第192話「熱い眼差しで、『結婚したての新妻』のようにのたまったジョルジエット様」

前世で『なりわい』としていた、心配し過ぎるくらい、

各所へ気を遣う営業職の影響だろうか……


俺がオーガを全滅させた事で将軍の立場はどうなる? とか、 

拍子抜けしそうな騎士、兵士の気持ちは? とか、懸念していた出撃中止命令。


しかし……

最後は「のりのり」となった、バシュラール将軍の『名演説』もあって、

何とか、無事に治める事が出来た。


その後、バシュラール将軍からは、今回出撃予定の騎士、兵士達へ交代制3日間の休暇、更に少額ながら現金の手当が給付される事も告げられた。

彼ら彼女達から、再び大歓声が湧きあがったのはいうまでもない。


ちなみに、給付金等の原資は、アレクサンドル陛下と相談の上、

俺から王家へ贈呈した事になった、

トレゾール公地で討伐した竜の売却金で賄うという。


うん!

グレゴワール様は、やっぱり、しっかりしている。


そして、討伐軍の遠征費用の計上金から、俺が討伐したオーガの売却金も合わせ、

ブルデュー辺境伯家と避難民達への義援金をねん出するそうだ。


王国にとっては、結構な出費となったが……

大破壊がもたらすとんでもない被害に比べれば、ほんのわずかな出費で済んだと、

王国の財務大臣も、俺に感謝したと、後でグレゴワール様から聞いた。


そして俺は、単身でオークキング以下オーガ5千体を討伐した稀代の英雄として、

騎士、兵士達から大いに称えられた。

彼ら彼女達から、たっての希望という事で、

何と何と! どこぞのアイドルのように『握手会』が開かれたのだ。


常人では、3万人との『握手会』は、半端ないと思う。

3万人と握手したら、手がパンパンになってしまうかも。


幸い俺は、防御力につながるVIT:バイタリティーは最大値の10,000《MAX》

『俊敏さ』だけでなく、『頑丈さ』もばっちりだ。


……そんなこんなで粛々と行われた『握手会』も無事終了。


ひょんな事から、成り行きで、このような事となった。

だが、却って好都合だとも考えた。


何故なら、この『握手会』は、現在進行中の企画、

俺の就任お披露目イベントとの良き『相乗効果』となるから。


そう、数多の王国民が押しかける王立闘技場で行われるトーナメント、

『ファルコ王国王家主催武術大会』実施に向け、

王国執行官ロイク・アルシェの効果的な事前アピールが出来たって感じだ。


やれやれ。

これで、今回の俺の仕事も終わり。

さすがに眠いし、少し疲れた。


グレゴワール様が笑顔で言う。


「ロイク君、ご苦労様。後は、我々に任せてくれたまえ」


「はい、グレゴワール様」


アレクサンドル陛下とバシュラール将軍からも慰労される。


今回の一件で連帯感が生まれ、おふたりとは、とても近しくなったと感じる。

グレゴワール様と親しくなり始めた時と同じだ。


「ロイクよ、本当によくやってくれた。ゆっくり休んでくれ」

「ロイク君、お疲れ様。休んだら、改めてゆっくり話そうな」


そしてグレゴワール様が、


「私の屋敷へ帰って、ゆっくりと休むがいい。何か希望があれば、本館家令のセバスチャン、別棟家令のデルフィーヌへ、それぞれ何でも申し付けてくれよ」


俺へ慈愛の眼差しを送って来る、グレゴワール様から帰宅の許可が出た。


「皆様、本当にお疲れ様でした。じゃあ、お先に失礼しまっす」


深く一礼した俺は、グレゴワール様が用意してくれた馬車に乗った。


そしてリヴァロル公爵家邸へ、帰還の途に就いたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


……王宮を出てからしばし走り、リヴァロル公爵邸へ到着。


正門の詰め所の護衛騎士が、俺の本人確認をし、

大きく声を張り上げる。


護衛騎士は既に、大破壊収束の連絡を受けているらしく、満面の笑みだ。


「ロイク・アルシェ様あ!! ご帰還んん!!」


正門が大きく開かれ……

馬車は、リヴァロル公爵邸内へイン。


がたごとがたと、ゆっくりと邸内を走る馬車。


本館玄関前に停められた。


と、同時に。


本館、別棟から、大勢の男女が出て来て、馬車の前に整列した。


その大勢の男女の中には、

本館から、ジョルジエット様、アメリー様、

ふたりの護衛の女子騎士、アンヌさん、ジュリーさん。

警護主任騎士、バジル・オーリクさんと配下の騎士達。

本館家令のセバスチャンさんと使用人達。


別棟からは秘書の3人、

シルヴェーヌさん、シャルロットさん、トリッシュさん。

別棟家令のデルフィーヌさんと使用人達。


めぼしい人は全員、お出迎えをしてくれていた。

大破壊収束の報も、改めて伝えられたらしく、全員が晴れやかな笑顔である。


俺が馬車から降りると……


ジョルジエット様、アメリー様が「ずいっ」と、勢いよく前に出た。

その後に、シルヴェーヌさん、シャルロットさん、トリッシュさんが続いて出た。


何だか、女子5人の息がぴったりと合っている。

ええと、これって……


更にジョルジエット様は前に出て、声を張り上げる。


「お帰りなさいませ! お疲れ様でございました! ロイク様!」


「「「「「お帰りなさいませ! お疲れ様でございました! ロイク様!」」」」


続いてアメリー様以下、4人の女子も唱和した。


ここで全員が大合唱。


「「「「「お帰りなさいませ! お疲れ様でございました! ロイク様!」」」」


……唱和が終わると、再びジョルジエット様が言う。


「ロイク様! お風呂、お食事、ご就寝のお支度、いずれも準備が出来ております。ご遠慮なく、ご希望をおっしゃてくださいませ! さあ、中へ!」


「大好き!」という波動をガンガン飛ばし、

熱い眼差しで、『結婚したての新妻』のようにのたまったジョルジエット様が、

ぴたっと俺の左わきへ、くっつくと、続いてアメリー様が右わきへくっつき……


更にシルヴェーヌさん、シャルロットさん、トリッシュさんの秘書3人が

びしっ! と前後を固め、俺は本館へ、「どなどな」されたのである。

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