第210話「良く知った気配を感じ、表が騒がしくなったと思ったら……」

大破壊収束の公式発表当日。

王立闘技場。


俺は毎回軽く笑顔で一礼、軽くいなし……

無事、秘書達とともに、

グレゴワール様の居る『運営本部』へたどり着いた。


運営本部に使用しているのは、

闘技場の最奥、競技の開催時は『運営組織』が入っているいくつかの部屋だ。


さすが王国宰相が居る運営本部。


今まで歩いて来た通路同様、ここも警護の騎士でいっぱいである。


俺はちらっとある一画を見た。


警護の騎士こそ数人立っているが……

まだひと気のない、『王族控え室』というプレートのかかった部屋。

王立闘技場、最奥一番豪奢な部屋。


この部屋へ、後ほどアレクサンドル陛下がいらっしゃる。


午前9時前後に到着という予定だと、グレゴワール様からは聞いた。


『王族控え室』のついた部屋を横目に見て、

俺と秘書達は、すぐ脇にあるグレゴワール様が詰める『王国宰相控室』へ。


ちなみに俺の控室はない。


この『王国宰相控室』へ、出番まで詰める事となっている。


さてさて!


ここもそのままでは入れない。


5名ほど居る警護騎士達の念入りなチェックをクリアし、室内へ入ると……

グレゴワール様とバシュラール将軍が、四角いテーブル席で進行の打合せをしていた。


見やれば、テーブル席の上には大量の書類が置かれ、数枚は広げられていた。


ふたりの傍らには、秘書室長の、アルフォンス・バゼーヌさん、

第二秘書のフォスティーヌ・アルノーさんが立っている。


秘書さん達は更に何か書類や原稿を持っていた。

ふたりとも、グレゴワール様の補助役という事か。


たとえ何があっても。

最低、あいさつだけは元気に!


俺はいつものスタンス通り、声を張り上げる。


「おはようございます! お疲れ様です!」


「「「おはようございます! お疲れ様です!」」」


俺と秘書達が大きな声であいさつをすれば、


「うむ、おはよう!」

「ああ、おはよう!」


と同じくらい大きな声で返事が戻って来た。


そしてグレゴワール様の秘書ふたりからも、釣られるように大きな声で。


「「おはようございます! お疲れ様です!」」


あいさつがあったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『王国宰相控室』の中には、グレゴワール様とバシュラール将軍、秘書さんふたりが居た。


でも、この状況。

普通は、微妙だと思うよ。


上司たる宰相、そして格上の将軍の後から、のこのこと現場へ来る。


前世なら、いわゆる掟破りの偉そうな『重役』出勤。


普通はありえない。


まあ、これにはちゃんと理由がある。


グレゴワール様から、宰相の自分と常に一緒に行動し、ベタベタだと、

コバンザメの手下みたいに見える、

国王陛下直属の執行官カラーが薄まりマイナスイメージだと、言われたのだ。


う~む。

いまいち分からない。

結局はジョルジエット様と結婚し、

俺はグレゴワール様の義理の息子になるから、一緒だとは思うけど。


けれど、いろいろ事情があると推測、

ここは従う事にして、俺は頭を下げて言う。


「おふたりの後から、俺が偉そうに来るような形で、申し訳ありません」


ここでまた、

お前は何故、理由もなく頭を下げる?

俺なら絶対嫌だ!

とか言われそうだけど、俺は全然平気。


営業をしていた時、こういう事はよくあった。


くそつまらないプライドなんて、俺にはないし、

こういう気配りは、結構大事だと思うから。


対して、グレゴワール様は「分かってる」という表情で柔らかく微笑み、


「構わん。私は元々そう指示しただろう? 後から指定した時間に堂々と来いと」


「は、はい」


「ロイク君は、本日の主役なんだ。謙虚なのは大事だが、卑屈にはならず、泰然自若としていればいい。それが君自身の価値を上げる」


そう、グレゴワール様のおっしゃる通り、大破壊収束の公式発表は俺が主役を張る。


闘技場へ参集した数多の王国民の前で、アレクサンドル陛下、グレゴワール様、

そしてバシュラール将軍から認められ、称えられ、推される形で紹介されるのだ。


そして爵位を授与され、いきなり伯爵となる。


また表にこそ出ないものの、俺のシンパとなったラグランジュ財務大臣も、

全面的に支援してくれるというから心強い。


「分かりました」


「うむ、我々は大破壊を収束させた英雄である君を盛り立てる。それが本日の主旨だ。その為にはあらゆる手を尽くす。本日に限っては、英雄の君が、私達の後に来るなど、当然。どうという事はない」


バシュラール将軍も笑顔だ。


「宰相閣下のおっしゃる通りだ。今後は年上の先輩として気遣って欲しいが、今日はは別だ。英雄として、余裕のある態度でいてくれ」


「分かりました」


「ロイク君は己の手柄を全く誇らず、私や騎士、兵士を気遣い、メンツを大事にし、守ってくれた。今度は私が君を盛り立てる番さ」


将軍がここまで好意的なのは、先日意気投合しただけではないと、

グレゴワール様が教えてくれた。


俺が丸一日寝ていた日に、

グレゴワール様とバシュラール将軍は、じっくりと話し込んだらしい。


その際、俺の話題が出たという。


グレゴワール様はジョルジエット様、アメリー様救出時に作成した、

俺についての調査書を基に、バシュラール将軍へ話したようだ。


話を聞き、バシュラール将軍は両親と死に別れ、孤児となり、

ダークサイドな雑貨屋で働いていた俺の経歴に深く同情。


続いて、山賊退治、ジョルジエット様、アメリー様救出、ルナール商会の依頼の完遂、トレゾール公地の竜退治という俺の武勇伝。

そして今回の大破壊収束の経緯、全てを改めて詳しく聞き、大いに惚れ込んでくれたみたい。


という事で……


ここから、2時間ほど、アレクサンドル陛下がご到着されるまで、

秘書達にフォローして貰いながら、俺、グレゴワール様とバシュラール将軍、

3人で『打合せ』を行う。


打合せの内容はまあ、進行の確認、

闘技場フィールドへ置く、オーガキング以下、死骸のセッティングに関してである。


そんなこんなで、2時間が経過、時間は午前9時。


良く知った気配を感じ、表が騒がしくなったと思ったら……


ここで警護の騎士から、はかったように、


「ただいま、国王アレクサンドル・ファルコ陛下、ルクレツィア王女様が、ご到着となりました!」


と大きな声で、報告があったのである。

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