第209話「大変申し訳ありませんが、急いでいますから、失礼しまあす」

2日後、大破壊収束の公式発表当日……

開場は午前11時だ。


いつもの通り、朝4時に起きた俺は、

リヴァロル公爵家邸で、騎士達と行う朝の訓練を休んだ。


いくらグレゴワール様へ『お任せ』のイベントとはいえ、

これは、俺が主役のイベントである。


前打ち合わせ、リハーサル等々、

朝早めに会場の王立闘技場へ入らなくてはならないからだ。

訓練に参加したら、スケジュール的にきつくなる。


具体的には、午前7時30分に王立闘技場へ来い!と言われている。

当然、シルヴェーヌさん、シャルロットさん、トリッシュさん秘書達3人も一緒だ。


そしてジョルジエット様、アメリー様もロジエ女子学園をお休みし、この公式発表に来るという。

その際、アメリー様のお父上、サニエ子爵もいらっしゃるみたい。


義理父になる人にこのようなタイミングで、初めて会うなど少し緊張する。

だが却って、俺の実力が大観衆の前で認められる今日が、

ベストなタイミングかもしれない。


サニエ子爵に関しては、愛娘のアメリー様だけでなく、グレゴワール様にもいろいろ聞いておいた。

きっと役に立つだろう。


そして、もっと緊張するのが来賓である。


アレクサンドル陛下、グレゴワール様はもうおなじみ?だから気兼ねない間柄。


フレデリク・バシュラール将軍とは初対面だったが、その場で意気投合したし、問題なし。


俺のシンパとなってくれたクリストフ・ラグランジュ財務大臣以下、閣僚の方々も、

何とかなりそうだ。


じゃあ、誰?

緊張する相手は?

って事だよね。


実は昨日から、馬車の中で考えたほど、特に想いが強くなっている。


そう!

気になる来賓は、俺の未来の嫁のひとり王女ルクレツィア様。


繰り返しになるが、彼女には素敵なファーストインプレッションを持って欲しいから、今日の出会いは、絶対に失敗は出来ない。


ジョルジエット様、アメリー様から聞いた話では……


ルクレツィア様の親友である同級生のジョルジエット様、

可愛がられている後輩のアメリー様と、3人で『将来の夢』を語り合っていたという。


どのような『将来の夢』かと言えば、

幼い頃から……話していたらしいけど。

みんなで可愛いお嫁さんになって、幸せになり、

一緒に楽しく暮らしましょう……とか。


しかし、兄という跡継ぎが居る妹の王女に生まれた宿命。


王国の駒として……

他国へ愛のない政略結婚を運命づけられたルクレツィア様にとって、

それは限りなく叶なわない、極めて可能性の低い夢。


……でも素敵な話もある。

男の俺から見たらって、勝手な話かもしれないけど。


これもジョルジエット様、アメリー様から聞いた話。


ジョルジエット様、アメリー様は、

幼馴染のルクレツィア様にも夢を叶え、幸せになって貰いたい! という強い想いから、

自分達の結婚相手の俺を、ルクレツィア様の結婚相手の『超・推しメン』にしたそうなのだ。


自分達は嫉妬の『しの字』も見せなかったって。

すっごいな!


「ルクレツィア様へは、裏表がなく、誠意があって、女子に凄く優しいロイク様の魅力をた~くさん話しておきました」

「はい、私もジョルジエット様と同じく、ロイク様の人柄、強さ、賢さ、懐の広さに深さ、全て兼ね備えた完璧な殿方だと、ルクレツィア様へたっぷりお伝えしておきましたよ」


ああ、ここまで応援されたら、やらなきゃ、男じゃない!


ジョルジエット様、アメリー様同様、秘書達同様、

ルクレツィア様の為にも頑張って、愛し愛されつつ、幸せになる!


俺は改めて決意していたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


という事で、指定の時間より早め、午前7時少し過ぎに、

俺は秘書達3人と一緒に、会場の王立闘技場へ入った。


当然、警備は、最上級の厳重ぶりである。


こういう時、王国執行官の身分証明書が役に立った。


そして先日行った、『3万人握手会』は更に役に立ったのである。


さすがに3万人全員ではないだろうが、握手会に参加した騎士、兵士が相当数、

本日の公式発表、警備担当者の中に居たのだ。


誰もが、俺と秘書達の身分証明書をしっかりチェックするものの……

握手をした俺の顔をはっきり憶えていて、またもガンガン握手を求めて来る。


「おお! ロイク様だあ! 握手してください!」


「大破壊を収束させた! 我らが英雄だ! ロイク様! 握手してください!」


「ロイク様! どうぞ! お気を付けてお通りくださいっ!」


「勇者宣言をされるのですかあっ! ロイク様!」


騎士兵士が警備する検問は10か所ほどあり、

その都度「わあわあ」と、結構な騒ぎとなったが……


「大変申し訳ありませんが、急いでいますから、失礼しまあす」


俺は毎回軽く笑顔で一礼、軽くいなし……

無事、秘書達とともに、

グレゴワール様の居る『運営本部』へたどり着いたのである。

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