第187話「あのお、グレゴワール様。 ……5千体のうち生きているのが100体くらい居ますけど」
「はあ、自分は、昨日先行して国境付近へ出撃したと報告を聞きましたが、どうして今ここに彼が居るのでしょうか?」
バシュラール将軍は、怪訝な表情で再び俺をにらみつけた。
俺も納得。
至極もっともな疑問だ。
ここで手を挙げ、発言したのはグレゴワール様である。
「将軍。ロイクはな、忠実に任務を遂行したのだ」
「は? 宰相! こいつ……いや、彼が忠実に任務を遂行した? どういう事でしょう?」
「分からないのかね? 君の言う通り、ロイクは昨日夕方出発し、
「はあっ!!?? か、か、
「うむ、それが人間離れした身体能力を誇る王国執行官ロイク・アルシェという男だ。陛下も私も驚いていたところさ」
「い、い、一頭の馬に乗り、並足で走らせて、普通に50km。馬を何度も替えて、速足で走ったとしても、1日で100km少し移動するのがやっとです! 行くだけでも10日はかかる!! 出発しまだ2日も経ってない。たったそれだけの時間で任務を遂行し、戻るなど、ありえないです!!」
「はははは、それがありえてしまったのだ」
「むむむむ……」
「将軍! 驚くのはまだ早い」
「と、申しますと? まだ何か?」
「うむ、現場へ到着したロイクは、命令違反を犯したのだ」
「め、命令違反を犯した!?」
「うむ、君も知っての通り、ロイクの任務とは、ボドワン・ブルデュー辺境伯の居城を取り囲むオーガどもを、後方から攻撃し、出来る限り倒す。もしくは牽制するというものだ。君達討伐軍の本隊が到着するまで辺境伯の居城が落ちぬようにな」
「は、はい! そう記載された命令書を読みましたし、宰相から聞き及んでもおります」
「うむ、だがな。オーガ5千体が、辺境伯の居城の正門を今にも破壊しようとしていた。正門が破壊され、オーガ5千体がもしもなだれ込んだら、辺境伯と守備隊の安否にかかわる。ロイクはな、義を見てせざるは勇無きなりと我慢出来ず、召喚した使い魔とともに、オーガ5千体へ突撃したのだ」
「ななな!!!??? ば、ば、ば、馬鹿なああっっっ!!!???」
「そう、ロイクがやったのは、確かに馬鹿で愚かな行為だ。いかに辺境伯の命が危うかろうと、命令に違反し、単身でオーガ5千体へ突っ込む。将軍、君なら、やるかね?」
「や、や、やりません!! というか、やれません!!」
「そうだろう、そうだろう。しかし、ロイクは冷静に状況を判断していた。使い魔に陽動を命じ、その隙に敵の首魁オーガキングをピンポイントで狙い、見事! 倒したのだあっ!」
グレゴワール様は、俺の戦いをまるでわがことのように誇らしく語ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
国王陛下専用書斎……
グレゴワール様とバシュラール将軍の会話は続いている。
「オーガキングを……ロイク殿が倒した」
「ああ、そうだ。首魁を失ったオーガどもの群れは大混乱に陥った。ロイクと使い魔は混乱に乗じ、オーガどもを次々に撃破。遂に5千体全てを倒したのだ」
「遂に5千体……全てを倒した」
「うむ、ロイクの活躍で、オーガ5千体全ては討伐され、ボドワン・ブルデュー辺境伯と守備隊は助かり、大破壊は収束した」
「大破壊は収束……」
「うむ、先ほど告げた通り、ロイクは一睡もせず走り戦い更に走り戻って来た。そして王宮へ赴き、陛下と私に経緯と顛末を報告した。これがボドワン・ブルデュー辺境伯のサインが入った報告書だ。……目を通してみたまえ」
グレゴワール様は、バシュラール将軍へ報告書を渡した。
この報告書には、辺境伯だけでなく、俺のサインも入っている。
……………………………………バシュラール将軍は、じっくりと報告書を読んだ。
そして言う。
「宰相のお話し通りの内容ですね。しかし……」
「信じがたいか? まあ無理もないが」
「はい、たったひとりの人間がオーガに勝てるとは……」
バシュラール将軍は、俺の竜退治の話を聞かされてないのかな?
と思ったら……
「ロイク殿の竜退治の話も聞きましたが、この目で見ない事には……」
成る程。
こういう人って居るよなあ。
「はははは、では見せてやろう」
「え? 見せるとは?」
「ロイクは空間魔法を使うのだ。討伐したオーガキング以下5千体の死骸は全て所持しておるぞ」
あのお、グレゴワール様。
……5千体のうち生きているのが100体くらい居ますけど。
俺の心のつっこみをよそに話は進んで行く。
「え、えええっ!? く、空間魔法!? 」
「その前に……将軍、君に伝えておきたい事がある」
グレゴワール様はそう言うと、バシュラール将軍をまっすぐ見据えたのである。
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