第189話「ブルデュー辺境伯と交わした約束を守らなければ!」

「相談の上、陛下も私もロイクの提案に賛成した」


グレゴワール様はそう言うと、無言となったバシュラール将軍をじっと見つめた。


「…………………」


「まあ、真実はこれから明らかになるが……私はな、将軍。ロイクを信じるよ」


グレゴワール様は言うが、バシュラール将軍は、やはり無言である。


「…………………」


微笑んだグレゴワール様は、話を続ける。


「何故なら、私は彼と直接戦い、その強さを実感しておる。そしてトレゾール公地で倒したドラゴンの死骸もこの目で見た。それゆえロイクが単身でオーガを5千体倒した事を信じるのだよ」


「…………………」


「将軍、現在の状況をかんがみて、君がロイクの提案以外に、よりよく対処可能な方法があるのなら、遠慮なく提案したまえ。陛下と私は公平に聞こう」


「…………………」


「さあ、どうだね、将軍」


グレゴワール様に促され……

バシュラール将軍は、口ごもりながら答える。


「……は、はい、宰相。ロイク殿が、オーガ5千体を倒したという前提であれば、私に代案は思いつきません」


「うむ、そうか」


「はい、今、お話をお聞きしながら考え、実感致しました。陛下と宰相がおっしゃる通り、ロイク殿がご自身の栄光より、私と部下達の名誉と誇りを重んじて頂いた事に感謝したいと思います」


「うむ、良くぞ、理解し、申してくれた。将軍、陛下と私は日頃の忠勤を思し召し、君の立場を重んじよう」


「あ、ありがたき幸せ! 陛下! 宰相! ありがとうございます!」


ここで俺も、バシュラール将軍へ言う。


「将軍! 自分は! 目の前で惨劇が起こるのが耐え切れず、命令違反を犯しました。本当に申し訳ありません!」


「ははは、何を言う。ロイク殿。先ほど君と同じ立場なら、私も戦うと言っただろう?」


「将軍……」


「陛下と宰相のおっしゃる通りだ。君は往復2,000㎞の距離を不眠で走破。単身で5千体ものオーガを倒し、ブルデュー辺境伯以下2,000名を救い、大破壊を収束させた。とんでもない大功だよ。大いに誇って良い。私もそう思う!」


「おお、将軍! 良くぞ申した!」


「はい、宰相! では早速、部下達へ話を致します!」


「うむ! では段取りを相談しよう。現在、騎士、兵士3万人全員が待機の為、闘技場のフィールドで野営をしているな」


「です!」


「うむ、まずは全員へロイクの謝罪を伝える。そして将軍、君がロイクを叱りながらも、優しく慰労の言葉をかける」


「はい!」


「そして論より証拠! 彼らへ、ロイクが討ったオーガどもの死骸を数多見せ、討伐完了と大破壊収束を告げ、出撃中止の命令を発するのだ!」


グレゴワール様の言葉を受け、


「はは! かしこまりましたっ!」


バシュラール将軍は、立ち上がり、直立不動で、びしっ!と敬礼をしたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


勇猛果敢だが、慎重で几帳面な性格でもある。

前世の俺ケン・アキヤマがアバター、アラン・モーリアだった頃、

接した事のあるフレデリク・バシュラール将軍は、そんな人だった。


リアルな現実世界『ステディ・リインカネーション』でも同じであった。


バシュラール将軍は、出撃中止命令を発するまでの段取りを、もう一度『おさらい』したのだ。


セリフの言い方、タイミング。

シミュレーションしてみると、結構難しかった。


『おさらい』して良かった!


それが幸いしたというか……

将軍だけでなく、陛下もグレゴワール様も俺も、一緒に同じ事をやるという事で、

一体感を、そしてシンパシーも覚えたのだ。


「万全を期して、もう一回やりませんか? 大破壊収束という、おめでたい話ですし」


俺の提案に対し、3人は文句なく賛成。

もう1回、『おさらい』を行った。


この『おさらい』は、無事終了。


ここで俺が「はい!」と挙手。

ブルデュー辺境伯と交わした約束を守らなければ!


「今回自分が討伐したオーガの死骸ですが、騎士、兵士、そして王国民へ一般公開した後、売却し、売却益は、ブルデュー辺境伯家と避難民達の義援金に使って頂きたいのです。いかがでしょうか?」


オーガの死骸は、2次利用される。

食用にはならないが、皮は鎧などに加工され、高値が付くのだ。


俺の提案を聞き、3人は大いに驚いた。


「おお、ロイク! 何という……」

「ロイク! お前は……」

「びっくりしたぞ、ロイク殿!」


「そして、差し出がましいですが、今回の出撃準備をした騎士、兵士達にもケアをお願い出来ればと思います」


続いて告げたそんな俺の言葉を聞き、


「うむ、分かったぞ、ロイク!」

「善処しよう! 陛下とご相談する!」

「私に出来る事なら、何でもしよう!」


アレクサンドル陛下、グレゴワール様、バシュラール将軍は皆、笑顔で、

大きく頷いていたのである。

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