第213話「ああ、ロイク様のお手を握ると温かい! ホッとします」
「し、し、失礼します。ルクレツィア様!」
という事で、俺はそ~っと、ルクレツィア様へ手を差し出し、
彼女の手を取った。
手と手が触れ合うと、何と何と何と!
驚いた事に、ルクレツィア様はきゅ!と力を入れ、俺の手を握って来た。
うお!
ルクレツィア様の細く白く、柔らかい手から、温かさをしっかり感じる。
おお!
大胆!
と思ったら、ルクレツィア様は恥じらって顔が真っ赤。
ああ、違う!
大胆じゃない。
おとなしく控えめなルクレツィア様は、俺と心の距離を縮めたくて、
無理やり勇気を……振り絞ったんだ。
と分かり、いじらしく、愛おしく思ってしまった。
「腕を組む勇気がない」とか、情けない泣き言をほざいている場合ではないぞ。
しっかりと俺がエスコートしなくては!
よし!
こういう時は開き直りだ。
「陛下、グレゴワール様、将軍。では、失礼致します。さあ! ルクレツィア様! 参りましょう!」
「は、はい!」
よく、男子は強引なぐらい、ぐいぐい引っ張って欲しいとか、ちまたでは言われる。
だが、俺は違うと思う。
相手へ気配りしながら優しくしつつ、しっかりと導いてあげるっていうのが極めて妥当だ。
『王族控え室』を出た俺とルクレツィア様。
手を取り合った俺とルクレツィア様を見て、警護の騎士はびっくり。
しかし、俺は堂々と、
「お疲れ様です! 陛下のご命令で、ルクレツィア様を『王国宰相控室』へお連れ致します」
「は! 了解致しました!」
直立不動で敬礼する騎士さん。
ここで、ルクレツィア様もフォローしてくれた。
「お勤め、ご苦労様。ロイク様のおっしゃる通りですわ。私、ロイク様と『王国宰相控室』へ参ります」
「は! 行ってらっしゃいませ!」
という事で、俺とルクレツィア様は、しっかり手を取りあって、歩いて行く。
ルクレツィア様が話しかけて来る。
また顔が赤い……
「ロイク様」
「はい」
「わ、私……英雄たるロイク様の妻にふさわしい女子でしょうか?」
うお!
手を握って来る奇襲攻撃に続いて、またいきなり直球が来たか!
でも、俺はルクレツィア様を、しっかりエスコートすると決めている。
だから切り返しは、全然大丈夫。
「ふさわしいどころか……ルクレツィア様は、自分にはもったいない方ですよ」
「そんな!」
「大丈夫ですよ、自信を持ってください。先ほど拝見したルクレツィア様の笑顔で自分は思い切り癒されました」
「わ、私の笑顔に癒された……のですか」
「はい! ルクレツィア様の笑顔で、これからもず~っと癒してください」
俺がそう言うと、ルクレツィア様はじっと俺を見て、
「……はいっ! お安い御用です! 私の笑顔で宜しければ! どんどんロイク様を癒やして差し上げますわ!」
そう言うと嬉しそうに微笑み、俺の手をぎゅ!ぎゅ!と握って来た。
おお!
何か、心の距離が縮まった気がしたぞ。
ウキウキ気分で、『王国宰相控室』へ入った俺とルクレツィア様だが、
『想定外の状況』となったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺が考えもしなかった『想定外の状況』とは……
「しばらくこの部屋は、ルクレツィア様とロイク様のおふたりになりますが、陛下のご命令なら、『王族控え室』へ参ります」
「お化粧直しへ行ったシルヴェーヌ達は、すぐ戻ると思いますよ」
グレゴワール様の秘書室長の、アルフォンス・バゼーヌさん、
第二秘書のフォスティーヌ・アルノーさんが言う通り、
……そう、俺の秘書達は改めて身支度を整える為、
化粧室へ行き、全員、不在だった。
という事で、現在『王国宰相控室』は俺とルクレツィア様のふたりきり!!!
「…………………………」
「…………………………」
長椅子に向かい合って座る、無言の俺とルクレツィア様。
開き直って勇気を出した俺も、
個室にルクレツィア様とふたりきりだと、さすがに緊張する。
……入室して5分ほど経ったが、まだシルヴェーヌさん達は戻って来ない。
「あ、あの、……ロ、ロイク様」
「は、はいっ!」
「そちらへ伺っても……」
「え?」
「ロ、ロイク様のお、お隣に座っても……よ、宜しいでしょうか?」
うおおっ!?
ルクレツィア様!!
積極的!!
と思ったが、ルクレツィア様は顔が真っ赤。
数回あった中で、一番真っ赤かもしれない。
またも、勇気を振り絞ってくれたんだ。
健気だ!
いじらしい!
当然、俺はOKする。
「ど、どうぞ。いらしてください」
「はいっ!」
元気よく返事をして、すっくと立ち、
「失礼致します」
と言い、俺の隣へ座ったルクレツィア様。
更に
「重ね重ね失礼致します。ロイク様のお手を、また握って宜しいでしょうか?」
え?
ルクレツィア様が、俺の手を握りたい!?
そんなにスキンシップしたいのだろうか……当然OKだ。
「は、はい! 俺の手なんかで宜しければ、全然OKです」
俺は先ほど同様、手を差し出した。
今度は恐る恐るではなく、すっと、ためらわずに。
すると、ルクレツィア様は、俺の手をしっかり、ぎゅぎゅ!と握り、
「ああ、ロイク様のお手を握ると温かい! ホッとします」
と言い、にっこり笑った。
そして、
「ジョルジエット、アメリーの申す通りですわ」
と言い切り、笑顔のまま、大きく頷いたのである。
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