第207話「気立ての優しいシャルロットさんだが、 大手商会の血筋を受け継ぐ者として、 生粋の商人たる、冷静沈着でしたたかな面もある」

冒険者ギルドの話題で盛り上がっているところで、


「はい!」とシャルロットさんが手を挙げた。


挙手をしたシャルロットさんは、目がキラキラしている。

何か、言いたい事があるらしい。


「お祖父様! いえ、会頭!」


「うむ、何だね、シャルロット、いや、シャルロット・ルナール」


「はい、わたくしから、会頭と理事へ、申し上げたい事がございますわ」


シャルロットさんは俺へ向き直る。


「ロイク様、先ほど冒険者ギルド、ギルドマスター、テオドール・クラヴリー様からお話しのあったロイク様の新たな役職の件と待遇面の事等々を、会頭へお話しして宜しいでしょうか?」


ああ、俺の最高顧問就任もろもろの件か。


マスターのテオドールさん曰はく、

本日中に冒険者ギルドには周知され、外部へも公開されるらしい。

だから問題ないだろう。


まあ念の為、短期のかん口令はしいておこう。

冒険者ギルド担当のトリッシュさんにも確認を取って。


「ああ、一応今日中は口外禁止で、ここだけの話という事ならば、問題ないと思う。そうだな、トリッシュさん」


「はあい、今日中は内緒ですですっ」


トリッシュさんも同意してくれた。

シルヴェーヌさんも同じくと頷いている。


そんな様子を見て、笑顔のシャルロットさん。


「分かりました。では今日中は、ここだけの話という事で」


俺の新たな役職の件と待遇面の事等々という事で、セドリックさん、オーバンさんも興味津々というところ。


身を乗り出して、シャルロットさんが話すのを待っていた。


軽く息を吐いたシャルロットさんが口を開く。


「会頭! 理事! では単刀直入に申し上げます。昨日行われた冒険者ギルドの幹部会議において全員一致で賛成、結果、ロイク様はご昇格され、顧問から最高顧問におなりになりました」


「おお、オーバンよ、ロイク様が最高顧問にご昇格か」

「はい、会頭。最高というからには、凄そうですね」


「ええ、冒険者ギルドにおいて、最高顧問は顧問同様に名誉職らしいのですが、ロイク様のお立場はギルドマスターに準ずる地位という事です。条件面はギャランティは大幅アップ。今まで通り、自由出勤で義務ノルマ等はなく、幹部会議の参加も任意だそうです」


「おお、ロイク様のお立場はギルドマスターに準ずる地位ですか」

「仕事内容はそのままで、ギャランティは大幅アップ。成る程、至れり尽くせりですね」


「はい、至れり尽くせりも納得ですわ。竜10体の退治に続き、今回は5千体のオーガを討伐しての大破壊収束ですから。ロイク様の実力は勿論、ネームバリューを考えての、最高顧問ご昇格だと思われます」


「う~む」

「確かに」


「加えて何と! ロイク様には、まず王国執行官、次に当商会の仕事を優先して構わないと、ギルドマスターはおっしゃられました」


「ううむ、それは!」

「おお! そうなのですか」


「更に加えて何と何と! 驚く事に! ロイク様は亡くなるまで終身雇用、最高顧問だとの事です」 


「おおお! な、亡くなるまで? 雇用!?」

「ほ、本当ですか!?」


そんなこんなで、シャルロットさんの話は続き、


「……つきまして! 今後の事を考えれば! ロイク様に対し、冒険者ギルドに負けないよう、当商会も何らかの対応をしないといけない! 私はそう思いますわ!」


最後は、きっぱりと言い切ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


シャルロットさん、最後は何か、前世のプレゼンテーションのようになったが、


「ううむ、冒険者ギルドはそこまで……それも幹部がギルドマスター以下、全員一致で賛成ですか」


「お話を聞けば、テオドール・クラヴリー様も、ロイク様を大層お気に入りのご様子。会頭! うかうかしてはいられませんぞ!」


冒険者ギルドと横並びにした方が良いとか、

問題提起になったのか、その両方になったのか、分からないが、

セドリックさん、オーバンさん、悩めるように顔を見合わせて話している。


ここでシャルロットさんが、冒険者ギルドの件を話したのは、

自身が跡を継ぎ、俺に支えて貰うであろうルナール商会経営を考えての事。


冒険者ギルド同様、俺のネームバリューを使い、知名度アップと売り上げ&利益に結び付ける。

当然、依頼を完遂したように、今後も俺による各地の問題解決もはかる。


そんな彼女の意図は明らかだ。


更に言えば、シャルロットさんは俺の嫁のひとりとして、

夫の地位アップと収入増を狙って、この『プレゼンテーション』を行った。


その推測は、多分当たっていると思う。


「会頭! 理事! この場で拙速にお決めになる事はありません。じっくりとお考えになり、答えを出すべきだと思いますわ」


普段はお嬢様然として、ほんわかして気立ての優しいシャルロットさんだが、

大手商会の血筋を受け継ぐ者として、

生粋の商人たる、冷静沈着でしたたかな面もある。


柔らかく微笑むシャルロットさんを見て、「頼もしい!」

俺はそう実感したのである。

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