第193話「起き掛けに、美しい女子の笑顔を見るのはいいものだ」
俺は本館へ、「どなどな」され、とりあえず大広間へ。
左わきへくっついたジョルジエット様からは、甘い声で再び新妻攻撃、
「ロイク様あ! お風呂、お食事、ご就寝のお支度、いずれも準備が出来ておりますよお。ご遠慮なく、ご希望をおっしゃってくださいませ!」
続いて、右わきへくっつき、目をうるうるさせたアメリー様も、
「未来の旦那様であるロイク様のご希望通りに致しますわっ! おっしゃってくださいませませっ!」
ええっと……このままだと意志薄弱な俺は、新妻攻撃に流されそうだ。
ここは、はっきりと、素直に希望を言おう。
「じゃあ、最初にお風呂へ行ってさっぱりし、次に食事で、お茶して、最後に寝ま~す」
すると、ジョルジエット様が、
「はいっ! まずはお風呂ですねっ! かしこまりましたっ! では! 私達女子も一緒に入りますわっ! そして! ロイク様の背中を流してさしあげますっ!」
はあ!?
風呂へ一緒に!?
何それえ!?
「いやいや、それは、まだ、さすがにダメでっす」
と、丁重にお断りした俺。
使用人の手伝いもお断りした。
ちなみにステディ・リインカネーションの世界の貴族家は、
使用人に身体を洗わせる者も居るみたい。
という事で、使用人に案内だけされ、俺は「ひとり」で風呂へ入った。
用意して貰ったのは、リヴァロル公爵邸の巨大な岩風呂。
シャワーを浴び、身体を洗った後、岩風呂へ。
手足を伸ばしてゆったりと入る。
ここは、初めて入る風呂だけど……すっげえ。
何か、風の魔法でジェットバスみたいになってるよ。
あ~。
泡が気持ちい~。
お湯も適温で気持ちい~。
疲れが抜ける。
生き返る。
これで飯食ったら、すぐ眠くなりそうだな。
風呂から上がったら、普段着のブリオーに着替えて、大広間へ。
俺が風呂へ入っている間に、大広間はテーブルが並べられ、
食事の準備が出来ていた。
いつもの通り、俺はナンバー2の席へ座らされた。
ナンバーワン、公爵家当主の席。
王宮でいまだ仕事中であるグレゴワール様の席は、当然空席だ。
ナンバー2の席へ座った俺の左わきへ、すすすっと座るジョルジエット様。
右わきに同じく座るアメリー様。
周囲をシルヴェーヌさん、シャルロットさん、トリッシュさん達秘書が囲んだ。
ジョルジエット様、アメリー様、お約束の「あ~ん」攻撃は勿論、
秘書達3人も、自分の食事は二の次で、料理や飲み物を取ってくれたり、
空いた皿を下げたりして、かいがいしく働いてくれた。
ああ、至れり尽くせりだ。
「リア充爆発しろ!」という声が何回か聞こえた気がしたが、
気のせいだと思い……スルーしよう。
やがて食事が終わり……まったりとお茶の時間。
話をする頃合いだろう。
グレゴワール様から許可を貰っているから、俺は改めて全員へ、
「ブルデュー辺境伯と配下はほぼ無事、住民は避難済み、オーガ全てを討伐、大破壊収束、騎士兵士3万人出撃中止」
を簡潔に告げた。
話を聞いた全員が、明るく安堵の表情となった。
全員の嬉しそうな笑顔を見た俺もホッとしたのかもしれない。
俺は徹夜明け、風呂上がりのせいもあって、ひどく眠くなり……
秘書達とともに、本館を出て、別棟へ引き上げ、寝室へイン。
深い眠りについたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
…………徹夜明けの俺は、丸一日眠っていたらしい。
寝ぼけまなこで起床し、目を細めて日付機能もある魔導時計を見ると……
翌日の夕方であった。
寝室の枕元にある魔導ベルで呼ぶと、
すぐにシルヴェーヌさん、シャルロットさん、トリッシュさんがやって来た。
聞けば、本日は各自が出勤せず、この別棟で事務仕事をしながら、
眠り込んだ俺の様子を見ていてくれたらしい。
秘書3人は俺の顔を見て、柔らかく微笑む。
起き掛けに、美しい女子の笑顔を見るのはいいものだ。
「おはようございます」
「おはようございます」
「おはようございます」
「おはよう。もう夕方だけどね」
というと、秘書3人は、面白そうに笑った。
微笑みながら、シルヴェーヌさんが言う。
「良くお眠りになりましたね。疲れはとれましたか?」
「ああ、もう大丈夫だ」
「そうですか! 本当に良かったです。では、ロイク様へご伝言を申し上げます」
「伝言?」
「はい、王宮からお戻りになった公爵閣下が、本館の書斎でお待ちになっております。ロイク様が起床され、お話が出来るようでしたら、お伝えしたいお話があるので、お連れするようにと、伝言を託されておりました」
グレゴワール様が俺へ話?
う~ん、何だろ?
心当たりがいくつかあるし。
予想もつくけど、ここは話を聞きに行った方が良いだろう。
「分かった! 支度をして、すぐ本館へ行くよ」
頷いた俺は、シルヴェーヌさんへ了解の返事をしたのである。
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