはバシュラール将軍との会話のように、俺は聞き役に徹した方が良いだろう。
「それが今や、グレゴワールはロイクを大変可愛がり、一番の理解者となっておる。ジョルジエット救出の件はあったにせよ、とんでもない変わりようだ、はははは」
「はあ、まあ」
「バシュラール将軍もそうだ。自分と部下達のメンツを守ってくれたお前に対して、とても好意的だ。いや、惚れ込んだといっても過言ではない」
「ありがたいです」
「そして私もそうだ。お前を大いに気に入ったよ」
「それは光栄ですね」
「うむ、だが当初は私もグレゴワールとほぼ同じであった」
「陛下が、グレゴワール閣下とほぼ同じ……だったのですか?」
「うむ。初めてグレゴワールからロイクの話を聞いた時、凄い者が居るな、というくらいの認識しかなかった。竜を10体倒したと聞いても、グレゴワールの言う通りだなと驚き、納得するくらいであった」
「そうでしたか」
「うむ、迷いに迷っていたルクレツィアの縁談、嫁ぎ先の件もそうだ。ルクレツィアの幸せを考えたら、他国などへは嫁がせたくない。だがな、グレゴワールが勇者と称えるロイクの存在は、単なる選択肢のひとつでしかなかった」
「自分の存在は、単なる選択肢のひとつでしかない……」
「うむ、そうだ。ロイクの存在を知っても迷っていた。お前がいくら誠実且つ、強くて優秀だと言っても、所詮は平民。王女たるルクレツィアの幸せと国益を考えたら、結婚相手として有望ではあっても、バランスと決め手に欠けたのだ」
「自分は、ルクレツィア様の結婚相手として有望ではあっても、バランスと決め手に欠けましたか」
「ふむ、しかし今回の大破壊収束の経緯を聞き、その後のお前の言動を聞き、グレゴワールがルクレツィアの結婚相手としてお前を猛プッシュした」
「猛プッシュ、そうなんですか」
「ははは、グレゴワールにはびっくりしたよ。自分の娘ジョルジエットの結婚相手を……娘を第二夫人にしても構わないとまで言い張り、ルクレツィアの夫として勧めたのだからな」
「そうだったのですか」
「ああ、だが……初対面のバシュラール将軍までが、ロイク、お前の実力と人柄にほれ込むのを見て、私は根本から考え直し、きっぱりと決断したのだよ」
アレクサンドル陛下はそう言うと、俺の肩をぎゅ!と握ったのである。
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