第206話「いやいや、こういう時の「気配りが大事なのだ」と、 俺は前世の営業経験で学んでいる」
オーバンさんの言う通り、
開いた扉の向こう、豪奢な会頭専用応接室の中には、
長椅子から立ち上がったセドリック会頭が、満面の笑みを浮かべていた。
「おお! ロイク様! 未曽有の災厄、大破壊を単身で収束させるとは! やはり貴方は私が見込んだ通りの人だ。孫娘シャルロットの夫君は貴方以外には居ない!」
そんな『祖父』の言葉を聞き、驚いたのはシャルロットさん。
恥ずかしくもあったのだろう、真っ赤になっていた。
「も、もう! お
「ははははは! すまん、すまん、シャルロット。つい気持ちが早ってしまってな」
セドリックさんは苦笑し、
「失礼致しました! ロイク様! 皆様方! ようこそ、我が、ルナール商会へ! ささ! どうぞ、こちらへおかけください!」
セドリックさんは、俺と秘書達を、対面の長椅子へ誘う。
「失礼致します」
俺は一礼し、先にシルヴェーヌさんを入れ、セドリックさんの対面に、その後にシャルロットさん、トリッシュさんを座らせた。
オーバンさんは、傍らに置かれた別の椅子に座った。
ここで……こんこんこん。
応接室の扉がノックされた。
ひと呼吸置いて扉が開く。
うんうんと、頷くオーバンさんが、事前に指示しておいたのだろう。
先ほど案内してくれた社員さんがふたり、ポットをひとつとカップを6つ持って来た。
テーブルへ、ポットとカップを置いた社員さん達はそっと退出し……
これで、話をする態勢は整った。
孫娘のシャルロットさんから、たしなめられたセドリックさんは高笑い。
「ははははは! 改めまして! ロイク様! この度はお疲れさまでした! 貴方様のお力で、未曾有の災厄、大破壊は収束したのです!」
「いえ、自分はやれる事をやっただけで、いろいろな事が上手く行って、運も良かったのですよ」
「いえいえ! ご謙遜を! こうなると、ロイク様に顧問を務めて頂いている当商会にも大いに箔がつくというものです。大変喜ばしい」
冒険者ギルドがトレゾール公地の竜退治で盛り上がったように、
ルナール商会では、俺が故郷シュエット村を出て、王都へ来る途中の山賊退治から始まった。
街道で、いきなり山賊どもが数多出現。
俺が40人を倒した話だ。
そんなに時間が経っていないのに、凄く懐かしいなあ……
俺とオーバンさんという『当事者』が居るので、
山賊の襲撃、討伐話はひどくリアルで、臨場感がある。
更に話は、俺がルナール商会から依頼され、完遂した案件へ……
王都から南方100㎞の町ジェム鉱山へ重要書類の配達。
折り返し、鉱山より上質の宝石100個を王都のルナール商会へ運搬。
……500体のゴブリン退治と社員の救出。
王都郊外15kmの位置にあるルナール商会経営の農園、ルナール・ファームの警備。
……盗賊団と使われたオーガの捕縛。
王都郊外10kmの位置にあるルナール商会経営の牧場、ルナール・ラァンチュの警備。
……ゴブリン2,000体、オーク1,000体を討伐。
冒険者ギルドにおいて、テオドールさんと話した時のように、
『場』はとても盛り上がったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
話に夢中となってのどが渇いた。
ルナール商会は、俺の秘書で未来の嫁のひとり、セドリック会頭孫娘シャルロットさんのテリトリー。
ポットの紅茶が空っぽになりつつあるのを確認したシャルロットさん。
セドリックさん、オーバンさんに了承を得て、魔導通話機で社員さんへお代わりをお願いした。
この間が、頃合いとみたのか、セドリックさんが尋ねて来る。
「そういえば、皆様は午前中、冒険者ギルドへ行かれていたのですね。どうでした、ギルドの様子は?」
ここは、俺が答えた方が良いだろう。
「はい、ギルドマスターの、テオドールさんとお会いして、いろいろとお話し、昼食も共にしました」
「ほうほう、それはそれは、よろしゅうございましたなあ」
「はい。グレゴワール様からもご連絡が行きましたが、自分からも、大破壊発生の際に、王国から出した、ギルドランカー緊急出動、要請中止のお詫びをしましたよ」
うん、騎士隊、王国軍の増援という事で、冒険者ギルドへもランカー限定で、
国境へ向け、オーガ5千体討伐軍の後詰という事で、緊急出動の命令が出ていた。
俺がケルベロスと協力し、オーガ5千体を全て倒したから、
騎士隊、王国軍同様に、グレゴワール様からギルドへも急ぎ出撃中止の連絡を入れ、
理由を告げ、テオドールさんへお詫びした次第なのだ。
その理由となった俺も、今回はお手数をかけました。
と、テオドールさんへ別途、伝えたのである。
え?
お前は悪くない、そして関係ないのに、何故謝るんだって?
いやいや、こういう時の「気配りが大事なのだ」と、
俺は前世の営業経験で学んでいる。
そういった俺の意図を生粋の商人であるセドリックさん、オーバンさんはすぐ察し、
「うんうん」と納得して頷いている。
セドリックさんは言う。
「おお! ロイク様。さすがのお気遣いですね。それでもマスターの機嫌は、たいそう良ろしかったでしょう?」
「はあ、それはもう。どうという事はない、大破壊が収束して良かったと、凄く喜ばれていましたね」
ここで「はい!」とシャルロットさんが手を挙げたのである。
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