第188話「想像するんだ、将軍」
論より証拠。
俺が収納の腕輪へ、討伐したオーガを仕舞ってあるのを披露する。
まあ、見れば納得はするだろう。
「その前に……将軍、君に伝えておきたい事がある」
グレゴワール様はそう言うと、バシュラール将軍をまっすぐ見据えた。
「え? 宰相。私へ伝えておきたい事」
「そうだ。私はな、人間には想像力が必要だと思っている」
ここで突発的に出た言葉……想像力。
バシュラール将軍は、戸惑うばかり。
「想像力? 宰相、いきなり何ですか? 一体何をおっしゃっているのでしょう?」
将軍が戸惑うのは当然かもしれない。
グレゴワール様は、更に言う。
「まあ、聞け、将軍。人の上に立つ者は特に想像力が必要なのだ」
「???」
「はっきり言うぞ、将軍。君は想像力が無さすぎる」
「わ、私に想像力が無さすぎる? 宰相! ど、どういう意味ですか?」
「文字通り、至極簡単、シンプルな事さ。将軍、オーガ討伐が事実かどうか追及するだけでなく、自分自身に置き換えて、ロイクの事を想像してみたまえ。何故君は、オーガと戦い抜いたロイクを労わろうとしない?」
「…………………」
「将軍! もし君がロイクの立場だったらどうする?」
「私がロイク殿の立場だったら……」
「ロイクはな、徹夜で1,000㎞の距離を走破したのだぞ! そして! 到着したボドワン・ブルデュー辺境伯の居城を取り囲むオーガども5千体が、正門を打ち壊し、突入しようとしているのを目の当たりにしたのだ!」
「…………………」
「想像するんだ、将軍。もしも君がロイクなら、その光景を見てどうしていたかね? オーガどもが辺境伯達を襲い、殺して貪り喰らうのを放置し、仕方ないと見捨てるのかね? 騎士としてどうだ?」
「そ、それは! 騎士として、私は絶対に戦います! たとえ命令違反を犯しても、窮地に陥った同胞を見捨てたりなど決して出来ません!」
「そうだろう? 騎士とは、忠誠、公正、勇気、武芸、慈愛、寛容、礼節、奉仕の8つの徳目……騎士道を貫く者だ。ロイクは騎士ではない平民だが、自身を投げうち、立派に騎士道を貫いたのだ」
「…………………」
「改めて言おう。王国執行官ロイク・アルシェは、往復2,000㎞の距離を不眠で走破。単身で5千体ものオーガを倒し、ブルデュー辺境伯以下2,000名を救い、大破壊を収束させた。とんでもない大功だ。大いに誇って良い。私はそう思う。そうでしょう? 陛下」
グレゴワール様はバシュラール将軍へ言いつつ、アレクサンドル陛下へも問いかけた。
対して、大きく頷き同意するアレクサンドル陛下。
「ああ! グレゴワール! お前の言う通りだ! 私直属の王国執行官として誇らしい限りだ! ロイクには何でも好きなものを取らせても良いくらいだと思う」
トップの国王陛下とナンバーツーの宰相からそう言われたら、バシュラール将軍は何も言えない。
「…………………」
グレゴワール様は、バシュラール将軍へ向き直る。
「しかし、ロイクがまっさきに想像し、考えたのは、大功を為しえた自分の事ではない! 将軍! 君と騎士、兵士達の事だったのだ」
「え!? ロイク殿がまっさきに想像し、考えたのは、私と騎士、兵士の事!?」
「ああ! ロイクはな、王国の為、命を懸け、1,000㎞先の国境に向かう事を決意した君と部下達の決意と覚悟を思いやり、少しでも早く王都へ戻り、オーガ討伐の事実を伝えたいと考えたのだ」
「な、何故!?」
「おいおい、分からないのか? 将軍! 君と部下達の名誉と誇りを守る為だ!」
「え!? 私と部下達の名誉と誇りを守る為!?」
「そうだ! いかに辺境伯達を救う為とはいえ、自分が命令違反を犯し、単身戦ってしまった事情を何とか出撃前に戻り、話す事で将軍! 君と部下達の名誉と誇りを守れると考えたのだよ」
「…………………」
「想像するんだ、将軍。君達がそのまま出撃しては、3万人が国境へ向かう1,000㎞の行軍が完全に無駄足となってしまう。あまりにも滑稽に映る」
「…………………」
「その上、事情を知らない世間の者は、将軍は5千体のオーガと、自分が戦いたくないものだから、小細工して仰々しく出撃だけ行い、最初からロイクを捨て駒に使ったとか、あらぬ噂が広まり、独り歩きしかねない。否定してもなかなか信じて貰えないだろう」
「う!」
「そんな事となったら、将軍、君だけの問題じゃない。王国全体の威信にもかかわるぞ」
「…………………」
「ロイクからはな、将軍。君から直接、騎士と兵士へ今回の事情を話すのが宜しいのではないかという相談、提案があった」
「…………………」
「最終的には、命令違反を、ロイクは謝罪。将軍たる君の責任で許す形とし、軍を預かる長の判断として、このタイミングで出撃中止の命令を出すのが、ベストだとな」
「…………………」
「相談の上、陛下も私もロイクの提案に賛成した」
グレゴワール様はそう言うと、無言となったバシュラール将軍をじっと見つめたのである。
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